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第二章 異世界の王都 転移した彼女 謎の白骨遺体

13 王様との謁見

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 こいつが王様か?
 俺の眼前には、天井から吊るされた漆黒のカーテンが微風に揺れていた。
 そのカーテンの裏側におそらく王様らしい人物がいた。
 玉座に腰を下ろした人の足だけが見える。カーテンの丈がそこまでしかないからだ。
 
 なんかイヤらしいな。
 漆黒のカーテンはすけすけで、まるでデニールの数字が20くらいの黒いストッキングのようだ。
 その裏側で、表情のわからない顔を見せる王様は、果たして何者なのだろうか?
 
 近寄ってみると、これ以上動くなと言わんばかりの鋭い目線を向ける近衛騎士たちの姿があった。
 近衛兵たちは壁に沿って立ち並んでいる。彼らはみなレベル50以上なのだろう。『サーチ』しなくてもわかる情報だった。
 
 俺の立っている位置は、謁見の間の中心点だった。
 天井を仰ぐとガラス窓になっていて、太陽の光りがさんさんと射し込んで、俺は浴びるように照らされていた。
 
 では、ここから話しかけてみるとしよう。普通に、肩の力を抜いて声をかける。
 
「あの……王様、ちょっといいか?」
「……」
「あの……王様?」
「……」

 返事がない。
 ここ、本当に王様の謁見の間でいいよな?
 そんな疑問を俺が抱いていると、近衛兵たちが、一斉に槍の石突きを地面に落とした。
 ガツンという地鳴りが謁見の間に響くと、ジュルリ……とよだれをぬぐう音が聞こえてきた。
 
「うぉぉぉ、寝とった……ん? 誰かおるのぉ?」

 寝とったんかい!
 俺は思い切りツッコミを入れようとしたが、やめておいた。
 相手は一応、王様だ。機嫌を損ねられてもいかん。ここは低姿勢でいこう。
 
「あの……王様、ちょっといいか?」
「ん? よく聞こえんんん?」
「あのー! 王様っ!」
「は? もしもーし……もしもーし……」
「こっちは聞こえてるよっ! 王様ぁぁぁぁ!」
「ダメじゃ、耳が遠すぎて聞こえんもん……もうちょっとこっちに来てもらってもよきかな?」

 逆にいいのかよ?
 近衛兵たちの鬼のような形相が向けられたが、俺は王様に近づいた。
 デニール20から透ける王様の顔は、優しいおじいちゃんって感じだった。
 王様に好感が持てたので、もっと気楽に話をしてみる。
 
「もしもーし……王様ぁ聞こえる?」
「もしもーし、ああ、聞こえる聞こえる、で、誰?」
「ああ、俺だよ、オレオレ」
「は? オレ? もしかして、フリージアか? なんじゃ、そんな男みたいな声で」
「俺は男だってば」
「ん? フリージアは朕の娘じゃが……結婚が嫌になって男に性転換したか?」
「ああ、すまん、俺は探偵だよ、セガール・ベルセリウスから聞いてないか?」
「なんだ、探偵さんか……びっくりした。聞いとるよ、さっき風魔法『エアメール』が届いておった」
「すご……そんな風魔法あるんだ」
「ああ、じじいの朕でも『エアメール』くらいできんとな。と言っても手紙を風魔法を使って目的地まで飛ばすだけじゃが……最近、王都内でもままならん、老化で魔力が落ちとる、とほほ」
「……そっか」

 この王様、めっちゃいい人だな。同じくらい権力があると言われる国務大臣のセガールとは大違いだ。よし、どんどん話を進めてみよう。
 
「あの、王様って最近、困ってることない?」
「ああ、二つリストがあるぞ、一個は殺人事件と、もう一個はフリージアがなかなか結婚しないことじゃ……ああああ! 誰か解決してくれんかのぉ」
「俺、解決できるけど?」
「ん?」
「俺、探偵なんだ。どんな事件も解決できるよ」
「おお! では、探偵さんに殺人事件の解決を依頼していいかのぉ?」
「本来なら警察、いや、騎士が事件を捜査するのだろうけど……いいよ。でもその代わりさ……」
「なんじゃ?」
「ちょっと言いにくいんだけど……」
「いいぞ、なんなりと申せ、金貨か? 女か? 領地か?」
「その王女とセガールの息子ジャマールの結婚を許してくれないか?」
「どうぞどうぞ」
「え? そんな簡単に?」
「ああ、王女の結婚はこっちから願いたいところじゃ、さっき困っておることリストで話したであろう。あぁ、もう年頃の娘なのに結婚しないとかありえんっ」

 そんなに困ることか?
 ちょっと大げさ過ぎると思い、さらに王様に質問してみた。
 
「王様、他に子どもはいないのか? 王子とか?」
「王子なら三人おる。だが娘には恵まれなくてのぉ、結局、娘を授からないまま、朕の妃は亡くなってしまった。あぁ、もう七年も前の話じゃ……」
「ん? 王女は実の娘ではない? そういうことか?」
「ああ、そうじゃ……実はな……あんまり他の平民には言わないでくれよ……」
「わかった……教えてくれ」
「……でもなぁ、どうしよっかな。国家機密っていうかプライベートなことでもあるし……」

 おい、じじい、いいから早く言え。
 と、ツッコミたく気持ちを抑え、信頼関係を築くことにする。
 
「俺は探偵です。口はオリハルコンのように硬い」
「……じゃ、もうちょっとこっち来て」
「りょうかい」
 
 俺と王様の距離は、あと三歩ほどのところまで来た。
 そのとき、ふと人の気配を感じた。近衛兵ではない者のようだ。その佇まいは文官といった感じか?
 漆黒のカーテンの裏側で、袖の長い衣が揺れ、何やら詩人のように台帳に筆をふるっている。おそらく書記官なのだろう。
 すると王様は重々しい口を動かした。
 
「あれは……たしか七年前の冬、朕の妃が亡くなった次の日の朝、ネイザー城の大聖堂に花壇があるんじゃが……突然、煙のように一人の少女が現れたんじゃ」
「……転移者か?」
「朕にはそういう難しいことはわからぬ……だが、少女は記憶を失くしておってのぉ」
「え? 記憶喪失か?」
「そうじゃ、困ったことにのぉ。そこで王都ネイザーランドの頭脳である国家錬金術師を呼んだ。彼女の見解によれば、レベル50の近衛騎士の目を忍んで、明朝のネイザー城に潜入することなど、不可能に近いと申した」

 錬金術師というフレーズが俺の頭の中でかすめた。
 たしか、天下一商店街の質屋で会った、赤髪の女性のことかもしれない。
 よし、ちょっと王様にカマをかけてみよう。
 
「つまり、フリージアは次元を超えて王都にやってきた……そうアーメイは推理したんだな」
「ん? 探偵さん、錬金術師アーメイを知っとるのかい?」
「ああ、顔見知りだ。一回しか会ったことないがな」
「アーメイは天才、いや、超天才じゃからな。たまに王都で発生する超常現象の捜査を依頼するんじゃ」
「ほう、それなら今回の殺人事件も依頼を?」
「もちろんじゃ、だがアーメイは戦闘タイプではないから、事件性の高い現象は騎士団長とともに捜査するよう依頼しておる」

 王様の言葉に反応した俺の頭の中で、大きな赤い双子の月が蘇った。
 月を見ると犬に変身する男のことを思い出す。
 
「騎士団長って……もしかして犬飼……じゃなかった、レアル団長のことか?」
「そうじゃよ。そのレアル団長に殺人事件は依頼してある。もっとも国家犯罪対策課の指揮官がレアル団長であるぞい。それにしても、探偵さんって顔が広いのぉ」

 王様も驚いていたが、横にいた書記官のほうがもっと驚いていた。
 もしかすると、犬飼という発言に反応したのかも知れない。
 王様は耳が遠いから大丈夫だが、書記官に俺の実力の片鱗が垣間見えてしまったか?
 まぁ、それもいいだろう。あえて噂を流しておこうか。

「で、アーメイはその少女について、どう捜査したんだ」
「うむ、アーメイの実況見分によると、少女は花壇に咲く赤い花を見つめながら、フリージア、そうつぶやいたそうじゃ」
「赤いフリージア……水仙が咲いていたのか?」
「いや……そんな名前の花はネイザーランドにはないんじゃよ。よって国家錬金術師アーメイの最終的な判断は、少女の名前をフリージアとし、他の惑星から飛んできた神の使いとして、ネイザー城で管理すること、つまり王女となることとしたのじゃ……いや、正確に言うと……ちょっと違うかのぉ」
「ん? どういうことだ?」
「フリージアは城から出られないんじゃ」
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