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第二章 異世界の王都 転移した彼女 謎の白骨遺体

12 風呂あがりは飲みたいよね そんなノリで王宮入場

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 温泉から外に出ると隣にカフェテリアがあった。
 喉が乾いていたしちょうどいい。俺たちは日当たりのいいテーブルの椅子を引いて腰を下ろした。
 早速、店員のお姉さんがメニュー表を持ってきた。
 みんな興味津々と言った顔を近づけてメニュー表をのぞき込む。
 エールという麦酒があったので、俺は店員のお姉さんにそいつを注文した。
 あかねちゃんは紅茶、リンちゃんはミルクを注文した。
 しばらくすると、ドリンクが届いた。
 
「かんぱ~い」
 
 グラスを重ねた俺たちは、勢いよく喉を潤した。

「ぷは~っ、うめっ」

 なんて言って感嘆の声を漏らした俺を見据えたあかねちゃんが、ポツリと言う。
 
「王様に謁見する前によく飲めるな……」
「いやぁ、湯船に浸かってたら悟ったよ……もっと気楽にいこうってさ」
「……だんだん素が出てきたな」
「ああ」
 
 俺はうなずくと、さらにエールを胃の中に流し込んだ。身体が熱くなった。
 あかねちゃんは微笑むと「じゃあ、私も本音で話そう……」と言ってつづけた。
 
「魔王を倒して帰還しよう。そして、地球で……」

 俺とリンちゃんはあかねちゃんの言葉を期待しながら待った。
 
「オフ会するぞぉぉぉぉ!」

 俺たちは大いに笑い合った。それが答えだった。
 
「もちろんですよぉ、あかねさまぁ」とリンちゃんがにっこり笑い。
「ああ、そうだな」と俺はうなずいた。

 すると馬のいななきが聞こえてきた。
 さらに男性のゴホンという咳払いがすると、やかましい声が響いた。
 
「おい! 平民ども、王様のもとへ謁見に行かなくていいのか?」

 あ、忘れてた。
 赤胄の騎士アルバートが腕を組んでイライラしながら、俺たちを睨んでいる。
 その周りでは、子どもたちが馬をなでて遊んでいた。だから馬が鳴いたのだ。
 馬に乗る騎士は憧れのヒーローのようだ。
 子どもたちは、騎士アルバートを羨望の眼差しで見つめ、屈託のない天使のような笑い声を響かせる。
 
「ああ、すまん、行くわ」

 俺は残っていたエールを一気飲みした。少しだけ酔った。
 あかねちゃんとリンちゃんは、もっとお喋りしたかったのだろう。二人とも肩を落とし、溜まったガスを抜くような微笑みを交わすと、立ち上がった。
 勘定は、例によってベルセリウスのツケにした。
 
「子どもらよ、ちょっと馬が動くからどいてね、危ないから」
「はーい」

 へぇ、見直した。
 騎士アルバートは子どもと話すときは優しいんだな。
 俺はあかねちゃんとリンちゃんをさきに馬車に乗せてから、つづけて乗り込みドアを閉めた。
 馬車の中は狭く、まるで観覧車の中のようだった。向かいに座る二人の顔が、ち、ちかい……。
 二人は楽しそうに異世界について談義していた。
 俺はその話に耳を傾けながら、ゆったりとした馬車の揺れを楽しんだ。
 
 しばらくすると、車窓からの眺めが、中世ヨーロッパから一変した。朱に染められた木造建築、金色の輝く石像、噴水の池に咲く蓮の花、それに天高くそびえる五重塔は、まるで絵に描いたようなアジアンの風景だった。

 パカラ、パカラと鳴り響く馬の蹄がやんだ。
 すると「さぁ、降りろ」と言う騎士アルバートの声とともに、馬車のドアが開け放たれた。
 馬車を降りた俺たちの目に飛び込んできたのは、この世のものとは思えない光景だった。
 真っ白な大理石が敷き詰められた広場に、それは天から血でも落ちてきたような朱に染まる二層の楼閣城がそびえ立つ。
 
 意外なことに、いや、意図的かも知れないが、人がまったくいなかった。
 俺たちのことを、城の中から見ているのか、それとも本当に誰もいないのか、なんとも言えない不思議な空間だった。

 俺たちは騎士アルバートについていくことしかできなかった。
 その途中であかねちゃんに「ここはまるで紫禁城だな……王様を見たことあるか?」と尋ねたら「あるわけないだろ、口を慎め……」と言いつつ、サッと俺のほうに顔を近づけると、耳もとで囁いてきた。
 
「どこで、どんなスキルを持ったやつがいるかわからん……気をつけろ……」

 俺は黙って小さくうなずいた。
 それでも頭のどこかで隙があったら王様を『サーチ』してやろうと考えていた。
 
 楼閣城に近づいていくと音色が聴こえた。
 耳をすますと二胡という弦楽器の音だと察した。
 開けられていた扉を潜り、入城してみると、やはり二胡を奏でる女性たちがいた。
 天の羽衣に身を包み、サラサラと流れる黒髪が舞うその美しさは、なんと表現したらいいのだろうか。
 天国か、地獄なのか、いや、その中間地点、煉獄か……。
 わからないまま先を行く。振り返らず進んでいく。王様に会うために。
 
 女たちが舞う空間から一変。
 次のエリアからは黒い軍服を装う近衛兵が壁際に、ズラッと並んでた。
 その手には三叉の槍をきらめかせ、いかにもネズミ一匹たりとも賊は入れさせんぞ、と言わんばかりの顔を見せる。
 
 騎士アルバートが立ち止まった。
 空気が変わり、冷たい風が吹くような、とても小さな声でこう言った。

「ここからは平民、おまえ一人で行け」

 するとリンちゃんが場違いな甘えた声を出した。
 
「えぇ~! あたしも御主人様と行きたいですぅ」
「ダメだ、平民どもがぞろぞろと王様には会えない。控えろ」
「チェッ、平民じゃないし……猫だし」

 リンちゃんは騎士アルバートをキツく睨みつける。
 ねぇ、空気を読もうか? ちょっとだけシリアス展開なんだからさ。
 するとあかねちゃんがリンちゃんの肩を後ろから抱きしめ、

「和泉、行ってこい。まかせたぞ」

 と、俺の背中を言葉で押してくれた。
 
「ああ」

 俺は一言だけ発すると、朱と金で描かれた鳳凰が舞う巨大な扉に手を置いた。
 
「ん?」

 違和感を覚えた。
 すごく重たいからだ。どういうことだろう?
 
「おい、アルバート、これ? 開くのか?」
「わからん。私は開いているのを見たことがない」
「は?」
「私が殿下から受けた勅命は、探偵に鳳凰の扉を開けさせよ、ということのみ」
「それだけ?」
「ああ、だから、サッサと開けろ」
「いや、めちゃくちゃ重くて開かないだが」
「そんなことないだろ? 嘘つきはサキュバスの囁きだぞ」
「じゃあ、おまえやってみろ」

 騎士アルバートは、やれやれとか言いながら、鳳凰の扉に手をかざした。
 
「ほら、開くじゃ……え?」

 驚いた騎士アルバートが顔を真っ赤にして力を込めている。
 
「ぐぎぎぎぎぎぎぃぃぃ! はっ? バカな! 私はレベル29のパワーだぞ!」

 さらに力を入れてた。扉に描かれた鳳凰は、暑苦しい騎士アルバートに無表情で冷たい目線を送っている。

「どうした? やっぱり開かないだろ?」と俺は尋ねた。
「鍵がかかってるのでは?」リンちゃんがつづける。
「単純にパワーが足りないんだろ?」とあかねちゃんが結論づける。

 近くにいた近衛兵たちが、クスクスと笑っている。
 不思議に思ったリンちゃんが「何がおかしいのですか?」と声をかけて尋ねると、一人の近衛騎士が口を開いた。
 
「レベル50以上だ……鳳凰の扉を開けられる力を持つ者は」

 そう言ってから、隣に並ぶ近衛兵たちと笑い合っている。
 バカにされたような気がしたのだろう。
 騎士アルバートが必死になって騒ぐ。

「嘘だ嘘だ、鍵がかかってるんだろ? そうに違いない。開けてくれ、鍵を開けてくれ」

 と言い張り、また力を込めて開けようと頑張る。
 
「ぐぎぎぎぎ! あ、ちょっと開いた気がするぞ、あはは」

 と騎士アルバートが半笑いすると、リンちゃんがツッコミをする。
 
「1ナノメートルも開いてませんが?」

 近衛兵たちは、一瞬だけ爆笑すると、あ、いかん公務中だ、と口々に言った。
 ピシッとまた背筋を正し、握っている槍の石突きを地面に落とす。
 
 ガツンという音が響き、周辺の空気が緊迫感に包まれた。
 
 それなら俺のフルパワーでやってみるか……と思い「どけ」と騎士アルバートの肩を叩くと、鳳凰の扉に両手をかざした。
 
「ふん!」

 鳳凰の翼に隙間が空き、一筋の光りが射し込む。
 とともに、ゆっくりと扉も開いていく。
 
「じゃ、行ってくる」

 あかねちゃんとリンちゃんは、俺の背中に向かって小さく手を振る。
 謁見の間に入ると、鳳凰の扉は自然と閉まっていった。
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