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第二章 異世界の王都 転移した彼女 謎の白骨遺体

3 天下一商店街 質屋 錬金術師チュ・アーメイ

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「ごちそうさま」

 食事を終えた俺は、合掌して大きな声を発した。
 すると俺の食いっぷりに感動したか、漁港の女性たちが「あ、それ置いといてください」と言って汁椀を示した。
 俺は微笑みで返すと、跳ねるように立ち上がった。体力が回復したように感じ、筋肉がグッと盛り上がる。
 
「よっしゃ! HPは良さそうだな」
 
 そこでステータスを確認するために、人気の少ないところまで移動した。
 背後から漁師や女性たち、ジョゼくんとお母さんの視線を感じたので、振り返って手を振った。
 みんな俺に手を振り返しながら「また来てね~」と叫んでいた。
 
 ふと足下を見ると、リンちゃんも黙って俺のあとをついてくる。
 よしよし、本当に賢い猫ちゃんだ。食べたあとで眠たいだろうけど、ちょっと待っててね。
 俺は指先をパチンと弾いて、自分とリンちゃんのステータスオープンした。

『 和泉 HP980/980 MP 20/820 』
『 リン HP340/340 MP  0/280 』

「えっ? ご飯食べただけじゃあMPは回復しないのか……困ったな」

 それと同時に、俺のMP消費が激しいことに気づいた。
 もしかしたら無属性魔法『ライトニング』はかなりMPを消耗するかもしれない。
 うーん、田中さんを救いに行く前に、MPも完全回復したいところだよな。

 本来なら頭脳戦でなんとかしたいところだが、今回はセガール・ベルセリウスとの一戦が待っている。
 もしも仲間のあかねちゃんに、セガールが手を出してたらと思うと、一発ぶん殴ってやらなきゃ気がおさまらない。
 
 まぁ、別に肉弾戦でも構わないが、魔法でびびらすという手が使えないのはちょっとつらい。
 ていうか……だいぶ俺の頭が冒険者じみてきたな。
 はたから見たら、俺の考えていることは、ゲームオタクのヤバイやつだろう。これはマズイ兆候だ……。
 
「サッサと地球に帰還しなければ、そのうちスローライフしてぇ、とか言い出しかねないぞ」

 したがって当面の目標は魔王を倒すために、まずは船を手に入れるとしよう。
 そのためには、あかねちゃんが必要だ。食料がなくては餓死して死んでしまう。ゲームオーバーだ。
 
「うーん、MP20では、ライトニングは使えないだろうなぁ」

 俺は試しにやってみた。右手を掲げ、詠唱する。
 
「月のひか……いや、いまは昼間だろっ」

 自分一人でツッコミを入れてしまった……。
 非常にやりにくい。「ニャ~ン」なんて猫のリンちゃんはあくびしている。

「しょうがない……MPを回復するためにエーテルでも買いにコンビニでもいくか」

 と俺は口に出した瞬間、異世界にコンビニなんかないだろうと思った。
 まぁ、とりあえず、俺たちは漁港から王都の中心地へと向かうことにした。
 
 王都の道は綺麗な石畳に舗装され、大通りは人や荷車を引いた馬が行き交っており、活気に満ちあふれていた。
 漁港からまっすぐ道沿いを歩くと素晴らしい噴水があった。
 まるで水が花ように咲き誇り、舞い散る水しぶきが、キラキラと太陽の光りに照らされている。
 
「うーん、スマホがあったらインスタにアップしたい景色だ」

 感動しながら歩を進めると、奥のほうに人だかりがあった。
 近づいてみると、左右対象に店が立ち並ぶ商店街になっていた。

 商店街の入り口では、露店で道ばたに商品を並べる商人たちが、

「さぁ、いらっしゃっい!」
「掘り出し物だよ」

 と往来する往来する人々に声をかけ、威勢よく商売をしている。
 
「うわぁ、屋台みたいだな」
「ニャニャン」

 リンちゃんに話かけながら歩いていると、俺のほうに男の声がかけられた。
 振り向くと露店の商人がにっこりと笑っていたので、立ち止まってしまった。
 
「ちょっとっ、そこのフードの旦那! ちょっとちょっと」
「ん?」

 俺はフードを深く被っていた。顔を見られたくないからだ。
 サッとカウンター下の商品ラインナップを見てみる、するとその中に見覚えるのある小瓶があった。
 まさかと思い、一歩踏み込んで近づいてみる。
 
「あ、この黄色の液体は……」

 俺のつぶやきをかき消すように、店主が声をかけてくる、
 
「その抱えてる動物って猫だろ? 売ってくんない?」
「無理……この子はぺ……いや、この子は仲間だから売れない」
「そっか……猫は貴族たちに高値で売れるんだけどな……てっきり旦那は質屋にその猫を持ってくるものとばかりに思ってやした、すいません」
「……許さん」
「え?」
「許して欲しかったら、そこのエーテルをくれ」
「そ、それはちょっと難しいな……エーテルは貴重品なんだ。二千Gのところ半額の千Gにしてやるよ、それでどうだ?」
「いや……金がないんだ」
「はぁ? 旦那ぁ、金貨持ってないのに天下一商店街に来たのか?」
「天下一商店街? すげぇネーミングセンスだな……」
「旦那ぁ、頭は大丈夫か? やれやれ……とんだ貧乏神に話しかけちまったぜ、さ、あっち行ってくれ」

 しっしと店主に手を振り払われてしまった。
 俺はちょっとムカついたので、グイッとカウンターに身を寄せて店主に質問した。

「さっき言ってた質屋ってなんでも買ってくれるのか?」
「ん? ああ、だいたいな。でも、高値がつくからは知らんぞ」
「そっか、どこにある?」
「この天下一通りを真っ直ぐいくと武器屋があるんだが、その隣の細い道を入っていったところにあるぜ」
「ありがとう」
「お、おお……なんだけっきょく猫を売るんなら俺が買ってやるのに」
「リンちゃんは絶対に売らんっ!」
「……こわ」

 俺の剣幕にびっくりした店主は腰を抜かしていた。
 リンちゃんを買うなんて言うから、非常に腹が立ってきた。
 と同時に、脳裏であかねちゃんの笑顔が浮かんだ。ちょっと心配になってきた。
 なぜならセガールに奴隷として迎えられたという情報があるからだ。
 奴隷という制度がどんなものか知らないが、今の俺には良いイメージはない。
 セガールが可憐な美少女のあかねちゃんに、あんなことや、こんなことをしているのではないかと思うと……ああ、大変だ。
 
「くそっ、急がないと!」

 俺は走って質屋に向かった。武器屋を見つけ、その隣の細道に入る。
 そこは建物の影になって薄暗く、太陽の光りが射さない裏通りだった。
 しばらく歩くと隠れるようにひっそりと『グッドアスニュー』という看板を掲げた店があった。
 ゆっくり戸を開けて店の中に入ってみると、カウンターに座る店主の老婆、客であろう若い女性と少年の三人がいた。

 俺は店内を物色しながら、二人の会話に耳を傾けてみた。これは探偵の癖みたいなもんだ。別に気になるわけではない。

 少年は彼女の執事なのだろうか、彼女は少年に向かって、

「これも買う、あ、これも買う」

 と言っては商品を、少年の持つカゴに投げ込んでいる。
 すると、みるみるうちにカゴはいっぱいになってしまった。
 綺麗なお姉さんに振り回される少年か……なかなか良き眺めだ。
 
「アーメイ師匠……もうこのぐらいに……」
「えっ? 何言ってんのポカラ! 月一の買い出しなんだからいっぱい買うわよ」
「お……おもい……」
「どうせ国家錬金術研究所の経費なんだからじゃんじゃん使わないとっ」
「師匠……目がGに輝いてますよ……」

 なんなんだこいつら?
 俺は首を傾けながら、店内を一周すると、店主の老婆に声をかけた。
 
「これ、買ってくれないか?」
「ん?」

 俺はフードを外し、マントをめくって内ポケットから小瓶を取り出すと、老婆の眼前にあるカウンターの上に置いた。

「何じゃこれは?」
「レレリーの種だ」

 老婆のかけた眼鏡が怪しく光った。と同時に足元から顕微鏡を取り出した。
 老婆は小瓶の蓋を開け、ピンセットでレレリーの種を摘むと、薄いシャーレの上に乗せた。
 ぷるぷると震える指先で摘んだシャーレを、メカニカルステージにセットした。見ているこっちが落とさないか心配になる。 
 すると眼鏡レンズを覗いた老婆が、腰を抜かして驚いた。
 
「ひっひゃあああ! これは悪魔の種じゃぁぁぁ」
「え?」

 俺は凍りつくように背中が固まった。
 そんなに叫ぶということは、やっぱり質屋に持ってきてはいけない代物だったか?
 
「これはちょっとうちでは買い取れない……麻薬だもの」
「ふぇ……麻薬……」

 まぁ、そうだよな、知ってるけど、ここは異世界だから買ってくれるかなって思ったんだ。
 どうしよう、警察に通報されるかな? いや、警察じゃなくて騎士か?
 
「私が買い取ろう!」

 美しい声を上げたその主は、さっきから店内にいた背の高いアーメイと呼ばれていた女性だった。
 燃えるような赤いロングヘア、双眸はシルバーで、服装は男物の軍服という格好をしていた。
 一方、ポカラと呼ばれていた少年のほうは、パッと見は普通の冒険者といったところで、少し童顔な印象を受けた。
 赤髪のアーメイは美醜を見極めるような審美眼で俺を見つつ、こう尋ねてきた。
 
「いくらで売ってくれるの?」
 
 どうしよう……いくらで買い取ってもらおうか……。
 そう考えていると、隣にいる少年ポカラが諭すように声を上げた。
 
「アメイ師匠、研究経費なんですから、店から買わないと領収書が出ないですよ」
「あ、それもそうか……おい、婆ちゃん、とりあえず薬草として買い取ってよ」

 老婆は、あわわ、と慌てていたが、「まぁ、アーメイちゃんがそう言うなら」と了承してくれた。
 アーメイと呼ばれる女、いったい何者だ?
 訝しげな顔をした俺に気づいたのか、アーメイは俺のほうに近づくと口を開いた。
 いや、その目線は俺ではなく、猫にリンちゃんだった。やっぱり俺のことなんか眼中にないわけね。
 
「あら……猫ちゃん、こんにちは、私の名前はチュ・アーメイよ」

 俺が「チュ?」と訊き返すと、アーメイはつづけた。

「ええ、チュよ、でもキスしたいわけではないから勘違いしないでね。そして大衆は私のことを天才錬金術師と言うけど、それは愚弄に値する、なぜなら私は超天才錬金術師なのだからっ」

 また変なやつが現れたな……。
 関わりあいたくないタイプだ。レレリーを売ったら即去りしよう。
 
「一万Gでいいよ」

 と俺は言うと「交渉成立ね」とアーメイは言ってカウンターにあったレレリーの入った小瓶を掲げた。
 中身を覗く彼女の瞳は、怪しい光りを宿していた。
 
 俺は老婆から「一万金貨がいいか? 千金貨がいいか?」と尋ねられたので、「千金貨を十枚で」と答えた。
 金貨を受け取るとパンツのポケットにねじ込んだ。
 金貨というものをはじめて握りしめたが、なかなか嬉しい感触があった。
 金貨は1000Gと刻印されたものが十枚だった。
 じゃらじゃらとポケットの中で踊る金貨は、なんとなく心も踊るようだった。
 
 店を出ていく俺のことを、アーメイはずっと見つめながら手を振っていた。
 やがて背後から、こんな別れの挨拶が聞こえてきた。
 
「サイチェン」

 ああ、と言ってさりげなく手を振った俺だけど、まったく振り向かなかった。
 心の中ではもう会うことはないだろうなと思い、また深くフードを被った。
 店の戸を閉め、路地に出あと、しばらく立ち尽くした。

「……念のため『サーチ』しておくか」

 俺は店の小窓をのぞいて、アーメイを見つめた。
 そして指を鳴らしウィンドウを放つと、アーメイのステータスがオープンされた。
 
 
『 朱 科学者    性別:女  』
『 レベル:68   年齢:19 』
『 身長:172   体重:53 』
『 スリーサイズ:87・58・89』

『     ちから: 25 』
『    すばやさ:120 』
『   みのまもり:110 』
『    かしこさ:255 』
『   うんのよさ:240 』
『  さいだいHP:330 』
『  さいだいMP:999 』
『   こうげき力: 30 』
『    しゅび力:150 』

『 EX: 6350000 』
『  G:  256000 』

『 スキル:アルケミスト  』
『 のろい:コレクション  』
『 まほう:水・土・火・風 』↓

「経験値がすげぇな、魔法を駆使するタイプか? 呪文はまた暇なときにゆっくり確認しよう」

 それにしても……この女性も、呪われている。『コレクション』つまり蒐集しゅうしゅうだ。
 そして名前からして、大陸の血を感じさせる。
 
「敵に回したくないな」

 俺は直感的に思いついたことを、ポツリとつぶやいていた。
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