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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

24 女湯をのぞくというテンプレ 

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 風呂はまず女性と子どもたちから入浴した。
 そのため村の男性たちは、いったん北のほうにある休憩する建物においやられる形となったが……。
 まぁ、そのあたりは村の女性たちもわかっているだろう。男たちの欲望があふれていることを。
 
 結局、この場に残っているのは俺、青年、少年、狩人の四人だけとなった。
 しばらくすると狩人は「夜行性の獲物を狩りにいく」と言って森の奥に消えていった。
 なんとなく気になって狩人の背中を狙って『サーチ』してみる。
 
『 ゲイル ハンター せいべつ:おとこ 』
『 レベル:27   ねんれい:23  』

『     ちから: 96 』
『    すばやさ:120 』
『   みのまもり: 58 』
『    かしこさ: 84 』
『   うんのよさ: 67 』
『  さいだいHP:140 』
『  さいだいMP: 50 』
『   こうげき力: 75 』
『    しゅび力: 68 』

『 EX:  115890 』
『  G:    2000 』

『 スキル:弓       』
『 のろい:        』
『 まほう:風       』↓

「ふーん、なるほど、歳は俺より三つ下か……さすが野生動物を狩っているだけあって貫禄のある顔をしている。家庭を持っているのでてっきり三十代かと思った」

 しかしながら、このレベルの能力数値を基準とするならば、俺のレベル95というものは、おそらく桁違いの能力と言えるだろう。しかし自分がどれだけ強くても食糧難になれば餓死するだろうし、残酷な『のろい』をかけられた俺は絶望しかない。
 
 逆にこの狩人のようにノーマルレベルでも『のろい』がなく、自由にコツコツと魔獣を倒して経験値を稼ぎレベル上げをした方が楽しいのではないかと思えた。それに『まほう:風』がリンちゃんと一緒だと気づいた。なんか羨ましいなぁ。
 
「お兄さんはのぞきにいかないのかい?」

 ぶつぶつと独り言をつぶやいている俺に向かって、横から王都帰りの青年が、そんな誘惑じみた言葉をかけてきた。のぞきにいく気力なんて、俺にはない。
 
「君はどうなんだ?」

 と俺が尋ねると、青年は「王都に彼女がいるんだ……女湯をのぞいたことがバレたら怒られちゃうよ」と自嘲気味に笑った。
 
「じゃあ、王都にはよく上洛するのか?」
「そうだな、週一で行ってるよ。彼女が寂しがるからな」
「ふっ……幸せそうだな」

 すると側にいた少年が「いいなぁ彼女がいて……」とつぶやいた。
 その言葉に反応した青年は、少年の肩を小突くと言った。
 
「そんなに彼女が欲しいならエミリアちゃんに告白しろよ」
「いやいやいや! あんな可愛い子、僕なんかじゃ釣り合わないよ」
「そうか? 年齢的にもお似合いだと思うけどな……」
「そりゃあ……同い年だけど……」
「まぁ、とりあえず告白してみろよ。付き合えたら色々なことができるぞぉ」
「たしかに……付き合ったらみんなに自慢できるな……」
「そうだそうだ、うらやましいぞぉ」

 はぁ……青春かよ……いいなぁ……アオハルとも言えるなぁ。
 彼らの会話を聞いてそう思った。女の子と普通に恋愛できるなんて羨ましいぜ。
 自分にかけられた『のろい』のことが頭の中を巡り、俺は立ち上がることができない。
 
 暗い影を顔に貼り付けて、肩を落として塞ぎ込むことしかできなかった。
 だってそうだろ? 前世で彼女もいなかった俺がだ。異世界に来たら恋愛対象になる年齢の女性と触れ合うと気絶してしまう『のろい』をかけられるなんて……この異世界、恐ろしいほど悪意を感じる……クソ! 神よ! 見てるなら出てこいや!
 
 だんだんわかってきたんだ。
 俺にかけられた呪いがどんなものであるか。それは、女性に触れられると気絶するというものだ。そしてそれが発動する条件はどうやら、女性の年齢にありそうだ。

 現時点で実証があるのは、十四歳の少女である田中さんに触れられても気絶することはなく。二十四歳のイザベルさんに触れられたら気絶した。つまりステータスにあった『のろい』の対処法は何歳なら触れても大丈夫なのかということを実証することにある。
 
 はぁ……とは言え、実証するために実験することが恐ろしい。
 気絶してしまう年齢が明るみになったら、俺は正気でいられるだろうか? いやいやまったく自信がない。というかぶっちゃけると、異世界で彼女とかできたらいいなぁ、なんて思ったりしてた。だって前世ではどうしても行方不明になった彼女のことが頭から離れず、それ以来、彼女が一切できなかったからだ。
 
 それでもやっと大人になって吹っ切れてきたときに、運良く二階に住んでるお姉さんが俺に好意を抱いてくれたと思ったら突然、俺は異世界に飛ばされた。
 
 ひどい……ひどいよ……神様のいじわる……。
 地面ばかり見ている俺の目に、大きな瞳がのぞきこんできた。
 
「わぁぁぁ!」

 びっくりした俺は思わず叫びながら顔を上げた。
 見覚えのある顔がそこにはあった。猫娘であるリンちゃんが立っていたのだ。
 
「御主人様ぁ……そんなに驚かないでくださいよ。こっちまでびっくりしました」
「あ、リンちゃんか……どうしたの? 風呂はいいのか?」
「何を言ってるんですか? あたしは猫だから風呂なんか入りませんよ。水の中に入るなんて恐怖でしかありません」
「そうだったのか。それは失礼した」
「いえ……それにしても御主人様はいいんですか?」
「何が?」
「のぞきにいかなくて?」
「ふぇ?」

 嘘だろ……消えた男たちはのぞきにいったのか?
 とんだ変態たちだ。いや、男なんてそんなもんだろう。呪われた俺が女々しくておかしいのだ。心のどこかで、どうせ女に欲情したところで女に触れた瞬間に気絶するんだったら、はじめから女なんか見ないほうがいいと思っていた。
 
 はぁ、最悪だ……死んでもないのに異世界に飛ばされて、そのあげく果てはお姉さんに触れたら気絶する『のろい』をかけられるなんて……クソ……。
 
「御主人様……大丈夫ですか?」
「……」
「呪いのことで落ち込んでいるのなら……」
「……」
「あたしを抱いてもいいですよ」

 ぽむんっと柔らかい感触が俺の体を包み込んだ。
 なんとリンちゃんが俺の身体に抱きついているではないか! 
 温かい……肌触りはもふもふとした毛並み、ドクンドクンとお互いの心臓の音が共鳴しあって心が踊る。
 
 うわぁ……こんな気持ちのいい感覚になったのは生まれて……いやいや、生まれて初めてではない。そうだ……こんな甘い感情を抱くのは初めてではない。そうだ……思い出した。これは好きな女の子と触れあう感覚だ。しまった……俺はバカだ……こんな大事な感覚を忘れていたなんて。
 
 あれは高校二年の遠い夏の日のことだ。
 初めてできた彼女と二人きりになったときに、俺は一生に一度の幸福と絶望を同時に経験した。幸福なことは単純なことだ。普通に好きな女の子ができて、しかもその女の子が俺のことを好きで、抱き合って、見つめあって愛し合って、心臓が爆発しそうなほど喜びに満ちあふれたっけ……ああ、すげぇ懐かしい。
 
 一方、絶望は彼女が行方不明になったことだ。
 もう十年も昔の話になる。ダークな経験なのであまり思い出したくないというのが本音だ。
 結局のところ俺は、この絶望が心に大きな穴を空けていて、いくら幸せを願ったところでその暗くて陰鬱な穴に幸せな出来事は落ちていって回収できないことになっていたのだ。
 だからこんなふうに美少女に抱かれても、リンちゃんは猫娘の動物なわけで恋愛感情を抱いてはイケナイ……。
 つまり、好きになってはイケナイわけだ。
 幸せはまた、絶望の穴に落ちていく。
 
「ちょ……リンちゃん……何やってるの?」
「あたしなら触れても大丈夫でしょ? だから御主人様ぁ泣かないでください」
「な……泣いてねぇし……」
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