異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

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第二章 異世界の王都 転移した彼女 謎の白骨遺体

1 王都ネイザーランドへの上洛 

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 王都ネイザーランドは、白亜の建造物として、東の地に鎮座していた。
 荒凉たる大地には長方形の巨大なカーテンウォール幕壁がそびえ立ち、難攻不落の要塞を感じさせる。

 そこには、王を守護しているような朱の楼閣城、天高く伸びる五重塔、白亜の宮殿、円柱の塔、異世界の神々をモチーフにした石像が華々しく並んでいる。それはまるで絵に描いたような神秘的かつ、幻想的な風景で、失われたはずの超古代文明を彷彿とさせていた。
 
「すげー! 異世界ってマジで美しいなぁ」
 
 子どものように飛び跳ねた俺は、一匹の白い猫ちゃんを抱っこしていた。
 この異世界に一緒に飛んできた猫のリンちゃんだ。もふもふしてて、か、かわいい……。

 俺は腕の中に猫ちゃんを抱きながら王都へと伸びる一路を歩いていた。
 道幅は広く、雑草が見事に生えていない。
 関心した俺は、地面の土を指先で触れて舐めてみる。
 
「ペロ……こ、これは!? 塩っぱいな」
 
 塩分濃度が高い土が人工的に敷かれてある、ということだ。
 つまり、雑草対策された道が長く伸びている王都ネイザーランド、なかなか高い技術のアーキテクトがあると言っても過言ではない。
 
 それを証明するように、王都に近づいていくと、道が赤土から石畳に変わっていった。左右には等間隔に優しく微笑えみを浮かべる天使像や、虎のような牙のある大理石の魔獣など、見たこともない芸術性のある石像が配置され、まるで美術館にでも来たような錯覚を抱かせる。
 
「入場料とか取られたらどうしよう?」
 
 そんな心配をしていると、人の往来がポツリ、ポツリと、どこからともなく現れた。
 道ではない荒野という草場から突然、ひょっこり現れるから、こっちはびっくりしてしまう。
 顔を見られたくないので、俺はサッとフードを深く被った。探偵は顔がバレないほうが動きやすいからだ。

「こいつらは冒険者なのだろうか?」

 みんな若い男と女で、わいわい話しており、見るからにリア充って感じだった。なぜなら装備している武器や防具がなんともカッコいいし、男たちはみんなイケメンで、女もみんな可愛いくて、プロポーションも抜群だ。

「わぁ、おっぱいがしゅごい……ゴクリ」

 なんで異世界の女たちってみんなあんなにエチエチした身体をしてるんだよぉぉぉ、クソぉ……男の冒険者たちが羨ましいぜ。
 
 一方、俺と言ったら、ボロボロのマントを羽織り、村人の服に村人のブーツ、おまけに猫ちゃんまで抱いているという格好で、しかも女に触れたら気絶するという呪い持ちだ。

「あぁ……明らかに浮いてるな、俺」

 すると、陽キャな冒険者たちとすれ違ったとき、バカにされた。

「ぷっはっ! なんだこいつ? だっせ」
「フードかぶってやがる、隠キャだわ」
「田舎もん丸出しだな」
「やめなよ~、可哀想だってば」
「なんでこいつぼっちなんだ? パーティにクビにでもされた落ちこぼれか?」
「ウケる~クスクス」

 えっ? 俺って、もしかして笑われている?

 冒険者って口が悪い人が多いのかな。こういう悪意のあるサドボイスは虫唾が走るぜ。虐めだもんな。
 あかねちゃんの愛のあるサドボイスが懐かしいぜ。
 うわぁ、もうあかねちゃんロスになってる自分がいる。会いたい……。

 ちなみに俺は前世で虐めにあったことがない。
 むしろ弱い者を虐めるやつらに制裁を下す側の人間だった。正義感があって、学校のみんなから俺は慕われていたが……まさか異世界に来て、虐められる側を経験するとは思わなかった。

 しかし、虐められてみてわかったことがある。
 自分に自信さえあれば、例え他人から虐めの言葉を吐かれようと平気だな、ということがわかったのだ。
 つまりメンタルが強ければへこむことはない。
 だが……それは大きな間違いだった。
 道を歩く可愛い魔法使い少女から言われた言葉だけは……ううう。
 俺の心にナイフのようにグサリと突き刺さった。
 
「うわぁ、汚ねぇ……おじさんが猫ちゃん抱いてる……」

 汚ねぇ、おじさん……。

 って響き、ちょっと泣けきた。
 これでもまだ二十六歳だし、汚れだって、風呂に入って綺麗にすれば、まだまだイケると思うんだが。
 
 魔法少女の隣には、弓を持った狩人少女もいた。
 二人は仲良く会話を弾ませながら歩いている。
 よし、ちょっと盗み聞きしてみよう。これは探偵の癖だ。許せ。

「う~ん、さすがにダンジョンからの朝帰りは疲れたぁ」
「それなぁ、いつもよりモンスターいっぱいだったもんね」
「いっぱいだったね~あんなの初めて」
「テラスライムも出たらしいよ」
「ふぇ~すごいね! でも、もう疲れたからお風呂入りたい」
「わたしも~、ねぇ、ギルドでクエスト報酬もらったらさ、ラグーニアいかない?」
「いいねぇ、あそこは泉質がいいから、すぐにHPMP完全回復するもんね」

 ふ~ん、王都の中に温泉みたいなところがあるのか。是非、行ってみたいな。
 すると、俺の気持ちを察したのか、リンちゃんが『ニャン?」と見つめていた。
 わかってるよ、温泉はもちろん田中さんを助けたあと……だよね? 
 どれどれ、もう一度、あかねちゃんの位置を確認しておこう。

「あかねちゃんは、どこかな?」
 
 人気のない道から外れたところまで移動し、俺は目を閉じた。
 脳内であかねちゃんとの思い出の笑顔を再生して『サーチ』すると、虚空にウィンドウが放たれた。
 
 ピコン、ピコンと『盤面』に田中さんのアイコンが点滅している。
 つまりそこが、あかねちゃんの現在位置だ。GPS探査みたいなものだ。
 ついでに、あかねちゃんのステータスも確認してみた。
 
『 あかね HP60/60 MP60/180 』

「ん? MPが減ってるな」
 
 なにか魔法でも使ったのだろうか?
 たしか、誘拐犯の犬飼が、少女はセガール様の奴隷になるんだ、ぐへへへ、みたいなことを言ってたっけ……あれ?
 ぐへへへ、とは言ってなかったか? まぁ、そんなことはどうでもいい。
 とにかく可憐な美少女のあかねちゃんが、あんなことや、こんなことになっていないか、心配になる。

「急いであかねちゃんを助けなきゃな」
「にゃーん」

 猫のリンちゃんが腕の中で相槌をする。
 加速する俺の足音は、王都上洛へと近づいていた。やがて俺の目の前に、ついに王都への入場ゲートが現れた。
 それは巨大なステンドグラスのような美しい凱旋門だった。
 その下のほうに、おまけみたいな木材の門が設置されていた。そこから人が出入りしている。

 三人の騎士がいた。
 兜、鎧、腰には剣を装備している。手には台帳を持ち、せっせと筆を走らせている。
 つまり、王都に入場したり、または退場する冒険者たちの管理をしているのだ。
 まるでコンサート会場の出入口のような、そんな厳重な雰囲気があった。
 冒険者たちはみんな、面倒臭そうに、持ち物検査をしたり、身分証明書のようなカードを提出している。
 おそらくあのカードがトレーディングカード、略してトレカなのだろう。
 
「マズイな……トレカなんて持ってないし、俺は正門から入れそうにないな……」

 そう思った俺は、正門から堂々と入ることは諦めた。
 抱いているリンちゃんはどうするの? という顔をして「ニャ?」と鳴いた。
 
「いや……どっかに入れる場所はないか探してみるよ……」
 
 俺はぐるりと壁沿いを歩いてみた。いや、あまりにも広いので走ってみた。
 とりあえず西側から調査をはじめた。しばらくすると草木が生える湿地帯となった。
 構わず進んでいくと、エゲツなく深く抉られた巨大な穴を発見した。
 その巨大な穴に向かって壁から突き出た太い配管から、なんとも言えないゴミの塊が吐き出されていた。
 おそらくここは王都で出る廃棄物を処理する埋め立て地なのだろう。
 巨大な穴の下は覗くと、地獄に吸い込まれるような錯覚に陥った。
 
「うっわ、匂いがキツいな……この穴を迂回してまで調査することもないか……」

 俺は反対の東側に回ることにした。
 正門のところは騎士たちに怪しまれないように、高速で移動した。
 東側の幕壁をパッと見た感じ、この王都ネイザーランドは完璧な要塞だと言っても過言ではなかった。
 永遠のように壁の高さがつづき、ねずみ一匹、外部から侵入する隙間がない。鳥なら別だが。
 
 それでも、どこかに侵入できるところはないものか?
 と俺は思い、面倒臭いがさらに東側の壁に沿って調査をしてみた。
 こういうところ、探偵の地味な仕事の一つでもある。
 百の調査が無駄足になっても、その中の一つが事件を解決する重要な手がかりになったりする。
 すると、その甲斐あって、王都の構造がだんだんわかってきた。
  
「やはり水路があるな」
  
 王都には南西の山から流れる河川から、石材の水路が引き込まれていた。
 つまり、生活水として使われているのだろう。王都の衛生面は良好そうだ。
 しかし、引き込まれている水門が、見事に木製の柵で閉じられていて、水路から王都には侵入できそうになかった。

「くそ……かなり厳重だな……次だ次っ」

 俺は水路を、華麗なステップを踏んで飛び越えると、また壁沿いを走りだした。
 すると、海が見えてきた。どこまでも広がる青い景色が、朝日に照らされてキラキラと輝いている。
 しかし猫のリンちゃんは難しそうな顔をして「ニャ……」と鳴いた。
 
「よし! 海からの水路は幅が広いからさすがに侵入できるところがあるだろう」
「ニャニャ……」
「どした、リンちゃん? あ……リンちゃんは水は苦手だったな」

 予想通り王都の東側には港があった。
 これなら楽に侵入できるところがありそうだ。と思っていたが、しかしその期待は簡単に裏切られた。
 港は船が出入りする閘門は硬く閉ざされていたからだ。しかも幕壁は永遠に高いままキープされている。
 そんな光景を観察していると、王都の構造を設計した人物は、よほど外来物質からの汚染を防ぎたい意思が強く感じられる。 
 まるで日本の鎖国を彷彿とさせるものがあった。
 
「じゃあ仕方ない……飛ぶか」

 俺は空を仰いで、天高くそびえる壁を見上げた。
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