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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

48 魔法が電気の代わりです

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「まるで人間懐中電灯だな」

 俺がそうつぶやくのも無理はない。
 みんな俺を先頭にして後について歩いているからだ。
 倉庫の出入口である扉のあたりは、月明かりが射し込んでまだ視界は確保できた。
 しかし倉庫の構図は迷路のように入り組んでいて、奥に行けば行くほど不気味に暗くなっていく。やがて俺のライトボールの明かりがなければ、とても右往左往できない暗闇に包まれた。
 あぁ、んもう、電気がない異世界は、何かと不便だな。
 
「ゴローさん、たしかこの黒い扉の金庫だよな」

 俺がそう言って人差し指を示した先には、暗闇の同化するように、重鎮とした扉が浮きあがっていた。
 
「あ、あれが金庫だ……」とゴローさんが言った。
「ちょっと鍵かして」俺はゴローさんに手を差し出す。
「まってろ……いま外すから」

 しかし、そうゴローが言ってから、なかなか鍵が俺の手元に来ない。

「すまん、俺を照らしてくれないか? 暗くて鍵が外せない」
「わかった」

 俺の手から放たれるライトボールはとても小さくて、周囲を照らす範囲も狭かったから、ゴローさんを照らすことと引き換えに、ジャマールパーティは光を失って闇の中にまみれた。
 
「きゃっ! ちょっとどこ触ってんのよっ」
「いってぇ、俺じゃないってば」
「すいませんニーナさん……わたしです」
「ジャマールくん……ダメだよぉ、どさくさに紛れておっぱい触っちゃ」
「いえ、不可抗力です。急に暗くなったのでよろけてしまい、とりあえず触れたものを掴んでしまっただけです」
「いいなぁ、どんな感じだ?」
「柔らかかったですよ。ものすごく……」
「君たち……あとからアクアボールで窒息の刑だからねっ」

 見えなくても、誰が話しているのかわかる。
 こいつら、マジで愉快なパーティだな……緊張感がまるでない。
 
「探偵さん、鍵っ」

 やっとネックレスから鍵を外せたゴローから鍵をもらった。
 俺は鍵を挿し込んで手首をひねった。
 ガチャリ、金属が当たる乾いた音が響く。取手を引くと簡単に金庫の扉は開いた。
 鍵をゴローさんに返す。ゴローさんはまた大事そうにネックレスにくくりつけた。

「おい! 金庫が開いたのなら、まずわたしに見せなさいっ」
 
 ジャマールが俺をどついて横にのけると、金庫の中をのぞいた。

「あああああ! ないない! 金貨がないじゃないかぁぁぁぁ!」

 うるさい、感情が爆発したような叫び声だ。
 暗闇の倉庫の中につん裂くようなジャマールの虚しい叫びが響きつづける。
 耳に痛いほど、泣き叫ぶ。この現実をどう向き合っているのだろうか? 僧侶ニーナの声も、戦士ジルべウトの声も、まったく耳に入ってこない。それくらいジャマールの声は大きなものだった。

「金貨がなくては、スカーレットと駆け落ちできないではないかぁぁ!」

 ジャマールは、泣き叫んで膝から崩れ落ちた。
 田中さんとの間にはどんな思い出があるのだろうか? 婚約まで誓い合ったと言っていたから、おそらく恋人同士の儚い夜のひとときもあったのだろう。

 ちょっと、嫉妬してしまう自分の気持ちに驚いた。

 すると、そんな俺の心の揺れと共鳴するように、ライトボールの光りが弱くなる。じわり、じわりと光の粒子がバラバラに散らばり、まるで崩れていく角砂糖のように消えていった。暗闇が襲いかかってくる。
 
「わぁぁぁっぁ! 光がっ光がっ」
「ひっ、もう勘弁してくれよぉ暗いのは苦手なんだ」
「だから明日の朝にしようって言ったじゃないっすか」
「きゃっ! なに? 触んないでよっ」
「俺じゃないぞ」
「わたしでもないです」
「妻に誓って触ってないっす」
「じゃあ、誰よ! 私のお尻を触ったのっ」

 俺には匂いでわかっていた。
 ミルクのような甘い香りがした。それは彼女が好きな飲み物で、よく飲んでいたことを思い出す。
 すると、ピアノのような綺麗な声が響いた。
 
「さぁ、御主人様、あたしの手を握っててくださいね」
 
 俺はその声にしたがって手を握り返した。
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