異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

40 リンちゃんは風魔法をマスターしたようです

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「ただいま帰りました」

 村に帰ってきたリンちゃんは、爽やかな口調で言った。
 しかしその両手に抱えている物体からは、爽やかとはまったく正反対な恐ろしいほどの混沌としたカオス的な臭気が漂っている。なんと魔獣の生首を持っていたのだ。

 それを見た瞬間、テーブルの椅子に座る俺は、度肝を抜かれて驚いた。その勢いで、飲んでいたお茶を吹きこぼしてしまった。
 やっべ! テーブルを汚してしまった……またあかねちゃんに叱られる。
 
 リンちゃんの帰還に気づいたあかねちゃんが駆け寄ってきた。
 その手にはお玉を持っている。料理中だったようだ。エプロン姿が似合っていて可愛いらしい。
 
 そんなあかねちゃんも、やはりリンちゃんが持っている魔獣の生首に目が釘づけになっている。その魔獣はよく見るとチュピエモンだった。たしか討伐レベル28の魔獣だよな……ということはリンちゃんのレベルがアップしたのだろうか。
 
「ねぇ、リンちゃんそれどうした?」
「戦利品です」
 
 あかねちゃんの質問にクールに答えるリンちゃんは、どことなくまだ戦闘モードな顔つきでキリッと双眸を輝かせていた。

 すると狩人のゲイルさんが歩み寄ってきた。
 ゲイルさんの顔は疲労困憊と言った感じで、ずっと肩で息をしている。それに頭や服に、枝や草などの芥をくっつけているし、森の奥深くを駆け抜けていたことが見てとれた。

 さらに装備している短刀は血だけで、背中の矢筒には一本も矢が入ってない。それほど激しい戦闘をしていたのだろうか。
 そして、ふと、見張り台から見えた、竜巻の正体がなんなのか気になってきた。
 ゲイルさんはじりじりと足を引きずり、椅子に腰を下ろした。
 
「ゲイルさん大丈夫ですか?」
「あ……ああ平気だ……」
「何があったんですか?」
「リンちゃんが……覚醒した……」
「え? どういうことですか?」
「風魔法をマスターしたかと思うと、尋常ではない数の魔獣たちを倒したんだ……」

 ゲイルさんの言葉の意味がよくわからないので、リンちゃんを『サーチ』してステータスオープンしてみた。
 
『 リン 猫娘  せいべつ:おんな 』
『 レベル:30 ねんれい:16  』

『     ちから:128 』
『    すばやさ:160 』
『   みのまもり: 96 』
『    かしこさ:255 』
『   うんのよさ:152 』
『  さいだいHP:340 』
『  さいだいMP:280 』
『   こうげき力:146 』
『    しゅび力:102 』

『 EX:  962350 』
『  G:       0 』

『 スキル:トランスフォーム』
『 のろい:ねこまねき   』
『 まほう:風       』↓

 
 唖然とした。
 経験値を積み、レベルが飛躍的に伸びている。
 たしか異世界に飛んできた初期値はレベル23だったはずだ。
 森で狩りをしていたのは、わずか二、三時間、たったこれだけの冒険でレベルを7もアップさせるなんて……いったいどれだけの数の魔獣を倒したんだろうか。
 すっげぇな! さすが猫ちゃんは肉食動物だなと感心した。狩猟能力にたけた虎もまたネコ科であることを思い起こす。
 そして、ふと、『まほう』の下の部分を見ると、矢印が点滅していることに気づいた。
 
「なんだこれ?」

 ピッと指先で触れてみると、もう一つステータスがオープンした。

『 風:ウインドカッター 』
『 風:ウインドプレス  』
『 風:トルネイド    』

 これはなんだろう? ウインドは風という意味だ。カッターは切る、プレスは圧だから、風切りと風圧という解釈でいいのだろうか。それとこのトルネイド……竜巻を意味するわけだから、さっき森で発生していた竜巻はリンちゃんからの魔法ということで間違いなさそうだ。
 ふと、ゲイルさんを見ると、リンちゃんのステータスを確認しつつ、大仰に二度うなずき、どこか投げやりな声を発した。
 
「やっぱりな……俺とは根本的に素質が違うわ」
「どういうことだ?」
「リンちゃんの魔法センスは桁違いさ……逆に俺の風魔法はエアーどまり。つまり家庭用なのさ」
「なに? ちょっと失礼……」

 ゲイルさんを『サーチ』してみると、その意味がわかった。
 
『 風:エアーショット 』
『 風:エアークリーン 』

 え? これだけ?
 流石に声には出せなかったが、この異世界には、魔法を扱う者のセンスによって色々と戦闘能力の差があるようだ。
 するとあかねちゃんが横から顔を入れてきた。
 
「ふーん……リンちゃんレベル30か~いいなぁ~私も久しぶりに魔法をぶっ放したくなってきたわぁ」
 
 あかねちゃんはお玉を振り回してながら、そう豪語する。
 俺は試しに田中さんのステータスもオープンしてみた。
 
『 火:ファイヤ     』
『 火:ファイヤボール  』

「なるほど、ファイヤボールで魔獣を倒したいということか?」

 あかねちゃんはかぶりを振った。目線に鋭いものを感じる。
 
「いや、ジャマールにファイヤボールをぶっ放そうかと考えている」
「復讐したい……そういうことか?」
「ああ! あのイケメンの服を燃やし、全裸にして謝罪させるんだっ」
「……こわ」
「私は婚約破棄されて金も奪われたんだからなっ! 全裸で土下座くらいさせなきゃ気がおさまらないっ」
「……っていうか裸見たいだけじゃ……」
「なんか言ったか?」
「いや、なんでもない……まぁ、とにかくリンちゃんも来たことだし作戦会議といこうか」
「よし! すぐ昼食を持ってくるから待ってろ」

 俺たちの会話についていけないゲイルさんは、ぽかんと口を開けていた。
 
「おまえたち……いったい何者なんだ?」

 魔獣の生首を木の棒に刺しているリンちゃんは、こう答えた。
 
「この惑星テラの神様はわたしたちに、こんなメッセージを残しました。選ばれし者たちよ……と」

 兜焼きにでもするつもりだろうか?
 リンちゃんは魔獣の生首を木の棒に通すと、焚き火が燃える赤くなった炭の中に突き刺した。その双眸は野生的に満ちていて、薫る煙りを嗅ぐように、ジッと業火に燃える魔獣の骸を見つめていた。
 
 ゲイルさんは別次元の強さを誇るリンちゃんに恐れを感じたのか、身震いし、椅子からゆっくりと立ち上がった。そして村の建物が並ぶほうへと歩いていく。おかえりなさい、という小さな幸せを求めて。
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