異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

文字の大きさ
上 下
42 / 115
第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

40 リンちゃんは風魔法をマスターしたようです

しおりを挟む
「ただいま帰りました」

 村に帰ってきたリンちゃんは、爽やかな口調で言った。
 しかしその両手に抱えている物体からは、爽やかとはまったく正反対な恐ろしいほどの混沌としたカオス的な臭気が漂っている。なんと魔獣の生首を持っていたのだ。

 それを見た瞬間、テーブルの椅子に座る俺は、度肝を抜かれて驚いた。その勢いで、飲んでいたお茶を吹きこぼしてしまった。
 やっべ! テーブルを汚してしまった……またあかねちゃんに叱られる。
 
 リンちゃんの帰還に気づいたあかねちゃんが駆け寄ってきた。
 その手にはお玉を持っている。料理中だったようだ。エプロン姿が似合っていて可愛いらしい。
 
 そんなあかねちゃんも、やはりリンちゃんが持っている魔獣の生首に目が釘づけになっている。その魔獣はよく見るとチュピエモンだった。たしか討伐レベル28の魔獣だよな……ということはリンちゃんのレベルがアップしたのだろうか。
 
「ねぇ、リンちゃんそれどうした?」
「戦利品です」
 
 あかねちゃんの質問にクールに答えるリンちゃんは、どことなくまだ戦闘モードな顔つきでキリッと双眸を輝かせていた。

 すると狩人のゲイルさんが歩み寄ってきた。
 ゲイルさんの顔は疲労困憊と言った感じで、ずっと肩で息をしている。それに頭や服に、枝や草などの芥をくっつけているし、森の奥深くを駆け抜けていたことが見てとれた。

 さらに装備している短刀は血だけで、背中の矢筒には一本も矢が入ってない。それほど激しい戦闘をしていたのだろうか。
 そして、ふと、見張り台から見えた、竜巻の正体がなんなのか気になってきた。
 ゲイルさんはじりじりと足を引きずり、椅子に腰を下ろした。
 
「ゲイルさん大丈夫ですか?」
「あ……ああ平気だ……」
「何があったんですか?」
「リンちゃんが……覚醒した……」
「え? どういうことですか?」
「風魔法をマスターしたかと思うと、尋常ではない数の魔獣たちを倒したんだ……」

 ゲイルさんの言葉の意味がよくわからないので、リンちゃんを『サーチ』してステータスオープンしてみた。
 
『 リン 猫娘  せいべつ:おんな 』
『 レベル:30 ねんれい:16  』

『     ちから:128 』
『    すばやさ:160 』
『   みのまもり: 96 』
『    かしこさ:255 』
『   うんのよさ:152 』
『  さいだいHP:340 』
『  さいだいMP:280 』
『   こうげき力:146 』
『    しゅび力:102 』

『 EX:  962350 』
『  G:       0 』

『 スキル:トランスフォーム』
『 のろい:ねこまねき   』
『 まほう:風       』↓

 
 唖然とした。
 経験値を積み、レベルが飛躍的に伸びている。
 たしか異世界に飛んできた初期値はレベル23だったはずだ。
 森で狩りをしていたのは、わずか二、三時間、たったこれだけの冒険でレベルを7もアップさせるなんて……いったいどれだけの数の魔獣を倒したんだろうか。
 すっげぇな! さすが猫ちゃんは肉食動物だなと感心した。狩猟能力にたけた虎もまたネコ科であることを思い起こす。
 そして、ふと、『まほう』の下の部分を見ると、矢印が点滅していることに気づいた。
 
「なんだこれ?」

 ピッと指先で触れてみると、もう一つステータスがオープンした。

『 風:ウインドカッター 』
『 風:ウインドプレス  』
『 風:トルネイド    』

 これはなんだろう? ウインドは風という意味だ。カッターは切る、プレスは圧だから、風切りと風圧という解釈でいいのだろうか。それとこのトルネイド……竜巻を意味するわけだから、さっき森で発生していた竜巻はリンちゃんからの魔法ということで間違いなさそうだ。
 ふと、ゲイルさんを見ると、リンちゃんのステータスを確認しつつ、大仰に二度うなずき、どこか投げやりな声を発した。
 
「やっぱりな……俺とは根本的に素質が違うわ」
「どういうことだ?」
「リンちゃんの魔法センスは桁違いさ……逆に俺の風魔法はエアーどまり。つまり家庭用なのさ」
「なに? ちょっと失礼……」

 ゲイルさんを『サーチ』してみると、その意味がわかった。
 
『 風:エアーショット 』
『 風:エアークリーン 』

 え? これだけ?
 流石に声には出せなかったが、この異世界には、魔法を扱う者のセンスによって色々と戦闘能力の差があるようだ。
 するとあかねちゃんが横から顔を入れてきた。
 
「ふーん……リンちゃんレベル30か~いいなぁ~私も久しぶりに魔法をぶっ放したくなってきたわぁ」
 
 あかねちゃんはお玉を振り回してながら、そう豪語する。
 俺は試しに田中さんのステータスもオープンしてみた。
 
『 火:ファイヤ     』
『 火:ファイヤボール  』

「なるほど、ファイヤボールで魔獣を倒したいということか?」

 あかねちゃんはかぶりを振った。目線に鋭いものを感じる。
 
「いや、ジャマールにファイヤボールをぶっ放そうかと考えている」
「復讐したい……そういうことか?」
「ああ! あのイケメンの服を燃やし、全裸にして謝罪させるんだっ」
「……こわ」
「私は婚約破棄されて金も奪われたんだからなっ! 全裸で土下座くらいさせなきゃ気がおさまらないっ」
「……っていうか裸見たいだけじゃ……」
「なんか言ったか?」
「いや、なんでもない……まぁ、とにかくリンちゃんも来たことだし作戦会議といこうか」
「よし! すぐ昼食を持ってくるから待ってろ」

 俺たちの会話についていけないゲイルさんは、ぽかんと口を開けていた。
 
「おまえたち……いったい何者なんだ?」

 魔獣の生首を木の棒に刺しているリンちゃんは、こう答えた。
 
「この惑星テラの神様はわたしたちに、こんなメッセージを残しました。選ばれし者たちよ……と」

 兜焼きにでもするつもりだろうか?
 リンちゃんは魔獣の生首を木の棒に通すと、焚き火が燃える赤くなった炭の中に突き刺した。その双眸は野生的に満ちていて、薫る煙りを嗅ぐように、ジッと業火に燃える魔獣の骸を見つめていた。
 
 ゲイルさんは別次元の強さを誇るリンちゃんに恐れを感じたのか、身震いし、椅子からゆっくりと立ち上がった。そして村の建物が並ぶほうへと歩いていく。おかえりなさい、という小さな幸せを求めて。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

おっさん達のTRPG日記 ~七人の《魔導書使い》が四篇の《聖典》を奪い合いながら迷宮戦争やってみた!~

書記係K君
ファンタジー
剣と魔法の幻想世界・リンガイア大陸―― この世界には、自らの霊魂から《魔導書-デッキ-》を創り出し、神与の秘術《魔法-ゴスペル-》を綴り蒐集し、 神秘を使役する《魔導書使い-ウィザード-》と呼ばれる者達がいた。彼らが探し求めるのは、 あらゆる願望を叶えると云う伝説の魔導書《聖典》――。 この物語は、聖遺物《聖典》が封印された聖域《福音の迷宮》への入境を許された 選ばれし七人の《魔導書使い-ウィザード-》達が、七騎の《英雄譚-アルカナ-》を従えて 七つの陣営となり、四篇に別れた《聖典の断章》を蒐集すべく奪い合い、命を賭して覇を争う決闘劇。 其の戦いは、後世に《迷宮戦争》と謳われた―― ――という設定で、おっさん達がまったりと「TRPG」を遊ぶだけのお話だよ(ノ・∀・)ノ⌒◇

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

処理中です...