異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

39 見張り台のラーク少年に恋のアドバイス 森が戦場になっているようです

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 工房に向かう途中、村の見張り台に目を奪われた。木材で組まれた建造物だった。
 その高さは三階建てのビルほどあり、頂上にはいつものようにラーク少年が東の方角を眺めている。その端正な顔立ちにある双眸が真摯に見据える大地は、どのように見えているのだろうか。
 
「東か……もしかしたら王都が見えるかもしれないな」

 そうつぶやいた俺は、登ろうと梯子に手をかけたが、やっぱりやめた。

「梯子を使うこともないな……めんどいからジャンプしよっ」

 膝を深く曲げた俺は、一気に飛び上がった。
 シュタッと頂上の足場に踏み入れると、木材の床がみしみしと軋んだ。
 
「おお! 素晴らしい眺めじゃないか……」

 俺はおもわず感嘆の声を上げた。
 頂上は絶景のパノラマが望むことができたからだ。
 一方、ラーク少年は突然現れた俺に驚いて、悲鳴のような声を漏らす。おしっこもチビッてなければいいが。
 
「わぁぁっ! びっくりしたっ」
「やあ、ラークくん、ちょっと景色を見せてくれ」
「え? ああ、いいですよ……ってか僕の名前って教えましたっけ?」
「いや……俺は探偵だから自力でわかるんだよ」
「か……かっこいい……」
「それほどでもない」

 ラーク少年と談話しつつ、俺は改めて見張り台からの景色を眺めた。
 三百六十度のパノラマは、南には山岳地帯、西には深い森が広がり、北東には大海原が空の青さと溶け合うようなコントラストを描いている。そんな景色の中で、白い海鳥が飛び交っている。
 
「なるほど……このネイザーランドは島なのか? 海鳥がいっぱい飛んでいるな」
「そうさ、僕らの住むネイザーランドは海に囲まれた孤島。よく知らないけど、じいちゃんは最後の楽園って言ってるよ。もっとも僕は海に出たことがないからわかんないけどね……ああ、いつか海を渡って冒険してみたいなぁ」

 ラーク少年の眺める海は未来に向かっているのだろう。その屈託のない笑顔は是が非でも応援したくなる。そんな少年だった。そして祖父から受け継いだという知識は大人顔負けだ。これなら色々と質問しても良さそうだな。
 
「ほう……で、あれが王都か? あの東にある白亜の建造物が並んでいるところなんだが……見えるか?」
「あれは王都ネイザーランドさ! 人類の叡智の結晶でもあるし、人類の汚物でもある」
「ラークくんは少年なのに、よくそんな言葉を知ってるね」
「じいちゃんがよく言ってるから真似してみた」
「あはは、老けるからやめておいたほうがいいぞ」
「そうかな? かっこいいと思ったけど……」

 苦笑いするラーク少年を見つめていると、昔の自分を思い出す。
 ああ、俺にもあった……難しい言葉を覚えていい気になっていた年頃が。
 ラーク少年のステータスを思い出してみると、年齢は十六歳、リンちゃんと同じ、あと、別れたエミリアちゃんとも一緒だ。もっともエミリアちゃんと付き合った人としてカウントしていいか微妙だが。
 それと……たしかラーク少年の好きな女の子って……と記憶を探っていると、風の強さが出てきて、流れる髪が乱れた。しだいにピューピューと突風も吹いてきた。
 
 ザザザッ! 西の森の方角から木々がけたましく鳴り響く。
 
「なんだ?」

 首を振って周辺を眺めていると、突然、天高く登る一陣の竜巻が発生した。
 グワッと龍のように土煙りを巻き上がると、一瞬で消えていった。
 その代わりに青い空には、大量のゴミのような黒い屑が飛び散っている。
 どうやら、竜巻によって飛ばされたものらしい。よく目を凝らすと、黒い物体は魔獣のように見えた。その数は物凄い有様で、まるでカラスの大群が飛び交っているような光景だった。数千……いや、数万という単位だった。
 
「まさか……この竜巻は……」

 ラーク少年は首を傾けて尋ねてきた。
 
「ねぇ、探偵さんあれ何? あんな竜巻見たことないよっ」
「ああ、もしかしたらあの竜巻は魔法かも知れない」
「魔法? あっ、まただよ」

 ラーク少年の示す人差し指のほうに、また竜巻が起こっていた。そして魔獣が、ギャーギャー叫んで吹っ飛ばされている。見ていると可哀想になるくらいだ。

「いいな~僕もいつか王都に行って魔法が使えるように加護を受けたいよ」
「ん? どういうことだ?」
「王都の大聖堂で「リチュアル』を受けると自然の精霊から加護をもらえるんだ」
「へ~そんな神秘的なものがあるのか」
「うん、でもいくら『リチュアル』を受けても素質がないと加護をもらうことはできないんだ……ああ! 僕にはどんな加護がもらえるんだろうか! もしかしたら何にも加護がないかもしれないし……うわぁぁ不安だよぉ」
「少年よ……いいものを見せてやろう」
「えっ」

 ラーク少年をジッと見つめた俺は、指先をパチンと弾いて『サーチ』した。
 キュインと音が鳴ると俺の指先からウィンドウが放たれる。

『 ラーク 魔法戦士 性別:男 』
『 レベル:18   年齢:16』

『     ちから: 52 』
『    すばやさ:138 』
『   みのまもり: 45 』
『    かしこさ: 67 』
『   うんのよさ: 92 』
『  さいだいHP:134 』
『  さいだいMP: 40 』
『   こうげき力: 65 』
『    しゅび力: 58 』
『 EX:   25000 』
『  G:    3400 』
『 スキル:        』
『 のろい:        』
『 まほう:水       』

「これを見てみるといい」
「おおおお! なんだこれっ」
「少年のステータスをオープンしたものだ。名前、職業、年齢、レベルといった能力が見られる」
「すご……トレカみたいだ……僕って魔法戦士なのかっ! うぉぉぉ! ありがとうっ、探偵さん」
「喜ぶにはまだ早い、ここを見てみろ」

 俺の指先は『まほう:水』を示していた。
 
「えっ? 僕……水魔法を使えるの?」
「きっとな……その大聖堂でやってもらう検査? いや『リチュアル』という儀礼か、それを受けなくても、もうすでに少年は水の加護をもらっているな。どれ、適当に独学で詠唱してみたらどうだ? ひょっとしたら手から水が出るかもよ」

 ラーク少年の肩が急に震え、うるうるとした瞳から涙があふれ出した。
 とりあえず目から水が出たね。いい感じだな。
 

「ううう、探偵さん……すげぇ! 僕、勇気が出てきたよっ!」
「そうかそうか!」
「うん! これならエミリアちゃんに告白できる」

 ん? エミリアちゃん? って俺の元カノだよな。たしか……。
 ふふふ、俺はいい情報を知っているぞ。
 エミリアちゃんは、極度に村人たちに男との交際をバレたくないようだった。噂されるのが嫌なのだろう。
 それならば、俺からアドバイスしてやるべきだな。
 
「少年よ……もう一つだけ良きことを教えてやろう」
「良きこと? なに?」

 オホン、と偉そうに俺は語り出した。まったく何様だろうか。大人になってからろくに彼女もできたことがないくせに。
 
「エミリアちゃんに告白するときは、二人だけの秘密にしようと言うんだ。そうすればきっと上手くいくぞ」
「えっ? ヤダよぉ、エミリアちゃんはめっちゃ可愛いんだから、おっぱいも大きいし、村のみんなに自慢したいよ」
「ダメだ、彼女は秘密なまま色々なことをしたいらしいぞ」
「色々なこと……」
「そうだ……男と女のあれとそれだ……」

 ゴクリ……とラーク少年の喉奥で生唾が飲み込まれた。
 心が揺れているな少年よ……悩むがいい……そして幸せを手に入れろ。
 
「ではさらばだ!」
「え……探偵さん梯子はあっちだよ?」

 バッと飛び跳ねた俺は、空高く舞い上がった。
 唖然とするラーク少年の目線は、いつまでも俺の背中を見つめていた。
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