異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

38 俺は薪運び リンちゃんは森へ魔獣狩りに出かけました

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「んん……」

 ザラついた舌で顔を舐められる、例の感触が伝わってくる。
 よかった成功だ! 自力では起きられなかったが、しっかり眠ることができた。
 
「おはよっリンちゃん!」
「わっ」

 四つんばいでペロ舐めしていたリンちゃんは、びっくりして尻餅をついてしまった。俺が急に起き上がったせいだ。驚かせてすまない。
 
「んもう、御主人様ぁ、朝から元気ですねっ」
「ああ、ごめんごめん」

 開け放たれた扉からは朝日が差し込んでいた。
 その光の中にいるあかねちゃんは腕を組んでキリッとした視線をこちらに向けている。今日もセーラー服を着ていた。ここは異世界なのでやりたい放題コスプレをしているのだ。ただでさえ美少女なのに、生足が見えているのはこの上なく目の保養になる。もっとも黙っていればの話だが。
 
「貴様、リンちゃんに舐めてもらいたいからわざと寝坊してるだろ?」
「そ……そんなことはない」

 この男勝りな口調だけ除けば、パーフェクトな美少女なのにな。
 さらにあかねちゃんのマシンガントークはつづく。
 
「だったら早く起きていくぞ!」
「えっ? どこに?」
「外を見てみろ。貴様がしっかりと働けるように澄み渡る青空が広がっているぞぉ」
「薪割りなら昨日やっておいた」
「えっ、そうなのか?」
「ああ、いつもギターを弾いてるじじいがいるだろ。そいつの家に行って話を聞いた帰りに工房によったんだ」
「それは感心だな……で、あのとぼけた琵琶法師どうだった? 無属性について何かわかったか?」

 首を横に振った俺は肩をすくめた。
 
「いや、彼の『まほう』は無属性だったが、結局よくわからなかった」
「収穫はなしか……まぁ、彼とまともに話ができるやつは誰もいないからな」
「たしかに変わってるもんな」
「ああ、この前、私が話かけたらさ。江戸幕府について語りだしたからびっくりしたよ。風呂は船の中にあったんだなんて……信じられるか?」
「それは知ってる。だから湯船って言うんだろ」
「……そうなのか」

 大仰に驚くあかねちゃんは、おもむろに手に持っていたガラス瓶を俺に渡してきた。
 中身を見ると、薄い緑色で満たされていた。部屋に射し込む朝日に反射するとキラキラと輝いていた。
 
「ん? なんだこれは?」
「ポーションだ。飲んでみろ」
「ポーション? なんだっけ?」
「体力が回復する薬だ。朝食はこれにしろ」
「こんなんで足りるのかな」

 ごくごく、と腰に手を当てた俺は、ポーションをいっきに飲み干した。
 まぁまぁ美味かった。栄養ドリンクのロイヤルゼリーみたいな味がした。というかまさにそれだった。
 すると……。

「うぉっ! なんだこれ?」

 お腹が膨れてくるし、心なしか体が軽くなったぞ。
 これなら快活に動けそうだ。さて、行くか! 

「じゃ、工房に行って薪を焚き火のところまで運んでおくよ」
「ああ、そうしてくれ」
「リンちゃんはどうする?」
「あたしはゲイル様と森へ狩りに行ってきます」
「そうか、気をつけろよ。リンちゃんは魔獣の遭遇率をアップさせる『ねこまねき』の呪い持ちなんだからな」
「はい。ゲイル様には、呪いのことは説明済みです。そうしたら、むしろ好都合だと言われました」
「どういうことだ?」
「ゲイル様は狩人です。魔獣からまんまとやって来るなんて、まさに鴨ネギじゃないですか。経験値も稼げますし」
「なるほど、リンちゃん風魔法が使えるようになって急に冒険者じみてきたね」
「はいっ! 御主人様のお役に立ちたいのでっ! 目標はレベル99です」
「そ……そうなんだ……」
「はいっ!」

 元気の良い返事をしたリンちゃんは、満面の笑みを浮かべると部屋を出ていった。
 それに続いてあかねちゃんも俺も外に飛び出した。
 
 異世界は昨日ずっと降っていた雨が嘘みたいに晴れていた。
 朝日の光り、鳥の鳴き声、木々の葉につく雫がポタリと落ちている。
 村の子どもたちは元気いっぱいに駆け回り、大人たちは溜まっていた雑務に励んでいる。皿を洗い、洗濯をし、清掃をして家の周りを綺麗にしている。
 
 そのような家事をこなしている女たちは、みんな清々しい顔をしている。
 一方、男たちは工房で大工仕事をして汗を流している。
 ここの異世界の人々はみんな曇った顔をしていない。みんな晴れのように明るい。
 しかしそれはこの村限定のことなのかもしれない。なぜならこの集落は、王都から離脱した者で形成された村だからだ。

 王都ネイザーランドはどんなところなのだろか?
 この村に来て得た情報をまとめてみると、こんな構図が浮かんでくる。
 まずあかねちゃんの金貨を盗んだジャマールとその父親セガール・ベルセリウスという国務大臣がいること、それとギルドを利用して、ヤクザ紛いのクラン『シャドウボーダー』という暴力団の頭クロサキがいること、そしてその二人はどうやら俺のように地球から飛んできた日本人という事実、さらに王都では連続殺人事件が起きているようだ。つまり王都ネイザーランドは、非常にきな臭い問題が山積みになっているのだ。
 
 それでも俺は王都ネイザーランドに行かなくてはならない。
 なぜなら魔王を倒すために、船を借りたいからだ。
 大海原を航海し、北の空に落ちる閃光の下にたどり着き、この目で魔王を見ることが先決だ。まずはそこをゴールにして、今は前を向いて進んでいこう。

 吹く風に身をまかせながら、俺は工房で集めた薪を背中に担いで焚き火のエリアに運んでいる。そのときに声をかけられた。振り返るとサルートさんが微笑んでいた。
 
「よっ、縄の調子はどうだ?」
「最高っす」

 俺の答えに満足したのか、サルートさんはさらに笑顔になった。刻まれたしわがなくなって若返って見える。この村ではあまり苦労はしていないのだろう。なぜならこの村は自然の恵みが豊かだし、みんな素直で仲良しだからストレスがなさそうだ。
 
「サルートさん、縄を何本かいただけませんか?」
「ああ、いいよ。じゃあ、工房に長いやつを用意しておくから自分で欲しい分だけ切って持っていくといい」
「ありがとうございます。あとで伺います」

 サルートさんは手を振ると、工房のあるほうに歩いていった。
 今日は頑丈な縄がいる。サルートさんという縄職人がこの村にいてよかった。
 そんなことを思いながら、俺は薪を焚き火の側にドガッと下ろした。相当な重量があったので、村の女たちがその音に驚いていた。
 
「おつかれ~」

 にっこり手を振る田中さんからねぎらいの言葉をもらった。ちょっと嬉しくなり「ああ」と返事をした俺は、縄を自分の腕にかけてぐるっとまとめた。
 
「和泉って縄の扱いが上手いよな……」
「ああ、捕縛術を会得しているからな」
「すご……なぁ、初めて出会ったとき、私のことをネクタイで縛ったよな……」
「あのときはすまなかった。一方的に犯人で悪いやつだと思ってたから」
「いや、いいんだ……むしろ……」
「ん? どうした」

 あかねちゃんの顔をのぞくとほっぺも耳も赤くなっていた。まだ焚き木には火は灯ってないないはずだが、どうしたのだろうか? 
 
「なんでもない……それよりも今日ジャマールたちがくるぞ、どうするつもりだ?」
「ああ、そのことだが作戦の打ち合わせをしたい」
「いいぞ。じゃあ、昼飯のときにしようか。リンちゃんも帰ってくるだろうし」
「そうだな。じゃあ、俺は工房に行ってくる」
「いってら~」

 手を振るあかねちゃんの笑顔は太陽の光りに照らされて、キラキラに輝いていた。
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