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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

18 危険な人妻イザベルさん

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「キャンプファイヤーなんて小学生以来だな」
 
 外はもうすっかり暗くなり、村のあちこちではランタンが灯っていて、ほのかに優しく道を照らしている。
 俺とゴローさんの家族は、村の中央にある焚き火から漂う、美味しそうな良い香りに誘われるように足を運ぶ。

 村人たちは、みな行儀良くテーブルを囲い、食事をしていた。
 わいわいと談話が飛び交い、焚き火の近くではギターのような弦楽器を鳴らす吟遊詩人もいる。
 そんな狩猟民族っぽい風景のなか、俺たちはとりあえずテーブルの椅子に腰を下ろした。
 
「よっこいしょ……さて探偵さん、話を聞こうか」

 ドカッと座ったゴローが促す。
 するとすぐに食事とビールジョッキが出てきた。持ってきたのは食堂のおばちゃんみたいなエプロンをした女性だった。
 パンと焼かれた分厚い肉と茹でた野菜が、皿の上に盛られている。
 そして同じようなものが俺の前にも、ドンッと置かれた。
 異世界に来ていきなりビールかよ……飲んでいいのだろうか。

 あふれんばかりの泡のついた木材のビールジョッキに手を伸ばしたとき、ふと遠くから視線を感じた。
 あかねちゃんが、ニヤリとこちらを見つめているのだ。
 なんだあいつ……俺がビールを飲むことを期待してやがるな。
 一方、リンちゃんはというと、まだ猫のままだった。美味しそうに焼き魚を食べている。なんともワイルドな食べっぷりだ。猫は肉食動物だからタンパク質がほしいのだろう。

「では食事をしながらでいいので聞いてください」
 
 俺の声が夜の闇に包まれた村に響いた。
 集まった村人やあかねちゃんもリンちゃんも、ジッとこちらを見つめてくる。
 人前で話すことなどあまりないので、緊張してきたが、なんとかスピーチしてみる。

「え~、近々、王都から貴族たちがやってくるんですが、村のみんなさんに協力してもらいたいことがあります」

 身を寄せあう村人たちは、みんな俺の話に耳を傾けてくれていた。
 基本的にお祭り好きの彼らは、こういったイベントに参加するのは嫌いじゃなさそうだ。
 みんな口々に、どした、どした、と言って興味津々の顔をこちらに向けてくれる。

「貴族たちが来たら歓迎してほしいのです。具体的には、こちらのテーブルで食事を振る舞って頂きたい」
「なんだそれだけでいいのか?」

 村長のゴローが大きな声で言った。顔が真っ赤だ。もう酔っ払ってやがる。
 他の村人たちも口をそろえて「そんなことなら前に貴族が来たときもやっていた」と言う。
 そうか、前に来たときも食事を共にしたのだな。それなら手取り早い。
 
「それでは、当日の料理を作ってくれる料理人を紹介しましょう。絶世の美少女、スカーレットちゃんです!」
「おおおおお!」

 村人たちの興奮度はマックスにふくれあがった。
 あかねちゃんは満更でもない笑顔になって手を振って、声援に応えている。
 
「スカーレットちゃーん!」
「今夜の料理も美味しいよ~」
「君が村に来てから楽しいよ~」
「ニャンガミ様、また見せてね~」

 あかねちゃんは村人からほんとうに愛されているのだな。
 いや、スカーレットちゃんか、と心の中で訂正していると、そのスカーレットちゃんが俺のもとにやってきた。
 でも、めんどくさいからあかねちゃんとして、俺は扱う。
 
「和泉ぃ、貴様は何を企んでいる。私も色々と計画していたのだぞっ」
「まぁ、俺にまかせろ。悪いようにはしない。どうせ田中さんの計画はこうだろ? ジャマールが村に来たら、おまえらの金貨はここだ! とか言って金貨をチラつかせ、悔しかったらここまでこいと挑発しながら深い森へと逃げこむ。そしてあの恐ろしいレーザービームを放つ魔獣の罠にハメてやっつける。おそらくそんなところだろう」
「う、なぜ、貴様にはことごとく何もかもお見通しなのだ?」
「それはあかねちゃん、君は火の魔法がつかえるだろ。ファイヤだっけ?」
「ああ、それがどうした?」
「あの魔獣ステータスを見たところ弱点は『火と水』だった。そして君のステータスの『まほう』のところに『火』というものがあった。つまりあかねちゃんはあの魔獣から逃げることはできるだろ?」
「……」
「あとは簡単だ。ジャマールに魔獣をぶつけてドンズラさ」
「……」
「以上だが」
「……」

 黙ったままあかねちゃんは、ジッと俺のほうを見つめている。
 焚き木の炎がゆらぎ、あかねちゃんの可愛いらしい童顔に陰影をつくりだし、いったい何を考えているのかわからない不気味な表情を浮かべている。
 するとあかねちゃんは、右手に持っていた木製の汁碗を、ドンッとテーブルに置くと俺の耳元に顔を近づけて囁いた。
 
「熱いうちに飲んでね……探偵さん」

 眼下に置かれた、ふわりとした湯気のたつ汁碗をのぞくと、その中には、味噌汁が入っていた。
 飲んでみると、カツオだしの効いた和の旨味が口の中にじんわりと広がっていく。さらに豆腐とワカメが口の中で踊った。
 ああ、和む……異世界に来ても和食が食べられるなんて幸せだ。

 あかねちゃん、君と出会えて本当によかった。
 君を悪から助けるためなら全力で立ち向かってやろうと、心に誓った。
 
「ニャーン」

 猫のリンちゃんが鳴き声をあげると、テーブルの上を歩きだした。
 どこへいくのだろうか? 目を配っていると、草場の影に入っていった。
 なんだ、花摘みかと思って、目線を汁椀に戻した。
 そして皿に盛られた食事を平らげ、味噌汁を飲み干した。俺は両手を合わせ高らかに声をあげた。
 
「ごちそうさまでした」
 
 食事も終わり、みんな思い思いにまったりと過ごしていた。
 焚き木の炎を眺めたり、談笑したり、吟遊詩人の演奏に耳を傾けたりしている。
 すると、となりの椅子にイザベルさんが座ってきた。俺の顔をジッと見つめてくるその目線は、とても逸らしそうにない。
 どういうつもりだろうか?
 ふと気になってゴローさんを見ると、テーブルの上につっぷして、グガーグガーといびきをかいている。
 どうやら酒に酔って寝てしまったようだ。身体を冷やして風邪をひかなきゃいいけど。
 
 間接的な視野からはあかねちゃんが見えた。忙しそうに食器を片付けている。
 一方、リンちゃんは草場に行ったきり帰ってこない。
 イザベルさんはさらに俺のほうに椅子を引いて体を寄せてきた。
 
「ねぇ、探偵さん……なんで私の名前がわかったの?」
「ああ、俺にはスキルがつかえるんだ。そいつでイザベルさんのステータスをのぞいたってわけさ」
「スキル? すごい……見てみたいなぁ、私のステータス」
「いいよ。こうやって両手の指先で四角い窓をつくってイザベルさんをのぞくんだ」

 キュインという音が鳴ると空中の黒いウィンドウが現れた。
 いまは夜で辺りが暗いから見えにくいかなと思ったが、ウィンドウの中の文字は白く光っていて問題なく見ることができた。  
 イザベルさんのステータスはこんな感じだった。
 
『 イザベル ひとづま せいべつ:おんな 』
『 レベル:12    ねんれい:24  』
『 スリーサイズ:83・58・84    』
『 しんちょう:166 たいじゅう:54 』

『     ちから: 23 』
『    すばやさ: 65 』
『   みのまもり: 40 』
『    かしこさ: 70 』
『   うんのよさ:130 』
『  さいだいHP: 80 』
『  さいだいMP:  0 』
『   こうげき力: 38 』
『    しゅび力: 50 』

『 EX:    5450 』
『  G:   60000 』

 なんとも、まぁ、みごとなボンキュッボンの体型。ゴローさんが羨ましいのは言うまでもない。
 それにしても女性らしいボディラインって異世界でも共通して男性から人気があるのだなと思った。
 と同時に、やっぱり家計の財力は母親が握っているということもわかった。
 ゴローがたったの3Gだったのに対して、イザベルさんは6000Gも持っている。
 もしかしたら、かかあ天下なのかもしれない。すると、イザベルさんは甘い声をあげた。
 
「わぁ、私ってレベル12もあったんだぁ。たしかに子どものころはよく魔獣狩りしたもんなぁ……懐かしいわ」
「そうなんですね」
「うふふ、それと……私、けっこういい体してると思わない?」
「ええ、まあ……」
「ピッコを産んでからちょっと体型変わったかなっと思ったけどそうでもなかった」
「それはよかったですね」
「うふふ、いいもの見れてよかったぁ。そうだ、お礼に肩もんであげよっか」
「えっ! それはマズくないですか……」
「なぜ?」
「ゴローさんもいますし……」
「いいのいいの寝てるから」
「……」
「さぁ、北のはずれに宿泊所があるから案内してあげる。今夜はそこで寝るといいわ」

 えっ、イザベルさんすごい積極的……と思った瞬間だった。
 俺の肩にイザベルさんの手が触れると、バチッという音が鳴り、電流が俺の体の中を走った。
 
「な……なんだこれ……」

 意識が飛んでいく感覚があった。急に視界がまっくらになり、俺は気絶した。
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