18 / 115
第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨
16 婚約破棄された美少女は金貨も盗まれたようです
しおりを挟む
「スカーレット……今このときをもって君との婚約を破棄する!」
「いや……突然、俺にそんなことを言われても意味がわからないんだが……」
あかねちゃんはキリッとした表情で俺を睨みつけると、話をつづけた。
「スカーレットというのは私が適当につけた自分の名前、で、元婚約者ジャマール・ベルセリウスは王都ネイザーランドにおける公爵家の跡取り息子。その公爵家の影響力は王に勝るとも劣らない」
「はぁ……で、なんであかねちゃんはそのジャマなんとかと婚約を?」
「ジャマール・ベルセリウス! で私の名前はスカーレットなのっ」
こいつ完全に乙女ゲームの世界に入ってんな。
あかねちゃんの顔は不敵な笑みを浮かべていて、ヤバイやつのそれだった。
「ジャマールは私の経営していたレストランに食事をしに来た。で、美味しい料理なので是非ともコックに感謝を伝えたいってメイドに伝言をしてきた。相手は貴族だから無視するわけにもいかないし私は厨房からホールに出ていった。そしてこんな感じのエプロン姿で登場したってわけ。どう? やっぱり男ならメロメロでしょ?」
あかねちゃんはそう言って、フリフリのワンピーススカートの裾をつまんで足を見せてきた。やめろ……頭脳はおばさんのくせに少女の姿で俺を誘惑するのは。
「メロメロになるかは知らんが……そのジャマールという男はあかねちゃん……いや、スカーレットへ恋に落ちたというわけか」
「ふっ……そんな単純なものじゃないわ。ジャマールは厨房のコックは男だと思い込んでいたけど、女である私が登場したから驚いていたんだ。そして私は女が料理して悪いかと尋ねたら、ジャマールはこう言った。いや、そんなことはない。こんな美味しい料理を作れる女性がいるなんて僕は今まで知らなかった。結婚してくれ」
「単純だなぁおい!」
「まぁ、話をきけ……それから私とジャマールはデートを重ねた。異世界のデートだぞ……それはもう夢のような世界で……まるでお姫様になったような気分を味わったんだ。ああ、私はそのとき気づいた。もういいや、もうこの異世界に住んでやる。イケメン貴族の赤ちゃんをボコボコ産んでスローライフしてやるぅってな」
「……ずいぶんと思い切ったな」
「だが……そう上手くはいかなった。私は少女のままだった。自分の身体がまったく成長しないことに気づいた……成長しないんだ……大きくならないんだよ! 女の子の最強武器が大きくならないんだよぉぉぉぉ!」
「……え」
「ジャマールは二十四歳。もう大人の男だ。私は彼を満足させてやろうとありとあらゆる手段を使った。だが、あと一歩のところでつまずいてしまう……彼が……彼が……戦闘不能になってしまうんだぁぁぁぁ」
「……ちょ……何を言ってるんだ」
「おっぱいだよ……」
「え?」
「私のおっぱいが成長しないから、嫌気をさしたジャマールは婚約破棄したんだ」
「……それは、かわいそうだな」
「ああ、慰めてくれよ……ぴ、ぴぇぇぇぇん」
あかねちゃんは急に泣き出してしまった。
おいおい、俺が泣かせたみたいなシュチュエーションじゃないか……どうしていいかわからない。
とりあえず頭でもなでておく。
「よしよし、つらかったな……」
「ううう」
「それにしても、なぜ婚約破棄されたスカーレットがこんなド田舎にいるんだ? 経営してるレストランはどうしたんだ?」
「ううう……盗賊が来たんだ……店はそいつらに壊された」
「えっ?」
「婚約破棄されたとたんだった。店がいきなり盗賊に襲われたんだ! 実は王都には私たちみたいに地球から飛ばされた日本人が何人かいるんだよ。やつらはみんな強くてレベル30以上ある。そしてギルドにクランというヤクザみたいなチームをつくって民を襲ったりフィールドで魔獣たちを大量に殺害しては悪さばかりしてる」
「マジか……異世界ってけっこう生々しいんだな」
「ああ、自分だけが異世界に飛ばされていると思ったら、大きな間違いだぞ」
「なるほど……じゃあ、金貨もそいつらに奪われたのか? でもなんでそれなのに金貨が村にあるんだ?」
「まぁ、そんな治安の悪い王都だが、騎士団っていう警察みたいな組織があるんだ。さすがに盗賊もおおっぴらに盗んだ金を持ってはいられない。騎士に怪しまれたら金貨は没収される。アジトなんかも定期的にガサ入れされるからな。だが、王都の中でゆいいつ騎士団の権限が及ばない場所がある」
「まさか……それがジャマールなのか」
「さすが探偵さん頭がキレるね。貴族だけは騎士団でも手が出せないんだ」
「貴族のジャマールはギルドで盗賊を集めてから、店を襲わせて金貨を奪ってからこの村に保管した……そういうことか?」
「おおむね、そういうことだ」
「なるほど……だがなぜこの村に保管しなければならいないのだろう。貴族の家に保管しておけばいいではないか?」
「ジャマールには絶対に逆らえない父親がいるんだ。名前はセガール・ベルセリウスといって、まぁ、王都を裏で牛耳る国務大臣みたいな存在だよ。やつはおそらく転移した日本人だと思う。王都にはこんな噂が広まっているんだ。セガールの前世は会社の経営者で、異世界にきたからその能力を存分にはっきした。そして健全にスローライフをおくってるってさ。セガールは普通にこの異世界に溶け込んでいるんだよ。ぱっと見は日本人と思わなかったしね。もう完全に異世界人になりきっているんだと思う。そんな生真面目なセガールが、もし息子が盗んだと思われる大金を持っていると知ったならどうなっちゃうだろうね。搾り取られるジャマールを想像することは難しくない」
「なるほど。とすると、ジャマールはいったんこの村で金貨を保管して、ほとぼりがさめたら自分の懐に戻しにくる……そういうことか」
「ああ、おそらくな。何も王都で金をつかって遊ばなくてもいいんだ。この異世界のフィールドには娯楽性のある街がいくらでもあるからな」
「そうなのか……異世界と言っても人間が住んでる以上考えることは一緒なんだな」
「ああ、男たちはみんな酒と女と金に溺れてスローライフをおくってるよ」
唖然とした。
まだ異世界というものがどんなものかまったく検討がついていなかったが、田中さんの話を聞いていると、絶望しかないような気がする。
「それにしても、一つだけ腑に落ちないことがある」
「なんだ?」
「そういった内情があるのにも関わらず、あかねちゃんはなぜこの村に金貨が保管されてあると知ったんだ? そのジャマールという男にしても部下の盗賊たちにしても、簡単に自分のした犯行などベラベラしゃべらないだろう」
「それについては……まぁ、盗賊の一人を女の武器を使ってちょちょっと……な」
「吐かせたのか……見た目は美少女、頭脳はおばさんだな」
「うるせぇ……おばさんおばさんってさっきから貴様っ! 私の前世を見てから言えよ」
ちょっとキレ気味にこちらをにらむあかねちゃんは、おもむろにスマホを取りだした。
しばらく指先で操作して何かを探すような素振りを見せると、サッと画面が見えるようにテーブルの上に置いた。そこには綺麗な女性の姿が写っていた。おしゃれバーでカクテルでも飲んでいるときの写真だろうか。まるでアイドルのような笑顔で、ストローをくわえている。俺は猛烈に反省をした。おばさんなんかじゃなかったからだ。
「す、すいません……お姉さん、いや、綺麗なお姉さん」
「わかればよろしい」
俺はもう一度だけ写真を見て確認した。この可憐な少女がこんな綺麗なお姉さんになるのか……おっぱいもあるし、それだけに呪いによって成長が止まるのは非常に心苦しいことだと思った。
「あかねちゃんは今、自分の年齢は何歳くらいなんだ?」
「きっとおっぱいの大きさからいって十三から十四歳くらいじゃないかな」
「……おい、おっぱいを揉んでそんなことがわかるのか?」
「ああ、なんとなくな。思春期のころいきなりでかくなるから驚いたよ」
たしかに思春期の体の変化には驚くべきものがある。
しかし例えおっぱいが大きくなくても、あかねちゃんは十分に美少女だし、口調はこのように厳しいが本当は優しい心を持っていると思われる。そんなあかねちゃんのことを婚約破棄した男がいるなんて信じられない。いったいどんな顔をしているのか見てみたいものだ。イケメンだったりするのかもしれない。
「いや、省みると……おっぱいなんか口実に過ぎなかったんだ。おそらく最初から私の金を狙って近づいてきたんだと思う」
「……そ、そうなのか」
「ああ、金貨のありかはジャマールにしか教えてなかったからな。ジャマールはこう言ったよ。僕たちは婚約するんだから教えてくれよって言われて……つい教えてしまった私もイケないがな……」
「そんなことはない……君は悪いところは一つもない」
「和泉……優しいんだな。でも、はっきり言ってくれていいんだぞ。自分でもわかってるんだ。異世界のイケメン貴族が私みたいな少女に本気になるわけない。だろ? それでも……私は嬉しかったんだ。好きだって言ってくれたし……いつも会いに来てくれたし……私にもやっと好きな人ができたと思っていたよ……バカだった……本気になった私がバカだったんだよ……」
笑っているのか泣いているのか。
あかねちゃんは何かの味を思い出したかのように唇に指を触れさせた。その手は震えていた。するとひと粒の涙がサッと頬を流れた。わかりきったことだった。あかねちゃんは恋をしていたのだ。こんな可憐な少女をだまし、そのあげくに金を盗むなんて……そのジャマールという男、絶対に許せない。
「よし、決めた!」
「えっ」
「取引は断る。俺は金貨なんていらない」
「な……マジか……私を村長に突き出すのか?」
「いや、君のことを信じる。金貨は君のものなんだろ?」
「……うん」
俺はそう言ってから席を立った。
ふと、リンちゃんの様子を見てみると、大きな瞳を開いて、ジッとこちらを見つめていた。お互いに目があった。猫の耳はとてもいいと本で読んだことがある。おそらく寝てるように見えても、実際は俺とあかねちゃんの会話を聞いていたに違いない。
「どこにいくの?」
「村長のところさ」
「どうするつもりだ?」
「どうするも何もない。そのジャマールって男がそのうちに金貨を取りにくるんだろう? そのときに金貨がないとこの村はどうなるだろうな? 何か対策をしておかないとマズイことになるのは明白だ」
「和泉……貴様もしかして私がこの村を見捨てるとでも?」
俺は首を横にふった。
「ニャー」
眠りからさめたリンちゃんが鳴いている。そしてゆったりと歩いてくると、そのもふもふとした体を俺の足に擦りつけてきた。その仕草はなにやら、私も一緒ですよ、とアピールしているみたいだった。
「ジャマールと戦うんだろ? 俺にも手伝わせろよ」
あかねちゃんは指先で涙をぬぐうと、小さな声でつぶやいた。
「バカ」
「いや……突然、俺にそんなことを言われても意味がわからないんだが……」
あかねちゃんはキリッとした表情で俺を睨みつけると、話をつづけた。
「スカーレットというのは私が適当につけた自分の名前、で、元婚約者ジャマール・ベルセリウスは王都ネイザーランドにおける公爵家の跡取り息子。その公爵家の影響力は王に勝るとも劣らない」
「はぁ……で、なんであかねちゃんはそのジャマなんとかと婚約を?」
「ジャマール・ベルセリウス! で私の名前はスカーレットなのっ」
こいつ完全に乙女ゲームの世界に入ってんな。
あかねちゃんの顔は不敵な笑みを浮かべていて、ヤバイやつのそれだった。
「ジャマールは私の経営していたレストランに食事をしに来た。で、美味しい料理なので是非ともコックに感謝を伝えたいってメイドに伝言をしてきた。相手は貴族だから無視するわけにもいかないし私は厨房からホールに出ていった。そしてこんな感じのエプロン姿で登場したってわけ。どう? やっぱり男ならメロメロでしょ?」
あかねちゃんはそう言って、フリフリのワンピーススカートの裾をつまんで足を見せてきた。やめろ……頭脳はおばさんのくせに少女の姿で俺を誘惑するのは。
「メロメロになるかは知らんが……そのジャマールという男はあかねちゃん……いや、スカーレットへ恋に落ちたというわけか」
「ふっ……そんな単純なものじゃないわ。ジャマールは厨房のコックは男だと思い込んでいたけど、女である私が登場したから驚いていたんだ。そして私は女が料理して悪いかと尋ねたら、ジャマールはこう言った。いや、そんなことはない。こんな美味しい料理を作れる女性がいるなんて僕は今まで知らなかった。結婚してくれ」
「単純だなぁおい!」
「まぁ、話をきけ……それから私とジャマールはデートを重ねた。異世界のデートだぞ……それはもう夢のような世界で……まるでお姫様になったような気分を味わったんだ。ああ、私はそのとき気づいた。もういいや、もうこの異世界に住んでやる。イケメン貴族の赤ちゃんをボコボコ産んでスローライフしてやるぅってな」
「……ずいぶんと思い切ったな」
「だが……そう上手くはいかなった。私は少女のままだった。自分の身体がまったく成長しないことに気づいた……成長しないんだ……大きくならないんだよ! 女の子の最強武器が大きくならないんだよぉぉぉぉ!」
「……え」
「ジャマールは二十四歳。もう大人の男だ。私は彼を満足させてやろうとありとあらゆる手段を使った。だが、あと一歩のところでつまずいてしまう……彼が……彼が……戦闘不能になってしまうんだぁぁぁぁ」
「……ちょ……何を言ってるんだ」
「おっぱいだよ……」
「え?」
「私のおっぱいが成長しないから、嫌気をさしたジャマールは婚約破棄したんだ」
「……それは、かわいそうだな」
「ああ、慰めてくれよ……ぴ、ぴぇぇぇぇん」
あかねちゃんは急に泣き出してしまった。
おいおい、俺が泣かせたみたいなシュチュエーションじゃないか……どうしていいかわからない。
とりあえず頭でもなでておく。
「よしよし、つらかったな……」
「ううう」
「それにしても、なぜ婚約破棄されたスカーレットがこんなド田舎にいるんだ? 経営してるレストランはどうしたんだ?」
「ううう……盗賊が来たんだ……店はそいつらに壊された」
「えっ?」
「婚約破棄されたとたんだった。店がいきなり盗賊に襲われたんだ! 実は王都には私たちみたいに地球から飛ばされた日本人が何人かいるんだよ。やつらはみんな強くてレベル30以上ある。そしてギルドにクランというヤクザみたいなチームをつくって民を襲ったりフィールドで魔獣たちを大量に殺害しては悪さばかりしてる」
「マジか……異世界ってけっこう生々しいんだな」
「ああ、自分だけが異世界に飛ばされていると思ったら、大きな間違いだぞ」
「なるほど……じゃあ、金貨もそいつらに奪われたのか? でもなんでそれなのに金貨が村にあるんだ?」
「まぁ、そんな治安の悪い王都だが、騎士団っていう警察みたいな組織があるんだ。さすがに盗賊もおおっぴらに盗んだ金を持ってはいられない。騎士に怪しまれたら金貨は没収される。アジトなんかも定期的にガサ入れされるからな。だが、王都の中でゆいいつ騎士団の権限が及ばない場所がある」
「まさか……それがジャマールなのか」
「さすが探偵さん頭がキレるね。貴族だけは騎士団でも手が出せないんだ」
「貴族のジャマールはギルドで盗賊を集めてから、店を襲わせて金貨を奪ってからこの村に保管した……そういうことか?」
「おおむね、そういうことだ」
「なるほど……だがなぜこの村に保管しなければならいないのだろう。貴族の家に保管しておけばいいではないか?」
「ジャマールには絶対に逆らえない父親がいるんだ。名前はセガール・ベルセリウスといって、まぁ、王都を裏で牛耳る国務大臣みたいな存在だよ。やつはおそらく転移した日本人だと思う。王都にはこんな噂が広まっているんだ。セガールの前世は会社の経営者で、異世界にきたからその能力を存分にはっきした。そして健全にスローライフをおくってるってさ。セガールは普通にこの異世界に溶け込んでいるんだよ。ぱっと見は日本人と思わなかったしね。もう完全に異世界人になりきっているんだと思う。そんな生真面目なセガールが、もし息子が盗んだと思われる大金を持っていると知ったならどうなっちゃうだろうね。搾り取られるジャマールを想像することは難しくない」
「なるほど。とすると、ジャマールはいったんこの村で金貨を保管して、ほとぼりがさめたら自分の懐に戻しにくる……そういうことか」
「ああ、おそらくな。何も王都で金をつかって遊ばなくてもいいんだ。この異世界のフィールドには娯楽性のある街がいくらでもあるからな」
「そうなのか……異世界と言っても人間が住んでる以上考えることは一緒なんだな」
「ああ、男たちはみんな酒と女と金に溺れてスローライフをおくってるよ」
唖然とした。
まだ異世界というものがどんなものかまったく検討がついていなかったが、田中さんの話を聞いていると、絶望しかないような気がする。
「それにしても、一つだけ腑に落ちないことがある」
「なんだ?」
「そういった内情があるのにも関わらず、あかねちゃんはなぜこの村に金貨が保管されてあると知ったんだ? そのジャマールという男にしても部下の盗賊たちにしても、簡単に自分のした犯行などベラベラしゃべらないだろう」
「それについては……まぁ、盗賊の一人を女の武器を使ってちょちょっと……な」
「吐かせたのか……見た目は美少女、頭脳はおばさんだな」
「うるせぇ……おばさんおばさんってさっきから貴様っ! 私の前世を見てから言えよ」
ちょっとキレ気味にこちらをにらむあかねちゃんは、おもむろにスマホを取りだした。
しばらく指先で操作して何かを探すような素振りを見せると、サッと画面が見えるようにテーブルの上に置いた。そこには綺麗な女性の姿が写っていた。おしゃれバーでカクテルでも飲んでいるときの写真だろうか。まるでアイドルのような笑顔で、ストローをくわえている。俺は猛烈に反省をした。おばさんなんかじゃなかったからだ。
「す、すいません……お姉さん、いや、綺麗なお姉さん」
「わかればよろしい」
俺はもう一度だけ写真を見て確認した。この可憐な少女がこんな綺麗なお姉さんになるのか……おっぱいもあるし、それだけに呪いによって成長が止まるのは非常に心苦しいことだと思った。
「あかねちゃんは今、自分の年齢は何歳くらいなんだ?」
「きっとおっぱいの大きさからいって十三から十四歳くらいじゃないかな」
「……おい、おっぱいを揉んでそんなことがわかるのか?」
「ああ、なんとなくな。思春期のころいきなりでかくなるから驚いたよ」
たしかに思春期の体の変化には驚くべきものがある。
しかし例えおっぱいが大きくなくても、あかねちゃんは十分に美少女だし、口調はこのように厳しいが本当は優しい心を持っていると思われる。そんなあかねちゃんのことを婚約破棄した男がいるなんて信じられない。いったいどんな顔をしているのか見てみたいものだ。イケメンだったりするのかもしれない。
「いや、省みると……おっぱいなんか口実に過ぎなかったんだ。おそらく最初から私の金を狙って近づいてきたんだと思う」
「……そ、そうなのか」
「ああ、金貨のありかはジャマールにしか教えてなかったからな。ジャマールはこう言ったよ。僕たちは婚約するんだから教えてくれよって言われて……つい教えてしまった私もイケないがな……」
「そんなことはない……君は悪いところは一つもない」
「和泉……優しいんだな。でも、はっきり言ってくれていいんだぞ。自分でもわかってるんだ。異世界のイケメン貴族が私みたいな少女に本気になるわけない。だろ? それでも……私は嬉しかったんだ。好きだって言ってくれたし……いつも会いに来てくれたし……私にもやっと好きな人ができたと思っていたよ……バカだった……本気になった私がバカだったんだよ……」
笑っているのか泣いているのか。
あかねちゃんは何かの味を思い出したかのように唇に指を触れさせた。その手は震えていた。するとひと粒の涙がサッと頬を流れた。わかりきったことだった。あかねちゃんは恋をしていたのだ。こんな可憐な少女をだまし、そのあげくに金を盗むなんて……そのジャマールという男、絶対に許せない。
「よし、決めた!」
「えっ」
「取引は断る。俺は金貨なんていらない」
「な……マジか……私を村長に突き出すのか?」
「いや、君のことを信じる。金貨は君のものなんだろ?」
「……うん」
俺はそう言ってから席を立った。
ふと、リンちゃんの様子を見てみると、大きな瞳を開いて、ジッとこちらを見つめていた。お互いに目があった。猫の耳はとてもいいと本で読んだことがある。おそらく寝てるように見えても、実際は俺とあかねちゃんの会話を聞いていたに違いない。
「どこにいくの?」
「村長のところさ」
「どうするつもりだ?」
「どうするも何もない。そのジャマールって男がそのうちに金貨を取りにくるんだろう? そのときに金貨がないとこの村はどうなるだろうな? 何か対策をしておかないとマズイことになるのは明白だ」
「和泉……貴様もしかして私がこの村を見捨てるとでも?」
俺は首を横にふった。
「ニャー」
眠りからさめたリンちゃんが鳴いている。そしてゆったりと歩いてくると、そのもふもふとした体を俺の足に擦りつけてきた。その仕草はなにやら、私も一緒ですよ、とアピールしているみたいだった。
「ジャマールと戦うんだろ? 俺にも手伝わせろよ」
あかねちゃんは指先で涙をぬぐうと、小さな声でつぶやいた。
「バカ」
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる