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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨
14 俺の名前は和泉秋斗、探偵だ。
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「嘘をつけ……俺は魔王なんかサクッと倒して地球に戻りたいんだが」
「ふふふ、青いな貴様は……まだこの異世界に来たばかりだろ?」
「……それがどうした?」
「この異世界がどれほど素晴らしいか、貴様はまだ知らないからそんなことを平気で言っていられるんだ」
「……おい、あかねちゃん、頭は大丈夫か? 異世界なんて素晴らしいわけないだろう」
「ふっ……貴様は何もわかってない」
「あかねちゃんは地球に戻りたくないのか?」
苦笑するあかねちゃんは、おもむろに人差し指で棚の上を示した。
そこには例のぬいぐるみが置いてあった。やっぱり見覚えるのあるぬいぐるみで、俺は嬉しくなって思わず顔が緩んでしまった。子どものころによく遊んだおもちゃだったからだ。クリスマスイヴの朝、目覚めると枕元にこのぬいぐるみが置いてあった。懐かしい冬の思い出だ。
「うわぁ、懐かしいよなぁ、リラネコ! もふもふだぁ」
「私だって帰還したいよ。でも魔王を倒せる力なんて持ってない。だから私は異世界で寂しくなったときはこれを抱いて眠るんだ」
あかねちゃんは悲しそうな表情で天井を仰ぐ。
俺は思わず質問してしまった。女の子が泣きそうなのに、黙っままほっておけない。
「あかねちゃん……この異世界で何があったんだ?」
あかねちゃんは、さっとリラネコに歩みよると、そのお腹をなでた。
すると内部に入っているセンサーが反応して「ニャ~ン」というエレクトロニックな鳴き声が響いた。リラネコはかつて愛くるしい顔で一世を風靡したゆるキャラだ。制作会社の設定によるとリラネコは決して猫ではなく妖精なのだそうだが、遊ぶほうとしてはどうでもいい話だ。
「なるほどな……村長が言っていた『息をしていないのに鳴く動物』という表現もこれでやっと納得ができた」
「異世界の住人にとっては不思議だろうな。初めて見せたときのあいつらの顔といったら、きゃはは、めちゃくちゃ驚いていたよ」
「そりゃそうだ。俺たちが魔法に驚くように、彼らは電気というものに驚くだろう」
「ああ、私がスマホからEDMを流したときなんか、お祭り騒ぎだった」
「あかねちゃんパリピかよ。君は異世界の生活を楽しんでるだろ?」
「まぁな……私は転移した初期は冒険者ルートを歩んでいたが、この冷蔵庫のスキルが使えることを知ってからは、商人ルートを爆走していたんだ」
「ほう、その話を詳しく聞きたいな」
「婚約破棄からはじまる話だけどいいか」
「何かのラノベかよ……サクッと話してくれ」
俺がそう言うと、あかねちゃんは「わかった」とうなずいてから冷蔵庫の扉を開けた。
そのとき彼女は微笑んで見せた。本来もっている彼女の優しさがあふれているように感じた。そして冷蔵庫の中からピッチャーを取り出すと、何か訊きたそうな顔で、俺のほうをじっと見つめた。
「麦茶でいいか? えっと……」
あかねちゃんは、おそらく俺の名前を知りたいのだろう。
「麦茶でいい。あと、俺の名前は和泉だ和泉秋斗。前世では探偵をやっていた」
「猫ちゃんを飼っている探偵の和泉か……なんか可愛いな」
あかねちゃんは麦茶をコップに注ぐと、手際良くテーブルの上に置いた。
俺は椅子を引いて腰を下ろし、一服することにした。
「ふふふ、青いな貴様は……まだこの異世界に来たばかりだろ?」
「……それがどうした?」
「この異世界がどれほど素晴らしいか、貴様はまだ知らないからそんなことを平気で言っていられるんだ」
「……おい、あかねちゃん、頭は大丈夫か? 異世界なんて素晴らしいわけないだろう」
「ふっ……貴様は何もわかってない」
「あかねちゃんは地球に戻りたくないのか?」
苦笑するあかねちゃんは、おもむろに人差し指で棚の上を示した。
そこには例のぬいぐるみが置いてあった。やっぱり見覚えるのあるぬいぐるみで、俺は嬉しくなって思わず顔が緩んでしまった。子どものころによく遊んだおもちゃだったからだ。クリスマスイヴの朝、目覚めると枕元にこのぬいぐるみが置いてあった。懐かしい冬の思い出だ。
「うわぁ、懐かしいよなぁ、リラネコ! もふもふだぁ」
「私だって帰還したいよ。でも魔王を倒せる力なんて持ってない。だから私は異世界で寂しくなったときはこれを抱いて眠るんだ」
あかねちゃんは悲しそうな表情で天井を仰ぐ。
俺は思わず質問してしまった。女の子が泣きそうなのに、黙っままほっておけない。
「あかねちゃん……この異世界で何があったんだ?」
あかねちゃんは、さっとリラネコに歩みよると、そのお腹をなでた。
すると内部に入っているセンサーが反応して「ニャ~ン」というエレクトロニックな鳴き声が響いた。リラネコはかつて愛くるしい顔で一世を風靡したゆるキャラだ。制作会社の設定によるとリラネコは決して猫ではなく妖精なのだそうだが、遊ぶほうとしてはどうでもいい話だ。
「なるほどな……村長が言っていた『息をしていないのに鳴く動物』という表現もこれでやっと納得ができた」
「異世界の住人にとっては不思議だろうな。初めて見せたときのあいつらの顔といったら、きゃはは、めちゃくちゃ驚いていたよ」
「そりゃそうだ。俺たちが魔法に驚くように、彼らは電気というものに驚くだろう」
「ああ、私がスマホからEDMを流したときなんか、お祭り騒ぎだった」
「あかねちゃんパリピかよ。君は異世界の生活を楽しんでるだろ?」
「まぁな……私は転移した初期は冒険者ルートを歩んでいたが、この冷蔵庫のスキルが使えることを知ってからは、商人ルートを爆走していたんだ」
「ほう、その話を詳しく聞きたいな」
「婚約破棄からはじまる話だけどいいか」
「何かのラノベかよ……サクッと話してくれ」
俺がそう言うと、あかねちゃんは「わかった」とうなずいてから冷蔵庫の扉を開けた。
そのとき彼女は微笑んで見せた。本来もっている彼女の優しさがあふれているように感じた。そして冷蔵庫の中からピッチャーを取り出すと、何か訊きたそうな顔で、俺のほうをじっと見つめた。
「麦茶でいいか? えっと……」
あかねちゃんは、おそらく俺の名前を知りたいのだろう。
「麦茶でいい。あと、俺の名前は和泉だ和泉秋斗。前世では探偵をやっていた」
「猫ちゃんを飼っている探偵の和泉か……なんか可愛いな」
あかねちゃんは麦茶をコップに注ぐと、手際良くテーブルの上に置いた。
俺は椅子を引いて腰を下ろし、一服することにした。
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