異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

9 盗まれた三億の金貨

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 若者の体は大きくて、のしのしと歩いていた。
 後を追っていると、一つだけ飛び抜けて大きな建物に入っていく。そこは階段があり高床式の構造になっていた。どうやら村の倉庫のようで、いくつも並んでいる部屋の間取りは、まるで迷路のようだった。その各部屋には袋詰めされた穀物が積まれており、芳しい香りが漂っている。長時間ここで寝かせて熟成させているようだ。

 さらに奥に進むと、頑丈そうな黒い異質な扉があった。その形は腰から頭までの高さで収まり、計ったような正四角形だった。取手には鍵穴があり、厳重な施錠がされてある。おそらくこの村のお宝が眠っているのだろう。
 
「ここに金貨が入っていたんだ」
 
 若者は顎をグイっとあげて示した。
 俺は壁と一体になって重鎮としている金庫を見ながら、ゴローに尋ねた。

「いくら入っていたんだ?」
「三億だ」
「その金貨の形状は? 三億と言われてもわからないんだが」
「あ、ああ、わかりやすく言うとだな、百万金貨が三百枚で、三億だ」
「なるほど……で、いまは空っぽってわけか?」
「ああ、見事にな」

 若者は首に下げていた縄のネックレスに触れた。
 ネックレスには紐でくくりつけた鍵がついており、大事そうに紐から解いて鍵だけを外した。
 そして鍵を取手の鍵穴に差し込んで手首をひねった。ガチャっという乾いた音が響くと、黒い扉が解錠された。
 
 たしかに金庫の中は綺麗さっぱりとしていた。
 見た感じの容量はそれほどでもなくて、家のクローゼットにある布団が収納できるボックスくらいの大きさだった。
 
「盗まれた金貨を見つけ出してくれないか?」
「ああ、やってみよう……」
 
 若者は頭を下げながら俺に言うと、また鍵を使って黒い扉を閉めた。
 大事そうにネックレスに触れると、紐のついた鍵をくくりつけている。
 
「さて、と……」

 とりあえず俺は、この若者を調査してみた。
 両手の指先で四角くをつくって若者をおさめて『サーチ』してみた。
 キュインという音が鳴るとウィンドウが放たれた。
 宙に浮かんだウィンドウを指先で広げると、大画面に拡大させた。
 
『 ゴロー 村長 せいべつ:おとこ 』
『 レベル:16 ねんれい:32  』

『     ちから: 80 』
『    すばやさ: 30 』
『   みのまもり:120 』
『    かしこさ: 10 』
『   うんのよさ: 55 』
『  さいだいHP:160 』
『  さいだいMP:  0 』
『   こうげき力: 42 』
『    しゅび力: 68 』

『 EX:   13230 』
『  G:       3 』

『 スキル:まきわり    』
『 のろい:アル中     』
『 まほう:        』
 
 若者の名前はゴローさんか……年齢三十二歳まぁまぁ年上だな。
 ステータスをオープンしていると、ゴローさんはびっくり仰天して腰を抜かした。

「わわ! 探偵さんっなんだこいつは? 魔法かい?」
「魔法? いや……スキルらしいが」
「スキル……もしかしてあんた噂の勇者様か?」
「勇者? いや、そんな中二病みたいなものじゃない。俺は探偵だ」
 
 そうだ、俺は探偵なんだ。しっかりゴローさんを調査しなくては……。
 おや? この『のろい』ってなんだ? しかも『アル中』ってなんだろう。
 腕を組んで推理する俺に向かって、ゴローさんは興味津々な顔をして尋ねてくる。
 
「なんかわかったかい? 探偵さん」
「いや、まだ調査中の段階なのでなんとも……」
「そうかい。金貨が見つかったら教えてくれ。実は、金貨は村のもんじゃなくてな。王都にいる貴族ジャマール・ベルセリウスっていう若旦那の金貨なんだ」
「王都? 貴族……異世界にはそんなやつらがいるのか?」
「ああ、なんでも、王都に金貨を置いておくと危険だからここに保管して欲しいんだとよ。いい迷惑だよなっ」
「ほう、なぜ王都に金貨を置いておくと危険なんだ?」
「王都の治安は悪くてな……物騒な盗賊がいるんだとよ。だから貴族はここに金貨をしまったわけだ。だけど盗まれちまったがな! ヤバイよなっ、がはは」

 笑ってすまされるのだろうか? なんというメンタル。
 ゴローさんのスキルに『ハードメンタル』と載っていてもよさそうだ。
 
 あと肝心なことだが、Gというのはおそらくゴールドのこと。つまり金貨を意味する単位だろう。
 ということはゴローさんの所持している金貨は3Gということになる。
 
 え? ちょっと貧乏すぎないかゴローさん? 
 金貨が盗まれている状況なのに陽気に笑ってやがるし、なんとも緊張感のない性格をしている。
 ちょっとゴローさんの人柄に好感が持てた。

「ところで、ゴローさん、あなたお酒は毎日飲むのか?」
「ああ、飲むぜー! っていうか俺の名前おしえたっけ?」
「いや、ステータスをのぞかせてもらった」
「すてーたすぅ? 酒の銘柄か?」
「ああ、そんな感じだ。で、ゴローさんがいつも飲む酒は何だ?」
「ビールってやつだ! これが喉越し爽快でうめぇんだっ!」
「そのビールはどこで手に入れたんだ?」
「えっと、たしか一か月前くらいに、ふらっと村に迷い込んできた美少女がいてな。その子からもらったんだ。さっき探偵さんが美味いって褒めていた料理だって、全部その子が作ったんだぜ。すごいだろ」
「なるほど……もしかしてニャンガミ様という信仰もその子の影響か?」
「察しがいいな! さすが探偵さんだ。ああ、その子がニャンガミ様を持っていたんだよ。息をしていないのに鳴く動物でね。はじめは怖かったが、だんだん可愛くなってきてさ。いまではニャンガミ様もその子もみんなのアイドルさ」
「ニャンガミ様……あはは、俺は自分だけが特別な存在だと思っていたが、どうやら大きな間違いだったようだ。あはは」

 急に笑いだした俺を、ゴローさんは不思議そうに見つめていた。
 
「探偵さん? 何がおかしい? もしかして……もう犯人がわかったのかい?」
「ああ、わかった」
「マジかっ!? いやあ、探偵さんに相談してよかったぜ……で、誰なんだい?」
「犯人は村の中にいる、しかも……」
「しかも?」
「日本人だろう……」
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