異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

3 魔獣を倒したらEXPもらえるらしい

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「おい! 御主人様をおいてくなっ!」
「だって~~怖いんですも~~~ん!」
 
 リンちゃんは全速力で走って逃げていた。
 突如として現れた魔獣は、目を光らせながら俺たちのほうに向かって突進してくる。
 もしかしたらこの魔獣は飢えていて俺たちを食べるつもりなのだろうか?
 だとしたらヤバい! 動物に捕食されて死ぬなんて、たとえ異世界であったとしても納得できるものではない。

 それにしても俺の足はこんなに速かったか?
 と思うくらい足音はグングンと加速していった。
 おそらく前世で犯人を捕まえるときのために、せっせとジムでランニングマシンで走って鍛えていた成果が出たようだ。
 そして、気がつけば、先に逃げていたリンちゃんに追いついていた。そのときだった。
 
「きゃっ!」

 リンちゃんは転んでしまった。
 地面から突き出た木の根っこを避けようとして足がもつれてしまったようだ。
 人間の姿にまだ慣れていないのだろうか? 
 足をくじいてしまってすぐに起き上がれそうにない。
 リンちゃんは、しまった、という悲痛な顔をすると大きな声で叫んだ。
 
「御主人様っ! あたしのことはいいですから逃げてくださいっ!」

 はっとした俺は、心の中で自問自答する。
 リンちゃんを置いて逃げるだと? 
 こんな可愛い美少女の猫ちゃんを置いて逃げるなんて……そんなこと……できるわけがない! 
 
「リンちゃんは俺が守る!」

 立ち止まった俺は踵をかえし、向かってくる魔獣へと睨みつけた。
 背後から、リンちゃんの泣きそうに訴える声が聞こえてくる。

「御主人様! いいんです。あたしは猫です。動物なんです。食うか食われるかという弱肉強食の世界にいる弱い生き物なんです。だから強い者に食べられるのは、それは運命なんです」
「弱肉強食か……では、今の俺はどれくらい強いのだろうか?」
「え?」
「ちょっと戦ってみる……」
「え、ちょっと……御主人様? いくらなんでもやめておいたほうが……」
「大丈夫だ。君を守ってみせる」
「……!?」

 ドドドドドド、と突進してくるモンスターは大きな口を開けると足を止め、俺のことを睨みかえしてきた。
 やる気だなこいつ。
 その口の中は野生動物特有のでたらめにギザギザした歯をしてやがる。あんなもので噛み砕かれたら即死だろう。
 すると魔獣はさらに口を大きく開けた。その口の中から眩しい閃光が輝いた。
 
「御主人様ー! 逃げてください! 死んじゃっダメーーー!」

 リンちゃんの叫び声が耳に入ってきたと同時に、魔獣の口から真っ白なレーザービームが放射された。
 ブンッという音の衝撃波が伝わってくる。

「やばっ」

 たまらず俺は顔の前で腕をクロスし、防御態勢になった。
 ズドン! 恐ろしいほどの激しい爆音を浴びた俺は、レーザービームをまともに食らってしまった……が……。
 
「えっ?」

 特に痛みを感じなかった。
 さらに俺の体に当たって跳ねかえったレーザービームが、ズババッと音を立てて周りの木々をなぎ倒し、深い森をズタズタに切り裂いている。
 
「な、なんだこれは……」

 まったく無傷だった。着ているスーツすら破けていなかった。
 ふと、冷静になり周りを観察すると、立ち上る砂埃の中に損壊する木々や岩場などが見えた。
 自然環境を破壊しているようで心が痛くなった。
 この魔獣との戦闘は環境に良くないと察した。
 よって、これ以上、魔獣があばれないように一瞬でかたをつけてやらないといけない。

「おりゃっ」

 魔獣の頭に狙いをつけた俺は、渾身の回し蹴りを叩き込んでやった。
 ブワン、というものすごい風圧が巻き起こった。
 自分の足ではないみたいに、綺麗な竜巻旋風が必殺技のように発動していた。
 気がつくと魔獣の頭がなかった。どうやら跡形もなく粉砕したようだ。
 
「きゃーーーー!」

 リンちゃんは悲鳴のような叫びを発しつづけた。
 魔獣の頭からまるで噴水のような真っ赤な血が吹き出し、あたり一面を血の池にかえている。
 鳥の鳴き声だけが響いていた静寂な森が、今ではなんとも言えない地獄絵図となっていた。
 
「うっわ……っきも……ビクビクしてやがる」

 切断された首から下の内部にモザイクをかけてやりたい気分になった。
 すると頭がなくなって体制を維持できなくなった魔獣は、ドシャッと倒れた。
 リンちゃんは震えた唇をおさえながら口を開いた。
 
「し、死んでしまったようですね……」
「ああ」
「す……すごく強いんですね御主人様」
「まぁな、いちおう空手をやっていたからこれくらい朝飯前だ、オッス!」
「す、すてき……♡」

 リンちゃんのほっぺたが真っ赤にそまっていた。
 動物でも人間に恋することがあるのだろうか?
 まぁ、それもあり得ることだろうな。なぜなら俺だってちょっと胸が熱くなっているからだ。内緒だが……。
 っていうか、それにしてもなんだこの強さは? 力がみなぎってくるぞ……拳をにぎると青白く光るし……なんだこれは?
 
「御主人様? 手が光ってますよ?」
「うん、さっきからおかしいよな……俺……」

 すると俺の頭の上で、ピローンという音がなった。
 心なしか、キラキラと輝いた星屑のようなものがはじけると『EXP2530』という文字がふっと浮かびあがった。
 指先で触れてみたがスカスカで触ることができなかった。
 
「ん?」
「EXP2530……経験値でしょうか?」
「おや? リンちゃんは文字が読めるのか?」
「バカにしないでください! 気づいてはいないでしょうけど、私たち動物は、いつも人間たちを観て学習しています」
「そうだったのか……ごめん」
「大丈夫です。すべての動物がそうではないですが、私など家畜は人間と仲良くなりたいと思ってます」
「か、家畜って……俺はリンちゃんのことを家畜とは思ってない。俺は……俺はリンちゃんのことを女の子だと思っているよ」

 リンちゃんの頭についている猫耳が、ビクンビクンと震えていた。
 動物でも心がゆれ動いたりするのだろうか。その相手が例え、人間の男だとしても。

「と、とにかく御主人様は魔獣を倒して経験値がはいったみたいですね」
「ああ、どうやらそうみたいだな」
「この表記……この数字……前世の御主人様がよく遊んでいた剣と魔法で世界を救うRPGゲームと似ています」
「へぇ、それは興味深い」

 たしかにリンちゃんの言う通りだった。
 なんだかこの異世界というものは、子どものころに夢中になって遊んだRPGゲームにそっくりだった。
 しかし、そんなゲームとはまったく違うことが実際には起きていた。
 それは、倒した魔獣が消えてなくならないということだ。
 この異世界では、戦闘に勝利した俺はそのまま生き残り、死体となった魔獣は大地に剥がれ落ち腐って淘汰されていく。
 とても生々しい光景が目に飛び込んできて、焼きついてしばらく頭から離れそうにない。
 当然のように魔獣の死体はあたりに異臭を放ち。なんとも落ちつかないさびた鉄の匂いを漂わせている。
 これが死滅した生き物の体内から流れ出た血の匂いというものか。
 そんなもの俺は生まれて初めて、いや、もう俺は死んでいるのかもしれないが初めて嗅いだ。
 
 ちなみに、俺の記憶が正しければ、RPGゲームだと魔獣は死滅すると同時にその個体は煙のように消滅。
 そのかわりに金貨になったはずだが、この異世界はそうではないようだ。
 ちょっとだけ寂しさを覚えた俺は、相変わらず光りつづける自分の手を見つめた。
 自分の身体に起きているこの現象も……何がなんだかわけがわからない。
 
「あの……御主人様のその手、何かやってみたらどうでしょうか? さっきからずっと光ったままですよ」
「これか? なんだろうな」

 ぱっと手を開くと、キュインという音を立てて、何か出てきた。
 薄っぺらい液晶画面だろうか?
 いや、空中に浮かぶパソコンのウィンドウか?
 しかしこのウィンドウの形がなんとも歪な形をしている。角が曲がったり穴が空いていたりと見にくいものだった。
 なんとも強烈な違和感があった。おもむろに両手の指先をL字にして四角い枠の窓を作ってみた。
 
 キュイン! と弾むような音が響いた。
 すると指先から長方形の黒いウィンドウが現れた。
 
「な……なんだこれは?」
「う~ん、ステータスみたいですね」

 困惑している俺の隣で、リンちゃんは冷静な口調でそう説明した。
 未知なる物を目にしたとき、人間よりも動物たちのほうが本能に忠実だから、瞬時に判断する能力が高いのだろう。
 そしてリンちゃんの知能の高さにも驚くべきものがあった。
 猫のときから先天的に知能が高いのか、それとも人間の姿になったことによる後天的なものなのかどっちだろう。

 それにしても、この薄っぺらいウィンドウが、なぜ浮いているのかわからない。
 何を原動力にしているのかも検討がつかない。
 とてもじゃないが、いまの俺の理工学の知識ではこの仕組みを解明することはできない。お手上げだ。
 しかし、まぁ、とりあえず出てきた情報だから見てみることにしよう。何かわかるかもしれない。
 
『 チュピエモン タイプ:でんき 』
『 スキル:レーザービーム    』
『 討伐レベル:28       』
『 獲得EXP:2530     』
『 弱点:火・水         』
『 特徴:単独行動を好むが、巣篭もりは集団で身を寄せ合っている 』

「ん? この情報は……倒した魔獣のものかな?」
「きっとそうでしょう。スキルのところを見てください。たしかにこの魔獣はレーザーを放出してきましたので間違いないでしょう」
「なるほど……弱点は火と水か、それに特徴までわかるなんて、このステータスってやつはやけに親切だな」
「はい。こういった情報を頼りに冒険者は旅に出て活躍をしてるのです。中国の軍師思想家である孫子はこんなことを後世に残してます。敵を知り己を知れば百戦あやうからず、と」
「……え? リンちゃんなんでそんなこと知ってるの?」
「教育テレビか何かで言ってました。あたしは猫なので普段の生活では、特にやることもないから、そんなことを覚えるくらいしか楽しみがないのです」
「す、すごい……」
「では御主人様。つづいて御自分のステータスを見てください」
「あ、そっか」

 リンちゃんに、ほれほれと肘でつつかれて促された俺は、指先で四角をつくってから自分の頭上に当ててみた。
 しかし何も出なかった。

「あれ……」
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