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第一章 異世界の村 毒の森 盗まれた三億の金貨

2 猫娘の名前はリンちゃん

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「な……なんだあれは?」

 決定的だった。信じられないが、ここは地球ではないことがわかった。
 不気味な光が大地に射し続けているなんて、地球の物理法則では考えられない現象が起きているからだ。

 さらにあの光は、まるで核爆弾を投下した瞬間の閃光に似ている。
 もしもそうであるならば、あの周辺は放射能汚染まみれだろう。
 とてもじゃないが、生身の人間では近づくことはできない。たとえ近づいたとしても、即死だろう。
 
「あの……」

 クラシックピアノのような可憐な声が聞こえてきた。
 振り向くと、美少女の猫ちゃんが心配そうな顔をして、俺の羽織っているジャケットをつまんでいる。
 
「ああ、どうした?」
「さっきの鳥さん……いえ、神様が飛び立つ前におかしなことを言ってました」
「え?」
「あいつら死んでないようだったな? 転移したのかな? まぁいっか……と」
「なんだそりゃ! まったく、てきとうな神様だなあ」
「ええ、ほんとうに……うふふ」

 美少女の猫ちゃんはクスクスと笑うと鼻を掻いた。
 つづけて手を舐めると毛づくろいする。猫ちゃんにとってはとても大切な意味があるのだろう。
 体を清潔に保ち、体温を調節したり、気持ちを落ち着かせたりする効果がある。
 可愛いらしい仕草だから、見ているこっちは幸せな気持ちになる。
 しかも今は猫耳のついた美少女だ。そのハッピーオーラは萌えキュンだ。わぁ、尊いよぉ。
 
「なぁ、猫ちゃんの名前ってなんだ?」
「はい、御主人様からは、リンと呼ばれていました」
「俺も呼んでいいかな?」
「もちろんです。でしたらこの異世界では……あなたがあたしの御主人様になってくれますか?」
「えっ……ああ、もちろん」
「わーい! ありがとうございます。とっても心細かったんです」

 か……可愛すぎるではないか……俺の顔はめっちゃ赤くなっている。こんな姿とても他人には見せられたものじゃない。
 だけどここは異世界らしい。誰も見てないから、まぁ、いいだろう。
 
「あの……御主人様ぁ……あたしお腹すいちゃいました」
「じゃあキャットフードでも食べるか?」
「はい」

 俺はジャケットのポケットに手を突っ込んですぐ、あ、しまったと思った。
 ポケットに入っていたのは、小粒のキャットフードが二つしかなかったからだ。
 これだけではリンちゃんの胃袋を満足させてやれそうにない。
 これは困ったぞ……でも、リンちゃんは、ちょうだいって目をしてこちらを見つめてくる。
 その目の奥はハートマークだった。
 
「ごめん、これだけしかなかった……」
「大丈夫です」

 リンちゃんは快活にそう答えると、俺の手のひらに顔を肉薄させてきた。
 そのまま直に食べるつもりらしい。美少女の姿とはいえ、頭で考えることは猫のままなのだろう。
 それならば、躾として自分の手で餌を摘んで食べることを教えてもいいのではないか? 
 そんなことを考えていると、ざわざわと風もないのに木々が揺れ、地面が震えだした。
 
「なんだ? このざわめきは?」
「何か来ます!」

 ビクリと顔を上げたリンちゃんは、ピコリンっと猫耳を立てた。
 
「あっちの方角です!」

 リンちゃんはそう叫ぶと人差し指を西へさした。
 たしかにそっちの方角から不気味な声と、まるで雷が鳴るような振動が、ドゴゴゴゴと響いてくる。
 森の小道では小動物が逃げ惑い、狂ったように小鳥たちが羽ばたいている。何かから逃げるように。
 
 ガザッ!
 
「……え? なんだこいつ?」

 草場から飛び出してきたのは得体の知れない動物だった。
 バカでかいネズミのように見えた。その顔は可愛かったが、鳴き声は耳をおおいたくなるほど不気味だった。
 
「グォォォォォ」

 こっわ……関わりたくないタイプ。即去りするにかぎる。
 
「リンちゃん逃げる……ぞ?」

 と口走ったときには、すでにリンちゃんは遠くのほうまで駆けていった。

「逃げ足はやっ」
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