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第二章 楽ちん国づくり
5 雨
しおりを挟む「雨か……つまんないでやんすね」
ガルルが、そうつぶやいた。
僕がつくった家のベッドで寝転ぶ、バカでかい犬。
火事になった森を救ってからというもの、僕になついているのだが……。
「ガルル、犬小屋つくっただろ! あっちで寝ろよ!」
僕は、ツッコミを入れた。
っていうか、ガルルが自分で、
『犬小屋が欲しいでやんす』
と願うから、うちの隣につくったのに、なぜかこっちにくる。
「ヒイロ氏、あの犬小屋、雨漏りがひどいっすよ?」
「え、まじ?」
「まじっすよ! あの犬小屋はないわ~なしよりのなし!」
「そんなはずは……」
と、僕は言いながら、家を出て、犬小屋を調べた。
「あ、ほんとだ……」
ガルルが言ったように、天井から、ぽたぽた雨漏りしている。
すると、ノームが走ってきた。
「ヒイロぉぉ! おまえんちも雨漏りしてるよ」
「え?」
僕は急いで家に戻った。
すると、ノームが言ったように、ぽたぽた雨漏りしている。
なぜ? と思い、天井をよく調べてみると、
「あ、屋根も通気性がいい珪藻土にしたからかぁ」
建築が素人の僕は、失敗していた。
屋根は水を通さない材質にしないとダメだ。
床は、もっと土壌から底上げした方がいい。
そうしないから、
「うわぁぁぁ!」
蟻や蜘蛛やGなどが、大量に入ってきた。
もうこの家は地獄絵図、最悪や!
「ふんっ! こんな家、もういらない!」
僕は、土魔法──クレイプレイを使って、この家を土に還した。
そう、文字通り、泥にしたのだ。
あたり一面、泥だらけになった光景を見つめながら、僕は真剣に考える。
雨粒が大きくなってきて、泥が弾き、靴が汚れた。
傘もないので、髪や服は濡れまくり、身体が冷たくなっている。
──はやく、新しい家をつくろう。
ステータスオープンした僕は、建築の基礎を検索し、学びながら構図を描いてく。
隣では、ガルルとノームが、僕を見守っていた。
「がんばれーヒイロ!」
「ヒイロ氏ならできるでやんす!」
おい、おまえら何様だ? と僕は、心のなかでツッコミしとく。
しばらくして僕は、土魔法を駆使し、なんとか家を完成させた。
──石と土の家 キューブ
今度の家は、屋根を石でつくった。
それは緩やかな勾配にして、雨を流す工夫もした。
おまけに、雨戸を設け、受け口には水瓶を用意し、水の確保もしておく。
よし、これで雨漏りは解決した。
だが、壁は従来の通り珪藻土なので、通気性がある。
現在の異世界は夏なのだろう。
外気は暑いからいいが、もしもこの異世界に冬があるとしたら、この家では断熱効果がなくて寒すぎる。
──うーん、季節か……。
僕は根本的に、この異世界の自然環境について、調べてみることにした。
「ステータオープン」
僕は、椅子に座り、しばらく勉強に励む。
ガルルやノームが、身体に寄りついて、かまちょしてくるが無視した。
「つまんないでやんす」
「ガルル、勉強の邪魔しちゃ悪いから行こっか、雨も止んだみたいだし」
ガウ、と鳴いたガルルは、犬らしく駆け出していく。
雨上がり外で遊ぶ、ガルルとノームの姿は、まるで幼女と化け物のダンスだ。
この異世界は、本当に不思議だ。
──なるほど……。
この異世界、いや、この星を調べたところ。
地球とそっくりだった。
この星は太陽の周りを公転し、やく24時間で自転する。
つまり、地球と同じく季節があり、時間設定も同じ。
しかも、水の比重を1とする単位なども同じ。
もしかしたら僕は、地球と同じようにテラフォーミングされた星。
つまり、もう一個の地球に、僕は転移したといってもよいだろう。
だが、魔法が使えるのはなぜ?
ノームが言うには、重力や空気が違うから、不思議な魔法が使えるらしい。
もっと調べたいが、そのあたりのことは、ステータスオープンしても、のっていなかった。
──まあ、細かいことはいいや、頭が空っぽの方が夢をつめこめる。
女神が現れないかな……。
僕は、ふと思った。するとそのとき。
「呼んだ?」
と、女神の声が聞こえてくるではないか!
「え? どこにいるんですか?」
僕は、急いで返事をした。
うふふ、と女神の笑い声が聞こえる。
「腕輪から話してるんだけど……聞こえる?」
「そ、そうなんだ、びっくりした……」
「で、何かよう? 今から神様会議に出席しなくちゃいけないんだけど」
「あ、あのですね、この星ってなんなんですか?」
「あれ? 言ってなかった?」
「言ってませんよぉ」
「ごめん、この星はあたしがつくった銀河のなかの星よ」
「え?」
「うん、モデルはもちろんあなたたちがいる地球の銀河ね」
「……なぜ、そんなことを?」
「うーん、趣味かな。あたしは人間という生命が好きなの」
「はぁ」
「人間が争ったり、愛しあったりするところを見るのが好きなの」
「なるほど、つまり、僕らはあなたの鑑賞物ってところですか?」
大正解! と言った女神は、うふふと微笑んだ。
「ねぇ、ヒイロくん、あなたと一緒に来た同級生、今どうなっているか知りたい?」
「え? みんな、どうしてますか?」
「うふふ、すごいわよぉ、とてもあたしの口からは言えないわぁ」
「……はい? ちょっと意味がわからないんですが?」
「ごめん、ヒイロくんは童貞だったね」
「ぐっ!」
僕は、悔しくて唇を噛んだ。
「みる? ステータスオープンした、その枠から見せてあげようか? あの子達がどうなっているのか?」
「……」
なぜだろう。
ドキドキしてきた。
まさか、ミツルがアイリちゃんに、変なことしてないよな?
──うーん、見たいような、見たくないような……。
でも、僕は……。
「お願いします! 女神様ぁぁ」
気づけば僕は、両手を合わせていた。
女神は、パチンと指を弾いて、宙に枠を飛ばす。
その大きさは、僕の腕輪の枠よりもでかい。
まるで、電気屋の液晶テレビかよ。
「さあ、観るがよい! 異世界に飛んだ哀れな子羊たちを……」
女神は、高らかにそう言うと、枠が光り始め、何かを映し出す。
「こ、これは……アイリちゃん!」
そこにはベッドに寝かされる、アイリちゃんの姿がある。
すると、ゆっくりとベッドに近づく黒い影。
ニヤッと笑うミツルの顔が、アップで映し出された。
──まじか……!?
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