ピアニストの転生〜コンクールで優勝した美人女子大生はおじいちゃんの転生体でした〜

花野りら

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第3章 作曲編

7 イヴァンの日常

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  教会の祭壇で片ひざをつき、深く祈りを捧げている男がいた。
  
  ステンドグラスから射し込む光が、埃の粒子をきらきらと照らす。
  
  空間は、深い縦長の構造と、支柱の並びがつくりだす透視的な効果により、奥にある祭壇に視線が引き寄せられる。
  
  このゴシック様式の教会は、まるでコウモリが翼を広げたかのような天井だった。
  
  聖なる教会である。
  
  だが、ブラックスーツに金髪にオールバックという格好の男が祈りを捧げるものだから、
  
「あらあら、悪魔くんのおでましね」

  と、シスター・ティナの皮肉めいた声が響いた。
  
  それほど邪悪さに満ちていたのだ。
  
  イヴァンは両指を組ませ、目を閉じ、うつむいたままだ。
  
  ティナは16才になったばかりの茶目っ気たっぷりな女の子であった。
  
  洋楽の歌姫、アリアナグランデを彷彿とさせた容姿だ。
  
  頭にかぶっているベールの下にある、クリッとした丸い目が愛くるしい。
  
  ゆったりとした袖のついたくるぶし丈の黒いワンピースをふわりと浮かせる。
  
  見事にシスター衣装を着こなしていた。
  
  そろそろとイヴァンに歩みよる。
  
  ティナの背丈は、165センチほどだ。
  
  くびれのある腰に巻いてある十字架のロザリオが、黄金色にきらりと光る。
  
  ぷっくりとしたピンク色の唇が開いた。
  
「さあ、迷える子羊ちゃん……。悩みを打ち明けるがよい……」

  と、イヴァンに細い女手を差し伸べる。
  
「ふう……」

  イヴァンは一息つくと、ゆっくりと立ち上がり胸を張って、
  
「狼の毛皮をかぶっているが羊だが、いいか?  シスターティナ?」

  と、ティナに睨みを効かせていった。
  
「いやあーーーん!」

  ティナは真っ赤にした頬を両手で覆うと、一目散にチャペルから出ていった。
  
  やれやれ。
  
  イヴァンは長椅子に置いてあったクランチバックを片手にひっかけるとシスターの後を追った。
  
  シスターのワンピースが黒く流れ、廊下の奥にある一室の扉に吸い込まれた。
  
  その時、ティナはちらっとイヴァンを見た。
  
  その表情はとろけるような笑顔だった。
  
  部屋に入るとチャペルの神々しい聖なる空間とは一変していた。
  
  簡素なありふれたビジネスデスクが並んでいる。
  
  そう、ここは里親と孤児をつなげる支援をしている団体の事務所である。
  
  別室からは元気よい子どもたちの声も聞こえてくる。
  
  事務所の奥に座っている40代の男が、ここのボスであるジョンだ。
  
  ジョンは、身長170ほどの丸っこい体格のどこにでもいそうな中年の男性だ。
  
  お腹が出ているのが悩みなのだが、どこか、ぬいぐるみのクマさんのようなキャラに似ていた。
  
  そんな、ゆるキャラ的なことも相まって、おっさんなのだが愛くるしさがあった。
  
  さらに、事務作業をしている女性たちや、子どもの面倒をみる女性従業員たちに囲まれて仕事をしているだけに、頭髪や衣類なども清潔感は充分にあり、男としては、まあ合格点だった。
  
  イヴァンが事務所に入ってくると、組んでいた腕を解放して、
  
「イヴァン様!  よく来てくれました!」

  と、大袈裟に喜びを表現する。
  
  イヴァンは、このテンションは嫌いではない。
  
  なぜなら、クールなイヴァンに対してこの様な振る舞いをする人物は、
  
「なかなかいないタイプ……」

  だったからだ。
  
「イヴァン様、この度のコンクール入賞おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

「先日、賞金の方も寄付金として銀行に振り込まれておりますよ」

「そうか」

「はい、では先週の支出内訳を報告しますね」

「ああ、そうしてくれ」

「では、こちらにおかけになって……」

  と、イヴァンを応接ソファーに座るよう促した。

  ジョンはビジネスバックから通帳と領収書の束、あとは数枚の書類を取り出して応接セットの机に置いた。
  
  イヴァンは引き落とされた日と金額が領収書と合っているか監査した。
  
  つまり自分の寄付金が何に使われているか確認したいのだ。
  
  すると、一枚の領収書を念入りに目を通しながら、
  
「このドレス一式とはなんだ?」

  と、イヴァンの鋭い眼力がジョンを問い詰める。
  
「おお、これはスィートシックスティーンで着るドレスですね」

「スィート?  なんだって?」

「おや?  イヴァン様は16才の女の子の誕生日は盛大に祝うことをご存知ないですか?」

「知らないな……」

  アメリカでは、日本でいうところの成人式といったものがない。
  
  その代わりに16才の女の子の誕生日は、もう大人の仲間入りとしてパーティーを開き盛大に祝ってあげる習慣がある。
  
  だが、男子は一般的にはしないなのでイヴァンが知らなくても当然といえた。
  
  ジョンは百聞は一見にしかずといわんばかりに、
  
「ティナ、ドレスに着替えてきなさい」

  と、命令する。

「はい」

  ティナは事務所の奥にある更衣室に入った。
  
  しばらくすると、紺色のドレスを着たティナが更衣室から出てきて、
  
「じゃーん!  どうですか?  イヴァン様」

  と、一回転すると、ドレスのスカートがふわりと舞った。
  
  イヴァンはティナの可愛らしい丸っこい瞳を見ていない。
  
  見ているのは、紺色のドレス一点であった。
  
  わなわなと拳を握り、まるで怒っているかのようだ。
  
  そんなイヴァンをみて、ジョンは生きた心地がしなかった。
  
  これは買ってはまずかったのか、と不味い表情を浮かべる。
  
  イヴァンの脳裏ではコンクールの表彰式が蘇っている。
  
  紺色ドレス。
  
  ハーフアップ。
  
  おっぱいの谷間が特徴的なあの女……。
  
  優勝メダルをかけられているソフィアを思い出していた。
  
  イヴァンは、やはり神経質なところがある。
  
  紺色のドレスを見ただけで、嫌な出来事を思い出してしまったのだ。
  
「どうですか?  ドレス似合いませんか?」

  ティナが、たれ眉の下にある、くりっとした瞳を潤ませた。
  
  はっと、我に返ったイヴァンが、
  
「あ、ああ、問題ない」

  と、ジョンにドレス購入の容認を伝えた。
  
  安心したジョンは、
  
「ティナ、着替えたらコーヒーを淹れてくれ」

  と、お願いした。

「はーい」

  ティナは満面の笑みでこたえた。
  
  更衣室に入ったティナは、紺色のドレスを脱いだ。
  
  上下とも純白の下着姿となり、ふくよかになりつつある胸を両腕で寄せると、
  
「イヴァン様にドレス見てもらっちゃった!」

  と、喜びを胸の中いっぱいにした。
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