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第三章 天職はセラピストでした

22 クリスマスプレゼント 12/24 夜  (シリアス)

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 全身黒ずくめの男が現れた。

 建物の間に隠れていたのか?
 
 それは一瞬の出来事で、隼人には反応できなかった。
 男は理音の首に右腕を巻きつけ、グイグイと締めつけている。
 
「ああっ」

 理音は息苦しく悶える。あっという間に拘束された。
 その男の顔を見て、隼人は驚愕と戦慄が体の中で交錯した。
 男の顔は骸骨だったからだ。暗黒のスカルマスクをつけていた。
 男の左手には、ギザギザのついたサバイバルナイフが握られている。
 黒光りする切っ先が、迫りくる恐怖感を増幅させた。
 
「な……なんだおまえは?」

 隼人の危機迫った質問に、男は、あはは、と狡猾に笑いながら答えた。
 
「おまえこそ誰だ? はは~ん彼氏だな? ざまぁみろ、もうこの女は僕のものだ」
「なんだとぉ!」

 隼人はグッと拳を握った。今すぐにこの男をぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。
 一歩前に右足が動いた。
 
「変な真似はやめておけ……女が傷ついていいなら話は別だけどな」

 あはは、と笑う男の声が響く。
 人間の皮をかぶったモンスターが、理音の自由を奪っている。
 隼人は、スッと肩の力を抜いた。
 そして思考する。一体このモンスターは理音をどうするつもりだろうか?
 わずかとはいえ、通行人がいる商業施設。
 理音が大声を上げたら一発で通報を受けてアウトだ。

 それなのに……こんなところで何が狙いだ?
 
「彼氏も一緒に来い……いいもの見せてやるよ」
「!?」

 ニヤッと笑う男は、理音を拘束しつつ店の中に引っ張っていく。
 
 嘘だろ……立て篭もるつもりか!?
 
 こいつ……バカじゃない……頭がキレるぞ……。

 おそらく最初から立て篭もる計画だったのだ。
 だが計算外のことが起きた。理音が俺に会いに外に出てきたことだ。
 
 こいつ……立て籠って何をするつもりだ? ま、まさか……。
 
 隼人は頭の中で男の犯行を空想した。
 やつは、この女が殺されたたくなければいう通りにしろ!
 と脅迫してくるだろう。
 俺が理音を好きな気持ちを徹底的に利用するはずだ。
 理音に刃を向けられた俺は、やつのいうこと何でも聞く。
 するとやつは、俺に自らを拘束状態になるよう脅迫してくるに違いない。
 女性たちも理音を殺されたくないだろうから、やつの脅迫には逆らえないだろう。
 何もできない俺の目の前で、女性たちが凌辱される。
 男の欲望のために犯される女性たちの光景を、俺はむざむざと見せられるわけだ。
 その女性たちの中に理音もいる。
 悲痛な叫び声を上げる理音の可愛そうな姿が目に浮かぶ。

 くそぉぉぉ!

 店の中に立て篭りされたら一巻の終わりだ……
 
 隼人の顔は真っ青に染まり絶望した。その時だった!
 視界に赤い服を着た人影が見えた。サンタクロースの格好をしているようだった。
 今日はクリスマスだ。
 サンタクロースのコスプレをして浮かれている通行人だろう。
 それにしても、刃物を持った男がいるというのに誰も気づかないなんてな。
 日本は平和な国だ。
 みんなイルミネーションを鑑賞したり、スマホに夢中になっている。
 自分らが盛り上がっていれば、他人のことなんて興味がないようだ。
 
 場に慣れてきたのか、男は握っていたサバイバルナイフで理音の髪を撫でた。
 ちょっとでも理音が動けば、顔に傷がつきそうだった。
 
「それにしても彼氏がいたなんてな……君には僕がいるのに……これは裏切りだ」
「ひっ」

 理音は顔が引きつって体を震わせる。
 肉薄するサバイバルナイフの刃が、理音の髪の当たっている。
 隼人は唇を噛んだ。悔しいが、理音の顔に傷がつくことは避けたい。
 肩を落とした隼人は、踵を返そうとした。
 その途端のことだった。奇跡が起こった。
 サンタクロースが現れた!
 赤い服に赤い帽子、口元には白い髭を生やしている。
 サンタはゆっくりと男の後ろに立った。
 人の気配を感じた男は、ぐるっと首を回して振り返った。
 
「うわぁ! なんだこいつ!?」

 驚いた男に向かって、サンタクロースがニコッと笑った。
 
「メリークリスマス」

 プシューーーーーーー!
 
「うわぁぁぁぁっぁあ! 目がぁぁっぁ!」

 悲鳴を上げる男は、ひっくり返って激しく転げ回った。
 目を掻きむしっている。目に何か入ったようだ。
 開放された理音は、助けてくれたサンタクロースを見つめた。

「モンスターには、ざまぁのプレゼントですわ」

 サンタクロースの右手には、小型の催涙スプレーが握られている。
 そいつを使って男の視力を奪ったのだ。
 信じられない……という顔をした理音は、震える声を上げた。

「は……ハルカ……なの?」

 ベリベリベリ!
 
 おもむろにサンタクロースは口元の白い髭を外した。
 美しい顔の輪郭が見え始める。
 ニッコリ笑ったハルカの顔が現れた。
 
「御名答!  わたくしですわ」
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