賢者の加護を受けた娘とコスプレお嬢様の恋と友情の物語

花野りら

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第三章 天職はセラピストでした

21 セカンドキス 12/24 夜

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 懐かしい香りがした。
 高級なアロマオイルとはまた違った香りだ。
 この香りはローマの夜を連想させる。
 運命の人と初めて出会った甘い夜だ。
 テベレ河を流れる水の音。
 ライトアップされたサンタンジェロ橋。
 微笑む大理石の天使像。
 温かくて広い彼の背中。
 ほのかに甘いムスクの香り。
 夢のような思い出。
 理音は運命の人を見つけていた。
 今、その人は目の前にいる。
 
「あ……」

 隼人は店の前に立っていた。
 ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで身震いしている。
 どのくらい外にいたのだろうか。体が冷えているのは目に見えた。
 
「隼人さん……!?」

 理音の声は白い息になった。
 隼人はゆっくりと理音に近づきながら、やあ、といった。
 咳をするみたいな声だった。
 理音も隼人に歩み寄る。まるで磁石のように二人は引き寄せられる。
 
「リオンちゃん久しぶり! 覚えてくれててよかった~」

 隼人は顔をくしゃくしゃにして喜んだ。
 忘れられない顔がそこにはあった。
 
「忘れるわけない……」
 
 泣きそうな声を出す理音も一歩前に出る。
 二人の距離は少しずつ近づく。
 抱きしめようと思えばすぐにできる。
 それくらい親密な雰囲気が二人を包み込む。
 隼人は理音を見つめると口を開いた。
 
「ローマの夜に会った以来だね~元気だった?」

 理音は、はい……と頷くと、赤く染まった顔を上げた。
 
「あの……ありがとうございました」
「ん? 何が?」
「私をおんぶしてくれたから」
「え? リオンちゃん、あの時、寝てたんじゃないの?」
「はい……途中まで寝てました……お酒って怖いですね」
「ちょ、ちょっと待って……てことは?」

 理音は下を向いて目を逸らした。
 潤んだ唇、赤く染まる頬、恋する乙女の顔になっている。
 世界が輝き始めた。
 街灯の明かり。
 輝くイルミネーション。
 オルゴールの音色。
 すべてが二人のためにあるような、そんな世界が広がっていた。
 隼人は、そっか……起きてたのか、と呟いて頭を掻いた。
 
「だから……忘れるわけがないんですよっ隼人さん!」

 スッ……。
 
 爪先立ちになる理音。その目は閉じられていた。
 キスをしていた。
 重なる唇と唇。隼人は驚いて目を見開いた。
 キスをしていた。
 理音の長いまつ毛、透き通る白肌、サラサラと揺れる髪の毛が目の前にあった。
 キスをしたから……好きになっていく……。
 
「お返しですっ」

 ニコッと笑った理音の顔は、まるで雪の結晶のように輝いていた。
 サラリと揺れる柔らかな髪に、白い粒子がふわっとつく。
 甘い衝撃を受けた隼人は、ドキッ、と顔が赤くなった。

 今すぐ手を繋ぎたい!
 今すぐ抱きしめたい!
 
 なんだか本能的にそんな気持ちになってくる。
 隼人の体は熱くなる。寒さを感じなくなってきた。
 空からは雪が舞っている。
 心臓は痛いくらい激しく鼓動する。

「ちょっと、歩こうか」

 そういった隼人が大股で歩き始めた、その時……。
 
 ジト……。
 
 誰かに見られているような気配を感じた。
 敵意が込められた刺すような視線。
 
 どこからだ?
 
 隼人は顔を上げて辺りを見回す。
 
「どうしたの? 隼人さん?」
「いや、誰かに見られてれいるような気が……」

 その瞬間だった!
 黒い影が理音に襲いかかった。
 
「騒ぐな……声を出したらその綺麗な顔に傷がつくぞ」
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