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第三章 天職はセラピストでした

12 飲み会の帰り 12/20 夜

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 理音たちは飲んで食べて、しゃべりまくった後、カラオケに行った。
 楽しかった。こんなに楽しんだのはローマ以来だな、と理音は思った。
 カラオケは延長しなかった。明日も仕事があるし、そろそろ帰ることになった。
 また飲もうね~なんていいながら三人は駅前まで歩く。
 冷たい夜風が頬に当たったが、酔い醒ましにはちょうどよかった。
 駅前の広場にくると、人だかりができていた。
 和久井が、ああ、もうこんな季節か~と甘い声を上げた。
 理音の目の前にあるのは、光り輝く巨大なクリスマスツリー。
 わぁ、綺麗……と小野寺は感嘆の声をこぼす。
 冷たい空気が澄み渡り、素晴らしい幻想的な空間が醸し出されている。
 色鮮やかなオーナメント。
 オルゴールの音色。
 キラキラと輝く木々の電飾。
 流れる車のヘッドライト。
 急ぎ足の人々。
 手を繋ぐカップル。
 季節は移りゆき、もうすぐクリスマスが今年もやってくる。
 
 理音たちはイルミネーショを鑑賞した。
 だが、黙って立ち尽くしていると、なんだかしんみりしてきた。
 彼氏に会いたいわ~、と和久井が嘆いた。
 そうね~、といいながら頷く小野寺。
 二人の顔を横目に、理音は、彼氏がいていいなぁ、と思った。
 周りはカップルだらけだった。羨ましい気持ちでいっぱいになる。
 こんなロマンチックなところで、女子だけで立ち止まっているなんて……。
 だんだん恥ずかしくなってきた。
 三人は照れ臭くなって、また明日ね~とかいいながら手を振って解散した。

 ……。
 
 一人になった理音は、ふと、こんなことを思った。

 クリスマスは仕事だったかな……。

 理音はスマホを開き、スケジュールを確認する。
 その日は仕事だった。九時から十八時までの勤務で予約がいっぱいだった。
 でも次の日のイブは休みだった。
 流石に連日出勤はキツかったので、ほっと安心した。
 クリスマスに癒しにくる男のお客さんか……。
 彼女もきっといないんだろうなぁ、寂しくないのかな?
 まぁ、私だって彼氏がいないから人のことはいえないなあ。
 あはは、と心の中で自嘲して笑った。

 やがて理音は改札口を抜けて、いつものプラットフォームにて電車を待つ。
 時刻は九時を回ったところ。
 パパよりも帰りが遅くなった、と理音は少し大人になった気分を味わった。

 電車が到着したので乗り込み、座席に腰を下ろす。
 酔っ払ったセラピストです、こんばんは、と内心で挨拶をしてみた。
 だが、誰もこっちを見ない。
 車内の乗客はみんな下を向いてスマホをいじっている。
 くたびれたコートを羽織るサラリーマン。
 化粧の崩れたOL。
 耳からうどんのようなヘッドホンをかけた若者。
 寒いのにパンツぎりぎりのセーラー服。
 今から出勤するビシッとスーツをきたイケメンのお兄さん。
 まつエク盛り盛りのキャバ嬢。
 みんな自分の世界、いや、ネットの中に入って誰かと繋がっている。

 いつからこうなった?
 
 みんな寂しいのだ。いつも誰かと繋っていたい衝動に駆られている。
 それが例え仮想空間でも構うことはない。
 理音もなんだか誰かと繋がりたくなってきた。
 おもむろに、スマホを指先でタッチする。
 ハルカからの受信があった。開いてみると、こんな内容だった。
 
『オープン初日、お疲れ様でございますわ。な、なんてことでしょう。リオンがカフェを奢ってくれる日がくるなんて……目頭が熱くなりますわ(笑)さて、冗談はおいといて……。リオン、中学時代の粗相は誠に申し訳ありませんでしたわ。わたくしが適当に付き合ってみてわ、などと申し上げたせいで、あんなことになるなんて計算外でしたの……それなのに、わたくしのせいではないなんて……リオン、なんてお優しい……成長したのですわね。それでも、もうわたくしは一生をかけてリオンをお守りすると心に決めておりますのでそのおつもりで。そしてこれからもずっと親友ですわ! あ、最後に質問ですわ。クリスマスの日はお仕事でしょうか? よろしかったらサンタコスしてクリパーを興じませんこと? プレゼントも用意してありますわ』

 
 理音は酔っていたこともあり、つい本音が漏れる。
 
「相変わらず話が長いわ~」

 クスッと微笑みながらツッコミをいれた。
 隣に座るおじさんが、なんだこの姉ちゃんという顔をしている。
 そんなの関係なく。理音はスマホをタッチして文章を打ち込む。
 
『えー! プレゼント? なになに?』
 
 送信してまた打ち込む。

『クリスマスは仕事あるんだけど、終わってからでもいい? 次の日休みだからお泊まりも大丈夫だよ~』

 送信すると、すぐに既読がいた。
 しばらく待ってみると、スポッ、スポッと着信音が弾けた。
 

『プレゼントは秘密ですわ(笑)』
 
『そうしましたら、わたくしがお店の方にお迎えにあがりますわ。クラブへ踊りに興じましょう。退社時間は十八時でよろしくて?』

 理音は速やかに打ち返す。目が霞む。疲れが出てきた。
 
『よき』
 
 送信して目を閉じる。
 電車が停車しては発進する。振動がアルコールの酔いを増幅させる。

「うわっ!」

 握っていたスマホを落としそうになった。慌てて鞄の中にしまう。

 タタン、タタン……。
 
 車輪と線路のランデブー。心地良い子守り歌となる。
 ふと、油断すると瞼が重たくて目を閉じてしまう。じわり、微睡み目をこする。
 睡魔と格闘しているうちに、ローマの夜を思い出す……。
 
 ああ、あの夜もそうだった。私は酔って寝落ちした。
 そして私をおんぶしてくれた人がいた。隼人さん……元気かなぁ。
 あ! 仕事も安定してきたし、ハルカから隼人さんの連絡先を聞こう!
 待ってるだけじゃダメ!
 よし、そうしよう……うん……そうしよう~ファ~ア……。
 
 ガクッ!
 
 ついに睡魔に負けた理音は、首を大きく傾けてしまった。

 ……。
 
 ハッ!
 
 気づいた時にはもう遅かった。
 どのくらいそうしていたのだろうか?
 隣のおじさんの肩に頭を預けていた。
 わっと驚いて姿勢を正してみるが、おじさんの匂いが鼻についた。
 ちょうど降りる駅に到着するところだった。
 体が降りる駅を覚えていたのだろう。
 危なかった。寝落ちして乗り過ごすところだった。
 おじさんに、ぺこりと謝ってから電車を降りた。
 おじさんは満更でもなく、いいよいいよ気にすんな、と調子良くいってくれた。
 お酒って怖いな、気をつけなきゃ、と理音は反省した。
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