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第三章 天職はセラピストでした

8 人間のモデルくん

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 全然期待していなかった。
 アロママッサージのモデルなんて仕事もらってくるなよ、と純也じゅんやは思っていた。
 実際、全然気持ちよくなかった。
 昨日受けた二人の施術は、全然大したことがなかった。
 和風美人の女性は体重の移動がぎこちない。陽気な女の子の方は指圧コントロールの加減が物足りなかった。
 純也はお金持ちだ。職業はモデルをしている。その日本人離れしたルックスと愛嬌によってかなり稼いでいた。ファッション雑誌、テレビCMなどメディアで見ない日はないくらい売れっ子だった。そんな純也は、いつも海外のロケ先で色々なマッサージを受けていた。
 
 ロミロミ、タイ古式マッサージ、お灸、リフレクソロジー、韓国式アカスリ、アーユルヴェーダ、などなど……。

 世界の癒しという癒しを体感していた。適当なマッサージでは満足できない身体になっていたのだ。
 それなのに……それなのに……。
 
「うぅうう……ああっ」

 純也は喘ぎ声を上げながら、マッサージベッドに顔を埋めていた。
 セラピストがアロマオイルを手に補給するために一旦離れる。その隙に、純也はチラッと横を向いてセラピストを探す。セラピストの美しい体のラインが見えた。嬉しくて飛び上がりたい気持ちになったが、今は施術中だ。ジッと我慢して、その眺めだけを楽しんだ。薄暗い間接照明だけが灯る施術室だ。暗すぎてセラピストの顔はよく見えない。
 それなのに、根拠もないのに彼女は可愛い顔をしている思い込む。
 セラピストは、ぬるぬるとしたアロマオイルを、じんわり、手になじませている。その手つきは、ねっとりスローモーション。妖艶なアロマの香りが脳内を甘く溶かす。そっと触れられるたびに、身体が火照り出していく。
 
「あぁぁぁ……き、きもちぃぃ」

 純也はついに口から本音が漏れた。快楽に溺れ始める。
 その瞬間、ピタッと手が止まった。
 だがすぐにセラピストの手は動き出す。その動きはどこか、施術室に流れる癒し系ミュージックと重なっているように感じた。まるで音楽に合わせて踊っているような……そんな印象を受けた。素晴らしい、と純也は思った。
 
 こんなマッサージは受けたことがない!
 
 彼女には不思議な力がある。
 例えようがないが、こんな言葉が一番しっくりきた。
 
「魔法だ……」

 純也はそう呟くと、意識がどこか遠くの方に飛んでいった。
 
 トントン!
 
「次は仰向けになってください」

 肩を叩かれ、セラピストの言葉で我に返った純也。
 ぐるんと仰向けに寝た。すると、サッとタオルが全身にかけられた。物凄いスピードだった。そんなに俺の裸が見たくないのだろうか? 純也は少し寂しい気持ちが芽生えた。モデルとしてのプライドを傷つけられたような気がした。だが、悪い気はしていない。むしろ彼女は……、

 Sで俺の好みかも! 
 
 と思っていた。
 そしてこの後も至福の時間を過ごすのだった。
 
 ……。
 
 施術が終わり、店長とセラピストと一緒に話す機会があった。
 どうでしたか? と店長が尋ねてきた。
 店長の希美とは知り合いだったので、純也は本音で話した。親指を立てて、グッジョブと眩しい笑顔を見せた。
 
「サイコーでした! 予約するんで彼女の名前を教えてください」

 セラピストは、頬を赤く染めながら小さな声で答えた。
 
「立花理音です……」

 絶対行く! 通いまくるっ! と誓う純也だった。
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