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第二章 ローマ旅行で賢者に覚醒ですわ!

14 友情は永遠なの

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 ガバッ!
 
 目覚めた理音は跳ねるように起き上がった。
 
 ここは?
 
 窓辺に射す太陽の光り。
 柔らかそうなレースのカーテン。
 女の子が好きそうな可愛いらしいインテリア。
 顔のないマネキン人形が、おはよう、といってるみたいだった。
 記憶が確かなら、ここはアヤの部屋だ。さらにキョロキョロと見回してみたが、ハルカの姿がない。もう目覚めて何やら活動しているのだろう。はぁ~あ、私はもう一眠りしようと、布団の中に潜り直すと、やけに温もりを感じた。
 
 おや?

 布団を剥がしてみるとアヤが爆睡していた。パジャマが乱れ、胸元が大きく開いている。ノーブラのようだ。柔肌が朝日に美しく反射してる。

「うああっ!」

 びっくりして叫んだ理音は、無防備なアヤを見つめながら、アヤさんは男……アヤさんは本当は男……と呪文のように唱えた。ヤバイ、男の人と一緒に寝ちゃった……どうしよう……もうお嫁にいけない。

 と、激しく困惑した。まさか、やられてないよな? と自分のお股に手を当てた。と同時にアヤの下半身をチラっと目を配る。でも、アヤさんには、アレがない可能性もある。だけど……。

 脳裏によぎるのは、昨夜の出来事。
 
 触ってたしかめる?

 とアヤから訊かれた。全力で断ったが、今は意識のないアヤが横たわっている。
 今なら誰にもバレずに確かめられる。悪魔の誘惑に囁かれ、手が動く。

 ゴクリ……。

 理音は朝一番の渇いた喉を鳴らして、おもむろに手を伸ばした。
 ゆっくり、ゆっくりとアヤの下半身に手が伸びる。よく見てみると、心なしか盛り上がっているようだ。もしかしてこれが男の人特有のあれなのか? これは確認だ。あくまでも確認のためだ……するとその時。

 ガチャ!

 ハルカが部屋に入ってきた。
 理音は咄嗟に身をよじってストレッチをして誤魔化した。

「……おはよ、でございますわ」
「ああっ、おはよ」

 ハルカは、変なストレッチですわね、といって理音を一瞥すると椅子に座った。手元にはカップを持っていた。紅茶の香りがする。ハルカは優雅に唇をカップにつけて啜った。
 
 よかった……バレてない、セーフ……。

 胸を撫で下ろした理音は、今何時? とハルカに尋ねた。
 もう九時ですわよ、という答えに反応した理音は、ベッドから降りた。すると、おもむろにハルカからカップを渡される。飲んでいいわよ、と微笑みで促された。
 理音は紅茶を喉に流しこむ。だんだん体が目覚めてきた。
 と、同時に、昨夜一番のイベントを思い出した。

 隼人がキスしてきたことだ。

 理音は辺りをきょろきょろ見渡して……何やらそわそわしている。
 そのことを察したハルカは、
 
「隼人様ならもう出掛けたわよ。サッカー観戦にいくとおっしゃっていました。ヨーロッパといえばサッカーですからね」
 
 と椅子に座ったまま右足を蹴った。サッカーを真似したようだ。
 あ……そっか……と呟く理音は浮かない顔をした。
 ハルカは、また会えますわよ、といって立ち上がった。
 
「今日も天気がいいですわね」
 
 窓の外を眺めるハルカはいった。
 ローマの街は朝日に照らされて輝いていた。
 白い鳥が飛んでいる。教会の屋根に巣があるのだろう。
 二羽の鳥が体を寄せ合っている。
 そんな景色を眺めていると、理音は急にホームシックになってきた。パパとママにお土産を買っていくのを思い出し、ふと、帰国のことが頭をかすめる。
 ハルカに、何時の飛行機に乗るの、と質問してみた。
 十九時よ、と答えが返ってきた。
 ハルカはスマホを操作していた。なにやら手続きをしているようだ。スマホさえあれば海外でも仕事ができるのだろう。もっともハルカにとっては、お金を稼ぐことと、趣味がリンクしている。好きなことをして生計を立てているわけだ。
 羨ましいな、と理音は思った。
 
 部屋の時計の針は九時半になるところ。
 理音はとりあえず自分の荷物をまとめることにした。キャリーケースの蓋は開け放たれ、中は衣服がぐちゃぐちゃになっていた。
 一方、ハルカのキャリーケースは閉ざされたままだ。
 理音は、もっと整理整頓できるようにならないとな、と思った。
 
 そうこうしていると、アヤがやっと起きた。
 寝癖が凄いことになっている。良く髪を乾かさないで寝たのだろう。振り返ってみると、理音は自分が昨夜、風呂にさえ入ってないことに気づいた。
 シャワーを借りていい? とアヤに尋ねる。
 すると、やめておきましょう、とハルカに止められた。
 この後に、スパに寄ってから帰国しましょう、とハルカは続けて提案してきた。
 アヤが、すっぴんでいいの? と理音に尋ねる。
 理音は、コクリと頷いた。
 すっぴんでも可愛いからズルいね、なんてアヤはいいながらおどけた表情をした。

 三人は遅めの朝食を摂った。
 アヤの祖父母が気前よくミートパスタを作ってくれていたのだ。
 日本の味よりも濃厚な味だった。本場イタリア産のパスタは風味が豊かで歯応えがあった。理音もハルカも美味しそうに舌鼓を打った。アヤはその光景を微笑みながら眺めていた。
 やがて、いよいよ帰る時が来た。

 アヤとその祖父母は、また来てね~チャオ~、といって玄関前で手を振った。
 どうやらアヤとはここでお別れらしい。アヤは昼から仕事があるという。それを聞いた理音は、浮ついていた旅行気分から一気に現実に引き戻された。
 アヤは、本当は休みたかったけどごめんね、といってウインクした。話を聞くと、アヤの仕事は有名ブランドのデザイナーをしていた。今の季節は秋だが、もう来年の春物をデザインしているらしい。ファッション業界は常に流行の先端を発信しなくてはならない。逆にいえば、流行るものは、すでにデザイナーによって決められているのだ。ハルカが以前に語っていた。

 着せられているような感じがする。

 というのはまさにこのことだと理音は思った。
 
 アヤはハルカと理音を抱きよせると、

「あたしたちの友情は永遠だよ」

 といった。
 三人は、深く頷くと、友情で結ばれた。
 アヤは離れたくない気持ちを抑えながらも、なんとか大きく呼吸した。
 
「また会おうね!」
「もちろんですわ! お元気でアヤ様」
「アヤさんありがとう」

 するとタクシーが家の前に到着した。ハルカがスマホで手配していたのだ。荷物をトランクに詰め込むと、タクシーに乗り込んだ。
 エンジンが唸り、タクシーが出発する。窓から顔を出した二人は、アヤに向かって手を振った。
 アヤの方も手を振り返した。タクシーが見えなくなるまで、バイバーイ、と叫んでいた。その笑顔は朝日に照らされて眩しく光っていた。

「アヤさんって不思議な人だね」

 車内で理音はそういってハルカの顔を覗いた。うっすら哀しそうな顔をしていた。少し間を置くと、口を開いた。

「ええ、本当に……男のままだったらわたくしの身が持ちません」
「どういうこと?」
「アヤ様が女なら友達でいられますから……ずっと……」

 あれあれ?

 もしかしてハルカって男のアヤさんが好きだったの?

 と空想する理音だった。
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