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第二章 ローマ旅行で賢者に覚醒ですわ!

12 エピソード・隼人

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 あれは二年前の夏だった。
 俺はサイバーセキュリティーの会社に勤めていて一生懸命に働いていた。
 仕事が楽しくて、生き甲斐でもあった。
 
 近年、ネット環境は人々が生きていく上で欠かせないものになっている。
 買い物をしたり国に税金を納めたり。
 あらゆる取引をネットを使ってキャッシュレスで支払う時代となった。
 そうすると、悪いことを考えるやつらが出てくる。
 個人情報を盗もうとしたり、他人のパスワードを暴きアカウントを乗っ取る。
 そんなモンスターの攻撃を未然に防止するのが、俺の仕事だ。
 ネット環境を安全に整備しつつ。
 リアル環境の方も監視カメラなどを使って警備などをしていた。
 
 彼女と出会ったのは、そんな暑い夏の日だった。
 俺はあるクライアントの会社に出向いていた。
 そして、その会社の受付をしていた女に一目惚れした。
 彼女も俺のことが気になるみたいで、ちょくちょく俺の方に視線を向けてくる。
 だがクライアントとのアポは事前に取れてあった。
 そのため、必要以上に彼女と会話をすることはない。
 彼女はいつも、少々お待ちください、といって応対するだけだった。
 彼女とは特に話すこともなく。その会社のロビーを素通りする日々が続いた。
 お互い目を合わせるだけだった。少し歯痒さを覚えたものだ。
 そんなある日、お昼時にコンビニに立ち寄ると、彼女がいた。
 一人だった。俺はレジに並んでいる彼女に気軽に声をかけてみた。
 お疲れ様です、といった。しかし彼女は返事をしない。ツンとしている。
 なんだこの女は? と思った。
 いい女だと思って一目惚れしたが、外見だけがタイプで中身は最悪な女だった。
 期待が外れた。
 俺の恋は終わった……そう思った。
 彼女はレジで精算し、さっさと立ち去っていく。
 俺はもう何も考えずにコンビニでおにぎりとお茶を買って精算した。
 そしてコンビニを出た時だった。
 ジッとこちらを見ている彼女がいた。コンビニの外で待っていたのだ。
 さっきは無視したくせにどうしたのだろう?
 そう思って近寄ってみると、想像できないことを口にした。
 あんまりこっちを見ないでください、と彼女はいった。
 俺は頭にきて、君だって俺の方を見てたじゃないか! と反論した。
 すると彼女はこういった。
 
「だってドキドキしちゃうから、見ないでほしいです……」
 
 なんだ、お互い両思いだったわけだ。
 安心した俺は、まぁそういわずにとりあえずデートでもしようと彼女を誘った。
 
 
「隼人様、チャラいですわ……」とハルカがツッコミをいれた。
「それにしても、あの女がやりそうな手口ね……何がドキドキしちゃうから見ないで~だ!」なんてアヤが解説する。

 理音は目を輝かせながら隼人を見つめると、話して、と促す。
 隼人はマティーニを口に含んで喉を潤すと、話を続けた。
 
 俺は彼女とデートを重ねた。体の相性は抜群だった。この女を離したくないと思った。
 誰にも渡したくないと思った俺は、彼女に付き合ってくれと告白をした。
 答えは、OK、だった。
 それからというもの俺と彼女はラブラブな毎日を過ごした。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って隼人さんっ! 付き合う前に、その……あの……しちゃうんですか?」
 
「「「え!?」」」

 理音の質問にみんなが驚いた。
 隼人は目を丸くして、うん、もう大人だし、といって理音を見つめた。
 ハルカは、ああ、リオンはまだお子様なのですいません、といって慌ててフォローに入る。
 自分だって子どもじゃん……と理音はハルカを睨んでツッコミを入れた。
 アヤは、へ~、アヤちゃんってピュアなんだね~なんていって、ツンツンと指で背中を突いてくる。
 いやん、と身をよじる理音。
 ささ、隼人様、お話しを続けてくださいませ、とハルカは促した。
 隼人はマティーニを口に含んでから、また語り始めた。
 
 本当に暑い夏だった。
 ある日、彼女は来週の日曜に観たい映画があるといってきた。
 美しい女と醜い獣が恋に落ちるやつだ。
 俺は、ああいいよ、と返事しそうになったが途中でやめた。
 その日曜日は弟と映画を観に行く予定だったからだ。
 皮肉にも同じ映画のタイトルだった。
 俺は彼女に、ごめんと謝った。
 あ、そう、といって潔く諦めると彼女は思った。だが違った。
 弟さんってどんな人? ねえ、その映画って私が観たい映画と一緒?
 と食いついてきた。しまいには、三人でいけばいいじゃんと提案してきた。
 俺は特にやましいこともなかったので、弟に聞いてみるといった。
 きっと、その時から彼女は怪しいと思っていたことだろう。
 なぜなら恋愛映画を観たい男なんてなかなかいない。
 偏見だが、男兄弟そろって観にいくなんて、ちょっと変かもしれない。
 
「変じゃない! 獣だけど本当はイケメンの王子様なのよ! 最高じゃない!」

 ハルカが興奮して叫んだ。酔っ払いのヤジだった。
 まぁまぁ、といってアヤの肩を叩くハルカ。
 アヤは、ふう、とため息をつくと隼人の話に補足を加えた。

「たしかお兄ちゃんから、彼女と三人で映画に行くか? と聞かれたから、あたしはこういったよね……ヤダねって」
「ああ、そうだ……」

 日曜日になった。
 彼女には弟が嫌がるから、ごめん、と断りの電話を入れた。
 彼女はしぶしぶわかったといった。
 じゃあ、今から映画観に行ってくるね、と俺は告げて電話を切った。
 今、考えるとこれがいけなかった。
 疑問を抱いた彼女はストーキングしに映画館に来ていたのだ。
 本当に弟なのか?
 いや、本当は他の女と一緒なんじゃないか?
 と、俺を疑っていたのだ。
 何も知らない俺と男の恭介は、楽しかったね~、なんていって映画館を出ようとした。
 まさにその時だった。彼女から声をかけられた。

「誰……その女?」

 俺は氷ついたようにその場で固まってしまった。
 そういう時ってなかなか声が出せないもんなんだ。まさに修羅場ってやつ。
 すると恭介が可愛い声で、

「弟で~す、いつも兄がお世話になってま~す♡」

 なんていうもんだから、彼女はブチギレた。
 
「ふざけないで! 浮気するなんて最低っ!」

 バチン!
 
 俺は盛大なビンタを食らったよ。
 その後……恭介と大喧嘩になった。
 カッとなった俺は、一番いってはいけないことを口に出してしまった。

 おまえが男か女かわかんないからいけないんだ!

 ……。
 
 あの時はすまなかった。
 
 隼人は深々と頭を下げた。
 
「もう、いいよ……あたしがもっと最初から妹だって宣言しておけばよかったし」
「俺の中でもどこか弟が妹になるなんて、認めたくない気持ちもあったと思う、ごめんな、でも今なら妹だって堂々といえる。だから、いつでも日本に帰ってこい」
「お、お兄ちゃんっ」

 アヤは、わっと泣き出した。
 ハルカはアヤの肩を抱いて、よしよしとなでた。
 理音はミモザを飲みながら隼人の話を聞いていたので、ほろ酔いになっていた。顔が赤くなり顔の筋肉が緩み常に笑っている。その目もどこか虚ろになっていた。
 隼人は、グイッとマティーニを飲み干すと立ち上がった。
 
「さて、ひと踊りして帰るとするか~」

 その提案に乗った女性たち三人は一斉に立ち上がった。ぎゅっと手を繋いで歩き出す。
 隼人は、友情っていいな、と思いながらダンスフロアに駆け込んでいった。
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