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第二章 ローマ旅行で賢者に覚醒ですわ!
4 賢者様
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永遠の都ローマ。
その輝きは二千年の時が流れた今もなお色褪せることはない。
いや、正確にいうとローマはすでに滅んでいる。
異民族の侵入があって崩壊したのだ。
街は完全に破壊され、略奪の限りを尽くされた。家、財産、女、子ども、何もかもが奪われた。
そして歴史は繰り返される。
ローマ帝国自身も大軍を率いてヨーロッパ全土を侵略し、その勢力を拡大していた。だから、おあいこにすぎない。
力ずくの征服で築かれた大帝国は、同じように武力によって破壊されていく。このように文明とは創造と崩壊を繰り返しているわけだ。
だが、それでも人類は生き続ける。
幾度となく破壊されようと、諦めることは決してない。涙を拭ったローマの民は復興を誓った。道路を整備し、河に橋を掛け、住まいや大聖堂を建造を何度も繰り返した。
では、そのために何が必要だったのか?
「ねぇ、ハルカ……なぜコロッセオは壊れているの?」
理音は素朴な疑問をハルカに投げかけた。
その視線の先には半壊したコロッセオが建っている。
ハルカは、たしか……と呟くと、顎に手を当てて語り始めた。
「崩壊したローマを復興するためには、適度な大理石が必要でしたの……」
すると、前方を歩くアヤが振り向いた。短いスカートがふわりと舞う。
「コロッセオは大理石でできてるよ~リオンちゃん」
そういったアヤは、右腕を伸ばして人差し指をコロッセオに向けていた。
理音は、まさか、と思った。
「え!? もしかしてコロッセオの石を使ったの? だから壊れてるんだ……」
理音がそう答えると、ハルカはこくりと頷いた。
「御名答……ローマの民は大理石で作られたコロッセオを採石場としました。それはおそらく、もう戦争に関連する建物など見たくない、必要ない、うんざりだ……と思うところもあったのではないか。というのがわたくしの見解ですわ」
なるほど……。
理音は半壊したコロッセオを見つめながら想像する。
かつての栄光ある完全なコロッセオの状態を……。
円な瞳をゆっくりと閉じる理音。
すると、次に瞳が開いた瞬間!
ヴァァァァァン!
真っ白に光り輝く円形闘技場が姿を現した。
驚いた理音は辺りを見渡す。
そこらは鎧や兜を装備した剣闘士たちがぞろぞろ歩いてるではないか!
通り過ぎる剣闘士たちは、みんな理音に視線を向けて、こう呟いている。
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
え!? けんじゃさまって何? この人たちは何なの?
理音は顔を上げて前を向く。
半壊していたはずのコロッセオが完璧な形で修復されている。
ん? でも違う……。
いや、あれはコロッセオなんかじゃない……似てるけど違う……。
あれは……なに!?
理音の見上げた先には、空高く伸びる天空の塔があった。
その頂上は雲の上を突き抜けて見ることができなかった。
すると、リオン……リオン……という声がかけられ……。
「リオン!」
ハルカの大きな声が響く。
はっ! と、我に返る理音。
心配そうにハルカとアヤが理音の顔を覗き込む。
理音は狼狽しながら、きょろきょろと辺りを見渡す。
歩いていたはずの剣闘士たちは……いない!
代わりに歩いているのは外国人観光客の姿のみ。
みんな意気揚々とした表情で観光を楽しんでいる。
さっきのは何なのだろう?
私の頭の中には、私の知らない記憶がある。そんな感覚があった。
怖くなってきた。だが、共通するところもあった。
それは人の目だ。今、外国人たちの目線が自分に集中している。
そのことだけは、知らない記憶の剣闘士たちと一緒だった。
ん? 待てよ……。
そりゃそっか!?
理音は下を向いて、自分の穿いている短いスカートを確認した。
セーラー服は海外でも高い評価を受けているらしい。
「キュート」
「ナイス」
「プリティーガール」
なんて道ゆく外人から褒められることがちらほらあった。
そうだった。コスプレしていたから注目を浴びているのか、と理音は思った。
カメラを持ち上げて、キャナイシュー? といってくる。
つまり、撮影してもいいか? と尋ねられることもあった。
ハルカとアヤは快く許可すると決めポーズをとった。
実は、闘技場を背景にポーズをとるコスプレイヤーは他にもいた。
皇帝、剣闘士、ビショップなどなど、多彩だった。
だが、お姫様とセーラー服を着たプリティーガールは他にはいない。
理音たちだけだ。
彼女たちは強烈なインパクトを外国人観光客に与えていた。
口笛を吹いて興奮する者たちさえいた。
ハルカとアヤは、他の外人コスプレイヤーたちと混ざってパシャパシャ撮られ続けた。
一方、理音は、ノー! ノーサンキュー! と叫んで断固拒否した。
こんないやらしい服を着ているだけで恥ずかしいのだ。
カメラの前でポーズをとるなんてとんでもない。
それでも勝手にファインダーを向けるカメラ小僧の外国少年がいた。
彼らは膝をついてローアングルで理音を狙う。
「ひぇぇぇぇぇ!」
理音は顔から火を吹き出す勢いで、一目散にコロッセオに走っていった。
相変わらず外国人たちにパシャ、パシャ、撮影されているハルカとアヤ。
ポーズをとりながら理音の走る姿を目で追った。
「あらあら、リオンにはやっぱりまだ早かったかも……ですわね」ハルカがいう。
「意外と足速いんだねぇ……リオンちゃん」関心するアヤ。
すると、ハルカが肩掛けのポーチからスマホを取り出した。
「もうチケットは三人分ネット予約してありますわ」
「じゃあ、あたしたちもいこう!」
ハルカとアヤは外人さんたちに、チャオ~、と手を振って走り出した。
その輝きは二千年の時が流れた今もなお色褪せることはない。
いや、正確にいうとローマはすでに滅んでいる。
異民族の侵入があって崩壊したのだ。
街は完全に破壊され、略奪の限りを尽くされた。家、財産、女、子ども、何もかもが奪われた。
そして歴史は繰り返される。
ローマ帝国自身も大軍を率いてヨーロッパ全土を侵略し、その勢力を拡大していた。だから、おあいこにすぎない。
力ずくの征服で築かれた大帝国は、同じように武力によって破壊されていく。このように文明とは創造と崩壊を繰り返しているわけだ。
だが、それでも人類は生き続ける。
幾度となく破壊されようと、諦めることは決してない。涙を拭ったローマの民は復興を誓った。道路を整備し、河に橋を掛け、住まいや大聖堂を建造を何度も繰り返した。
では、そのために何が必要だったのか?
「ねぇ、ハルカ……なぜコロッセオは壊れているの?」
理音は素朴な疑問をハルカに投げかけた。
その視線の先には半壊したコロッセオが建っている。
ハルカは、たしか……と呟くと、顎に手を当てて語り始めた。
「崩壊したローマを復興するためには、適度な大理石が必要でしたの……」
すると、前方を歩くアヤが振り向いた。短いスカートがふわりと舞う。
「コロッセオは大理石でできてるよ~リオンちゃん」
そういったアヤは、右腕を伸ばして人差し指をコロッセオに向けていた。
理音は、まさか、と思った。
「え!? もしかしてコロッセオの石を使ったの? だから壊れてるんだ……」
理音がそう答えると、ハルカはこくりと頷いた。
「御名答……ローマの民は大理石で作られたコロッセオを採石場としました。それはおそらく、もう戦争に関連する建物など見たくない、必要ない、うんざりだ……と思うところもあったのではないか。というのがわたくしの見解ですわ」
なるほど……。
理音は半壊したコロッセオを見つめながら想像する。
かつての栄光ある完全なコロッセオの状態を……。
円な瞳をゆっくりと閉じる理音。
すると、次に瞳が開いた瞬間!
ヴァァァァァン!
真っ白に光り輝く円形闘技場が姿を現した。
驚いた理音は辺りを見渡す。
そこらは鎧や兜を装備した剣闘士たちがぞろぞろ歩いてるではないか!
通り過ぎる剣闘士たちは、みんな理音に視線を向けて、こう呟いている。
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
「賢者様……」
え!? けんじゃさまって何? この人たちは何なの?
理音は顔を上げて前を向く。
半壊していたはずのコロッセオが完璧な形で修復されている。
ん? でも違う……。
いや、あれはコロッセオなんかじゃない……似てるけど違う……。
あれは……なに!?
理音の見上げた先には、空高く伸びる天空の塔があった。
その頂上は雲の上を突き抜けて見ることができなかった。
すると、リオン……リオン……という声がかけられ……。
「リオン!」
ハルカの大きな声が響く。
はっ! と、我に返る理音。
心配そうにハルカとアヤが理音の顔を覗き込む。
理音は狼狽しながら、きょろきょろと辺りを見渡す。
歩いていたはずの剣闘士たちは……いない!
代わりに歩いているのは外国人観光客の姿のみ。
みんな意気揚々とした表情で観光を楽しんでいる。
さっきのは何なのだろう?
私の頭の中には、私の知らない記憶がある。そんな感覚があった。
怖くなってきた。だが、共通するところもあった。
それは人の目だ。今、外国人たちの目線が自分に集中している。
そのことだけは、知らない記憶の剣闘士たちと一緒だった。
ん? 待てよ……。
そりゃそっか!?
理音は下を向いて、自分の穿いている短いスカートを確認した。
セーラー服は海外でも高い評価を受けているらしい。
「キュート」
「ナイス」
「プリティーガール」
なんて道ゆく外人から褒められることがちらほらあった。
そうだった。コスプレしていたから注目を浴びているのか、と理音は思った。
カメラを持ち上げて、キャナイシュー? といってくる。
つまり、撮影してもいいか? と尋ねられることもあった。
ハルカとアヤは快く許可すると決めポーズをとった。
実は、闘技場を背景にポーズをとるコスプレイヤーは他にもいた。
皇帝、剣闘士、ビショップなどなど、多彩だった。
だが、お姫様とセーラー服を着たプリティーガールは他にはいない。
理音たちだけだ。
彼女たちは強烈なインパクトを外国人観光客に与えていた。
口笛を吹いて興奮する者たちさえいた。
ハルカとアヤは、他の外人コスプレイヤーたちと混ざってパシャパシャ撮られ続けた。
一方、理音は、ノー! ノーサンキュー! と叫んで断固拒否した。
こんないやらしい服を着ているだけで恥ずかしいのだ。
カメラの前でポーズをとるなんてとんでもない。
それでも勝手にファインダーを向けるカメラ小僧の外国少年がいた。
彼らは膝をついてローアングルで理音を狙う。
「ひぇぇぇぇぇ!」
理音は顔から火を吹き出す勢いで、一目散にコロッセオに走っていった。
相変わらず外国人たちにパシャ、パシャ、撮影されているハルカとアヤ。
ポーズをとりながら理音の走る姿を目で追った。
「あらあら、リオンにはやっぱりまだ早かったかも……ですわね」ハルカがいう。
「意外と足速いんだねぇ……リオンちゃん」関心するアヤ。
すると、ハルカが肩掛けのポーチからスマホを取り出した。
「もうチケットは三人分ネット予約してありますわ」
「じゃあ、あたしたちもいこう!」
ハルカとアヤは外人さんたちに、チャオ~、と手を振って走り出した。
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