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第二章 ローマ旅行で賢者に覚醒ですわ!
4 ファンタジー・オブ・ローマ
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翌日の早朝。
天候に恵まれたローマの街並みは、見事に晴れ渡っていた。
太陽の光が射し込んだ大聖堂。その鐘の響きは世界の始まりを告げていた。
青空に羽ばたく白い鳥が優雅に旋回している。
それらはまるで絵に描いたような芸術と建築が混じりあった景色だった。
理音とハルカの二人は、早朝からイタリアの首都ローマを散策していた。
とりあえずホテルの近くにあったポポロ広場に向かう。
中央のオベリスクが、
ドン!
とそびえ立つ光景を見た理音は、そのスケールの大きさに思わず息を飲んだ。
耳をすませば、サラサラと、ネプチューンの噴水の音が絶え間なく流れている。
まだ早朝ということもあり、日中の人混みが嘘みたいに誰もいない。
朝焼けのローマの街が赤く染まっていく。
静かなる中世時代の建造物らは、人類の歴史をどのように見てきたのだろうか。
理音はゆっくりとオベリスクに近づき、そっと石肌に手を当てた。
すると、脳裏で不思議な情緒があふれてくる。
ああ、懐かしい……。
私はこれとよく似たような物を知っている。
だが、それがどこで見た記憶なのか……はっきりわからない。
感傷的になる理音の横顔を覗くハルカは、どうかしましたか? と理音に尋ねた。
理音は、ううん、なんでもないといってかぶりを振った。
本当に大丈夫なのだろうか?
ハルカの目は心配そうに理音を見つめていた。
二人はとりあえず近くにあった飲食店に入った。
「ディンミ!」
いかにも鼻の高いイタリア男の店員が応対してくれた。
メニュー表を開げるハルカは、サラダとピザを二人分頼んだ。飲み物は水にした。
ハルカはイタリア語がまぁまぁ話せた。コミュニケーション能力は抜群だ。
日本語も多少話せる店員もいたので理音としては助かった。
日本と違って水は有料だった。
ちなみにビールも水くらいの値段だった。
パパなら間違いなくビールを選ぶだろうな、と理音は思った。
しばらくすると、ふくよかな女性店員が注文した品物を持ってきてくれた。
「え!? 思ってたんとちがう……」
店員が持ってきたピザは理音の想像していたピサではなかった。
トマトやチーズはなし、ルッコラと生ハムがのっているのみ。
だが、味は美味しかった。イタリアは日本と違ってシンプルが好きなのだろう。
朝食を終えたハルカはレジで精算をする。
何気なく店員にカードを渡す。
カードはアメリカン・エキスプレス・プラチナカードだった。
店員のおじさんはびっくり仰天した。
若くて可愛らしい日本女性が最高ランクのカードを持っていたからだ。
すると、ハルカは返されたカードを指で挟むと、
「グラッチェミッレ」
といってウィンクした。
想像以上に大人なハルカの仕草に、理音はぽかんと口を開けて唖然とした。
というか……。
理音にとってここは異世界だった。
見るもの全てが新鮮で美しかった。
二人は足を伸ばしてボルゲーゼ公園を散歩する。
生茂る草木、池の噴水に佇む彫刻、ベンチで読書する老人、サイクリングするカップル……。
それはイタリアの日常を流れ行く景色そのもので、まるで一枚の絵画のようだった。
季節は実りの秋。
十月のローマは夏も終わって朝晩は涼しくなっていた。
服装には上着が必要だった。
意外だが、ハルカは普通のファッションをしていた。
デニムにブーツを合わせ、薄いダウンジャケットを着ていた。
コスプレ衣装は現地で調達するつもりらしい。何か作戦があるようだった。
一方、理音はスニーカーに黒のデニールタイツを合わせ、ウールのチェスターコートを羽織っていた。
中はいつものように、ほんわかしたスカートとニットを着ていた。
だが、日差しが増した日中のローマは、若干暖かさを感じた。
これも温暖化の影響だろうか?
なんて真面目にハルカがいうものだから、理音は、今は楽しもう! といってハルカの肩を叩いた。
微笑むハルカは、スキップする理音を見て、旅に連れてきてよかったわ、と思った。
ぬぎぬぎ……。
暑くなってきた二人は、上着だけを脱いだ。
すると、ハルカが、ジェラートを食べましょうっ! なんて提案してきた。
そこで二人はジョリッティという老舗のジェラート店に向かうことにした。
実は友人とはその店で待ち合わせすることなっている、とハルカは付け足す。
「そうなんだ~、どんな人か楽しみ~」
なんていって理音は浮かれている。
え、ええ、そうね……と呟くハルカは、何やら浮かない表情をしていた。
ローマ市内を練り歩く二人。
ハイテンションの理音は、パルテオン神殿に寄って、
パン! パン!
と手を叩いて拝んだ。
「ここは神社ではないわよ……」
と、ハルカは苦笑してツッコミを入れる。
スーパーハイテンションの理音は、真実の口に手をいれた。
「あっあぁぁぁ! 抜けない!」
なんてびっくりドッキリしている理音。
「お決まりですわね……」
そう呟くハルカは、もう数回とローマには来ているので、特に驚きもしない。
当たり前だと言わんばかりの余裕な表情を浮かべていた。
そして、再び二人は歩き出す。
首を降って辺りを見渡すハルカは、
「そろそろ見えてくるわ……」
と呟いた。
理音もきょろきょろと目を光らせる。
建物の間から、遠くにそびえ立つ古代遺跡を発見した。
その方向にあるものは、
『闘技場コロッセオ』
であった。
すると、理音の目が爛々と光輝く。
時折、真剣な表情をしてぶつぶつと呪文のように何か唱えたりしている。
理音の頭がおかしくなっているのではないか?
ハルカはだんだん心配になってきて、
「大丈夫?」
と声をかけると、理音は、大丈夫、と答えた。
ハルカは昔の記憶を思い出していた。中学生時代の頃のことだ。
「なぜリオンはヨーロッパの遺跡が好きなのですか?」
と尋ねたことがあった。
少女理音はこう答えたのを思い出す。
「夢で見たんだ……お城を守る夢を……」
だから私はお城が好き、いつか見に行きたいなぁ、というのが口癖だった。
それを聞いた他の女子生徒は、中二病かよ、なんていって理音のことをバカにしていた。
だが、わたくしはそうは思わない。
わたくしはただのコスプレイヤーだけど……。
もしかしたら、リオン……あなたの前世は本物のお姫様か……もしくは……。
ハルカの心の中は、ファンタジーな想像であふれていた。
天候に恵まれたローマの街並みは、見事に晴れ渡っていた。
太陽の光が射し込んだ大聖堂。その鐘の響きは世界の始まりを告げていた。
青空に羽ばたく白い鳥が優雅に旋回している。
それらはまるで絵に描いたような芸術と建築が混じりあった景色だった。
理音とハルカの二人は、早朝からイタリアの首都ローマを散策していた。
とりあえずホテルの近くにあったポポロ広場に向かう。
中央のオベリスクが、
ドン!
とそびえ立つ光景を見た理音は、そのスケールの大きさに思わず息を飲んだ。
耳をすませば、サラサラと、ネプチューンの噴水の音が絶え間なく流れている。
まだ早朝ということもあり、日中の人混みが嘘みたいに誰もいない。
朝焼けのローマの街が赤く染まっていく。
静かなる中世時代の建造物らは、人類の歴史をどのように見てきたのだろうか。
理音はゆっくりとオベリスクに近づき、そっと石肌に手を当てた。
すると、脳裏で不思議な情緒があふれてくる。
ああ、懐かしい……。
私はこれとよく似たような物を知っている。
だが、それがどこで見た記憶なのか……はっきりわからない。
感傷的になる理音の横顔を覗くハルカは、どうかしましたか? と理音に尋ねた。
理音は、ううん、なんでもないといってかぶりを振った。
本当に大丈夫なのだろうか?
ハルカの目は心配そうに理音を見つめていた。
二人はとりあえず近くにあった飲食店に入った。
「ディンミ!」
いかにも鼻の高いイタリア男の店員が応対してくれた。
メニュー表を開げるハルカは、サラダとピザを二人分頼んだ。飲み物は水にした。
ハルカはイタリア語がまぁまぁ話せた。コミュニケーション能力は抜群だ。
日本語も多少話せる店員もいたので理音としては助かった。
日本と違って水は有料だった。
ちなみにビールも水くらいの値段だった。
パパなら間違いなくビールを選ぶだろうな、と理音は思った。
しばらくすると、ふくよかな女性店員が注文した品物を持ってきてくれた。
「え!? 思ってたんとちがう……」
店員が持ってきたピザは理音の想像していたピサではなかった。
トマトやチーズはなし、ルッコラと生ハムがのっているのみ。
だが、味は美味しかった。イタリアは日本と違ってシンプルが好きなのだろう。
朝食を終えたハルカはレジで精算をする。
何気なく店員にカードを渡す。
カードはアメリカン・エキスプレス・プラチナカードだった。
店員のおじさんはびっくり仰天した。
若くて可愛らしい日本女性が最高ランクのカードを持っていたからだ。
すると、ハルカは返されたカードを指で挟むと、
「グラッチェミッレ」
といってウィンクした。
想像以上に大人なハルカの仕草に、理音はぽかんと口を開けて唖然とした。
というか……。
理音にとってここは異世界だった。
見るもの全てが新鮮で美しかった。
二人は足を伸ばしてボルゲーゼ公園を散歩する。
生茂る草木、池の噴水に佇む彫刻、ベンチで読書する老人、サイクリングするカップル……。
それはイタリアの日常を流れ行く景色そのもので、まるで一枚の絵画のようだった。
季節は実りの秋。
十月のローマは夏も終わって朝晩は涼しくなっていた。
服装には上着が必要だった。
意外だが、ハルカは普通のファッションをしていた。
デニムにブーツを合わせ、薄いダウンジャケットを着ていた。
コスプレ衣装は現地で調達するつもりらしい。何か作戦があるようだった。
一方、理音はスニーカーに黒のデニールタイツを合わせ、ウールのチェスターコートを羽織っていた。
中はいつものように、ほんわかしたスカートとニットを着ていた。
だが、日差しが増した日中のローマは、若干暖かさを感じた。
これも温暖化の影響だろうか?
なんて真面目にハルカがいうものだから、理音は、今は楽しもう! といってハルカの肩を叩いた。
微笑むハルカは、スキップする理音を見て、旅に連れてきてよかったわ、と思った。
ぬぎぬぎ……。
暑くなってきた二人は、上着だけを脱いだ。
すると、ハルカが、ジェラートを食べましょうっ! なんて提案してきた。
そこで二人はジョリッティという老舗のジェラート店に向かうことにした。
実は友人とはその店で待ち合わせすることなっている、とハルカは付け足す。
「そうなんだ~、どんな人か楽しみ~」
なんていって理音は浮かれている。
え、ええ、そうね……と呟くハルカは、何やら浮かない表情をしていた。
ローマ市内を練り歩く二人。
ハイテンションの理音は、パルテオン神殿に寄って、
パン! パン!
と手を叩いて拝んだ。
「ここは神社ではないわよ……」
と、ハルカは苦笑してツッコミを入れる。
スーパーハイテンションの理音は、真実の口に手をいれた。
「あっあぁぁぁ! 抜けない!」
なんてびっくりドッキリしている理音。
「お決まりですわね……」
そう呟くハルカは、もう数回とローマには来ているので、特に驚きもしない。
当たり前だと言わんばかりの余裕な表情を浮かべていた。
そして、再び二人は歩き出す。
首を降って辺りを見渡すハルカは、
「そろそろ見えてくるわ……」
と呟いた。
理音もきょろきょろと目を光らせる。
建物の間から、遠くにそびえ立つ古代遺跡を発見した。
その方向にあるものは、
『闘技場コロッセオ』
であった。
すると、理音の目が爛々と光輝く。
時折、真剣な表情をしてぶつぶつと呪文のように何か唱えたりしている。
理音の頭がおかしくなっているのではないか?
ハルカはだんだん心配になってきて、
「大丈夫?」
と声をかけると、理音は、大丈夫、と答えた。
ハルカは昔の記憶を思い出していた。中学生時代の頃のことだ。
「なぜリオンはヨーロッパの遺跡が好きなのですか?」
と尋ねたことがあった。
少女理音はこう答えたのを思い出す。
「夢で見たんだ……お城を守る夢を……」
だから私はお城が好き、いつか見に行きたいなぁ、というのが口癖だった。
それを聞いた他の女子生徒は、中二病かよ、なんていって理音のことをバカにしていた。
だが、わたくしはそうは思わない。
わたくしはただのコスプレイヤーだけど……。
もしかしたら、リオン……あなたの前世は本物のお姫様か……もしくは……。
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