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第一章 悪徳モンスターはざまぁしますわ!
16 ざまぁ完了ですわ (シリアス)
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「立花さん、今日はもうお帰りですか?」
ここは東京都のとある検察支部。
警備員のおじさんからそう尋ねられ、思わず、
「ああ、今日は半休をとったんだ……ではお先に」
と告げて立花智史は手を振った。理音の父親だ。
すると、相棒である検察事務官の森下由紀が、廊下の角からひょっこり顔を出した。
透き通る肌と童顔が二十六歳という年齢よりも若く見えた。
「うわぁ、びっくりした!」
驚く智史を見て、うふふと笑う由紀は、
「捜査ですか?」
と尋ねる。
智史は、どっかのドラマじゃあるまいし、といって立ち去ろうとする。
だが由紀は、私も行きます、といって聞かない。
家庭の事情だ、と智史はいって由紀の肩を手で軽く叩くと、
「朝一番にドレスを着た娘さんが来訪しましたね……何かあったんですか?」
心配そうに由紀はいって上目使いをする。
智史は、やれやれと首を振ると説明を始めた。
「何かあってからでは遅いんだ。だからそれを警告をするためにあの子はきた」
「え!? あの子は立花検事の娘さんじゃないんですか?」
「ああ、あの子は娘の友達だ。近所に住んでいてね。娘の理音とは小さな頃から仲良くしてもらっている」
ふ~ん、と鼻を鳴らす由紀。
チラッと見据えた先には、休憩室のテーブルに置いてある『若福』の紙袋。
「立花検事が戻ってくる明日には、全部食べられているかもしれませんね」
「それで構わない。おそらく自宅にも同じものがあるはずだからな」
智史は、じゃっ、と告げると地検支部を後にした。
残された由紀は、『若福』の紙袋を美味しそうに見つめていた。
……。
駅前の大通りを歩く智史。
きょろきょろと辺りを見回している。
たしかこの辺だったはずだ……。
智史は携帯ショップを見つけて、あれか……と囁いた。
智史は目的地が近づくと、歩く速度を緩める。
身バレしたくないからだ。
密かに娘の働く姿を観察したい、と思っていた。
とりあえずショップの前を素通りすることにする。
そして前髪を整えるふうを装って、チラッと店内を覗いた。
いた!
理音を発見した。
だが……。
んん?
理音は一人だけ掃除をしていた。
時計の針を確認すると、時刻は十五時を回るところだった。
こんな時間に掃除なんてするのだろうか?
智史の頭に疑問が生まれ、それはすぐに正義感という燃料に火がついた。
これはパワハラだな……そう察した。
長年培ってきた検事としての感が働いたのだ。
振り返って見ると、最近、理音の様子が変だったことを思い出した。
調子は最悪、今の仕事に向いていない、転職したい……。
などと嘆いていた理音は、少々鬱気味になっているな、とは感じていたが……。
まさか虐めにあっているとは露ほどに思わなかった。
いったい理音の職場環境はどうなっているのか?
智史は急激に不安になった。
濁流の飲み込まれる滝のように、気持ちが落ち込んでいった。
だから春香ちゃんは、わざわざ俺の職場に来たんだ……。
智史は朝、職場に現れた理音の親友のことを思い出した。
智史は彼女と向き合って話をしたのだ。
「大切な人が泣いているのに、無視するのですか?」
「どういうかな」
「理音ちゃん困っているようですわ……心の中で泣いている……」
「だ、だが、俺にはどうすることもできない……」
「そんなことありませんわ。まずは何が起きているか、その目で確認することが大事なのでは?」
「……うむ」
「いつものように理音ちゃんを無視……するのですか?」
ここまでいわれて無視できるはずがない、と思った。
居ても立っても居られず、智史は半休をとって会社を飛び出した。
現場に来て、理音の姿を確認すると、智史は驚愕した。
理音は膝をつき、汚くもない床を雑巾で拭いていた。
対照的に他のスタッフはニコニコ接客中。
それはまるで理音だけがシンデレラのような光景だった。
智史は強く拳を握りしめた。
ショップを素通りした智史だったが、踵を返して歩き出す。
今度はちゃんと来店した。
「いらっしゃいませ、受付番号をお持ちになってお待ちください」
という受付ロボットを無視して、つかつかと店内を歩く。
突然現れた背の高いブラックスーツを着た男に、ざわっと店内が騒然となる。
異変に気づいた男性スタッフが、
「お客様、どうかなさいましたか?」
といった瞬間、智史は立ち止まった。
一方で、理音は膝をついたまま呆然としていた。
なぜ、パパがこんなところに!?
と、大きな目をさらに見開いてびっくりしている。
智史が、男性スタッフに「店長はいるか?」と尋ねた。
すると、副店長の木和田です、といって明美が歩いてきた。
さらに、店長は本日はお休みを頂いております、と明美が告げた。
智史は、じゃあ、君でいいから、どこか静かに話せるところはないかな、と尋ねた。
明美は、引きつった顔をしてから口元を緩ませる。
「あ、あの……お客様、どういった用件でしょうか?」
ああ、失礼、といった智史はジャケットの内側から一枚の名刺を取り出すと、明美に渡した。
『東京地方検察庁〇〇支部 検事 立花智史』
と書かれた名刺を見た里美の目は、一気に瞳孔が開いた。
「いつも理音がお世話になっています」
智史はそういったが、頭を下げることはなかった。
その鋭い目が明美を見据えて、ずっと逸らす様子がなかった。
明美は震えながら、お話ならここで聞きます、といった。
智史は頷き返すと、大きく息を吸って胸を膨らませた。
怒鳴られると察して、明美はビクビクっと瞼を震わせる。
「本日をもって、立花理音は退職の意思を表明する!」
智史の宣言が終ると、しーん、と店内は静寂に包まれた。
流行りのJポップだけがゆるふわっと流れていた。
明美は一瞬フリーズしたが、こう切り返してきた。
「あ、あの……そういったことを私にいわれましても……」
智史は間髪入れずに説明を始めた。
「いや、まずは理音の上司である君に退職の意思を告げるのが筋だ。なお明日から理音は出社しないので、そのおつもりで」
「え!? 困ります……ちゃんと出勤してもらわないと、私が本社に叱られます」
「安心しなさい、御社の人事総務には有給を申請をしておくから」
「あ、あの、立花さんは入社したばかりなので、有給は使えません」
それを聞いた智史は、あ、この会社はブラックだな……と察した。
もっとも、理音が自分で見つけてきた就職先だ。
子どもの頃から引っ込み思案で自主性が乏しい理音が、自分の力だけでやっと勝ち取った就職先だ、頭ごなしにダメだ、なんて言えず尊重してやろうと思って黙っていたが……まぁ、その考えは甘かったのかもしれない、と智史は悔やんだ。
と同時に、そこが俺の欠点でもあると思った。
そんな智史は、いや、使える……といって明美をジッと睨むと話を続けた。
「正社員で入社した理音はもう半年以上勤務している。よって労働基準法に則って理音には有給が十日以上は与えられている。今回はそれをすべて消化しようと思う」
「そ、そんな勝手な! 私だってまだ有給を一日もとっていないのに!」
「それはマズイな……有給休暇は義務化されている。年度内に五日以上は消化しないと、労基に目をつけられるどころか、罰金三十万だ。もし御社にそんな人がたくさんいたとすると……あはは、掛け算すると結構な金額になるな」
「そ、そんな……」
「まぁ、まだ十月の秋だ……これから君も休みたまえ、では失礼する」
そういった智史は腕を組むと、「そうそう」と付け加えた。
「理音の退職理由によっては、あなた方を法律に則って裁くことになるかもしれないので、そのおつもりで」
すると、店内にいた女性スタッフたちが接客を放置して智史に近づいた。
そして泣きながら訴え始めた。
「わたしたちは何もやってません」
「副店長に脅されてたから、立花さんを無視するしかなかったんです」
「立花さんのロッカーの鍵にテープを貼ったのも副店長です」
色々な悪事を白状する女性スタッフたち。
智史は、やれやれ、と首を振ると口を開いた。
「すべては理音しだいだ。理音が君たちから精神的苦痛を与えられたと証言したら、君たちに慰謝料を請求するよ」
そう智史がいった瞬間だった。
わっと女性スタッフたちは走り出し、理音のもとに向かった。
「「「立花さん! ごめんなさい!」」」
深々と頭を下げ、理音に謝罪する女性スタッフたち
理音は立ち上がると、
え!? あ、ちょ……。
と、戸惑うばかり。
すると、智史は微笑みながら理音に、荷物を持ってきなさいと告げた。
制服は? と理音が尋ねたから、クリーニングして返却しようと、智史はいった。
小走りしてバックヤードに向かう理音。
残った女性スタッフたちは智史に擦り寄り、どうか、どうか、わたしたちは許してください、と上目使いで懇願する。
しまいには、お尻を突き出しながら土下座して謝る女性もいた。
「俺に言っても無駄だ。理音に謝るんだな……それより君たち仕事に戻りなさい」
「「「そんなぁ~」」」
ぐったりと肩を落とす女性スタッフたち。
店内の客は放置されたまま、呆然とこのやりとりを眺めていた。
客たちの中には、スマホをいじくってこの光景を撮影する者もいた。
またネットでつぶやく者もいる。
その内容は、画像付きで荒れていた……。
『なんだこれw』
『ショップの女たち土下座してるンゴ……』
『何があったんだ?』
『ああ、スタッフの女の子をいじめてたのがバレたらしいwww』
『ざまぁwww』
『その女の子の画像ほれっ』
『かっわいい♡』
『クッソ~こんな可愛い子をいじめるなんて激おこだわ!』
『で、首謀者がこの女らしい 画像ポチッ』
『ちょwww』
『死にそうな顔してんなwww』
画像の中の明美は、ポツンとデスクに座っていた。
顔が絶望の色に染まっている。
「お、終わった……」
そう嘆く明美の体は、ガクブルに震えていた。
一方、ハルカは家の自室に戻っていた。
カモミールを飲みながら優雅にスマホをいじっている。
画面には、ネットのつぶやきが表示されていた。
高速で指先をタッチさせて、そこに何やら打ち込んでいる。
自分の正体はわからない、匿名性の高いつぶやきだ。
所謂、裏アカウントを利用している。
するとハルカは、うふふ、と冷笑した。
「ざまぁ完了ですわ……」
ここは東京都のとある検察支部。
警備員のおじさんからそう尋ねられ、思わず、
「ああ、今日は半休をとったんだ……ではお先に」
と告げて立花智史は手を振った。理音の父親だ。
すると、相棒である検察事務官の森下由紀が、廊下の角からひょっこり顔を出した。
透き通る肌と童顔が二十六歳という年齢よりも若く見えた。
「うわぁ、びっくりした!」
驚く智史を見て、うふふと笑う由紀は、
「捜査ですか?」
と尋ねる。
智史は、どっかのドラマじゃあるまいし、といって立ち去ろうとする。
だが由紀は、私も行きます、といって聞かない。
家庭の事情だ、と智史はいって由紀の肩を手で軽く叩くと、
「朝一番にドレスを着た娘さんが来訪しましたね……何かあったんですか?」
心配そうに由紀はいって上目使いをする。
智史は、やれやれと首を振ると説明を始めた。
「何かあってからでは遅いんだ。だからそれを警告をするためにあの子はきた」
「え!? あの子は立花検事の娘さんじゃないんですか?」
「ああ、あの子は娘の友達だ。近所に住んでいてね。娘の理音とは小さな頃から仲良くしてもらっている」
ふ~ん、と鼻を鳴らす由紀。
チラッと見据えた先には、休憩室のテーブルに置いてある『若福』の紙袋。
「立花検事が戻ってくる明日には、全部食べられているかもしれませんね」
「それで構わない。おそらく自宅にも同じものがあるはずだからな」
智史は、じゃっ、と告げると地検支部を後にした。
残された由紀は、『若福』の紙袋を美味しそうに見つめていた。
……。
駅前の大通りを歩く智史。
きょろきょろと辺りを見回している。
たしかこの辺だったはずだ……。
智史は携帯ショップを見つけて、あれか……と囁いた。
智史は目的地が近づくと、歩く速度を緩める。
身バレしたくないからだ。
密かに娘の働く姿を観察したい、と思っていた。
とりあえずショップの前を素通りすることにする。
そして前髪を整えるふうを装って、チラッと店内を覗いた。
いた!
理音を発見した。
だが……。
んん?
理音は一人だけ掃除をしていた。
時計の針を確認すると、時刻は十五時を回るところだった。
こんな時間に掃除なんてするのだろうか?
智史の頭に疑問が生まれ、それはすぐに正義感という燃料に火がついた。
これはパワハラだな……そう察した。
長年培ってきた検事としての感が働いたのだ。
振り返って見ると、最近、理音の様子が変だったことを思い出した。
調子は最悪、今の仕事に向いていない、転職したい……。
などと嘆いていた理音は、少々鬱気味になっているな、とは感じていたが……。
まさか虐めにあっているとは露ほどに思わなかった。
いったい理音の職場環境はどうなっているのか?
智史は急激に不安になった。
濁流の飲み込まれる滝のように、気持ちが落ち込んでいった。
だから春香ちゃんは、わざわざ俺の職場に来たんだ……。
智史は朝、職場に現れた理音の親友のことを思い出した。
智史は彼女と向き合って話をしたのだ。
「大切な人が泣いているのに、無視するのですか?」
「どういうかな」
「理音ちゃん困っているようですわ……心の中で泣いている……」
「だ、だが、俺にはどうすることもできない……」
「そんなことありませんわ。まずは何が起きているか、その目で確認することが大事なのでは?」
「……うむ」
「いつものように理音ちゃんを無視……するのですか?」
ここまでいわれて無視できるはずがない、と思った。
居ても立っても居られず、智史は半休をとって会社を飛び出した。
現場に来て、理音の姿を確認すると、智史は驚愕した。
理音は膝をつき、汚くもない床を雑巾で拭いていた。
対照的に他のスタッフはニコニコ接客中。
それはまるで理音だけがシンデレラのような光景だった。
智史は強く拳を握りしめた。
ショップを素通りした智史だったが、踵を返して歩き出す。
今度はちゃんと来店した。
「いらっしゃいませ、受付番号をお持ちになってお待ちください」
という受付ロボットを無視して、つかつかと店内を歩く。
突然現れた背の高いブラックスーツを着た男に、ざわっと店内が騒然となる。
異変に気づいた男性スタッフが、
「お客様、どうかなさいましたか?」
といった瞬間、智史は立ち止まった。
一方で、理音は膝をついたまま呆然としていた。
なぜ、パパがこんなところに!?
と、大きな目をさらに見開いてびっくりしている。
智史が、男性スタッフに「店長はいるか?」と尋ねた。
すると、副店長の木和田です、といって明美が歩いてきた。
さらに、店長は本日はお休みを頂いております、と明美が告げた。
智史は、じゃあ、君でいいから、どこか静かに話せるところはないかな、と尋ねた。
明美は、引きつった顔をしてから口元を緩ませる。
「あ、あの……お客様、どういった用件でしょうか?」
ああ、失礼、といった智史はジャケットの内側から一枚の名刺を取り出すと、明美に渡した。
『東京地方検察庁〇〇支部 検事 立花智史』
と書かれた名刺を見た里美の目は、一気に瞳孔が開いた。
「いつも理音がお世話になっています」
智史はそういったが、頭を下げることはなかった。
その鋭い目が明美を見据えて、ずっと逸らす様子がなかった。
明美は震えながら、お話ならここで聞きます、といった。
智史は頷き返すと、大きく息を吸って胸を膨らませた。
怒鳴られると察して、明美はビクビクっと瞼を震わせる。
「本日をもって、立花理音は退職の意思を表明する!」
智史の宣言が終ると、しーん、と店内は静寂に包まれた。
流行りのJポップだけがゆるふわっと流れていた。
明美は一瞬フリーズしたが、こう切り返してきた。
「あ、あの……そういったことを私にいわれましても……」
智史は間髪入れずに説明を始めた。
「いや、まずは理音の上司である君に退職の意思を告げるのが筋だ。なお明日から理音は出社しないので、そのおつもりで」
「え!? 困ります……ちゃんと出勤してもらわないと、私が本社に叱られます」
「安心しなさい、御社の人事総務には有給を申請をしておくから」
「あ、あの、立花さんは入社したばかりなので、有給は使えません」
それを聞いた智史は、あ、この会社はブラックだな……と察した。
もっとも、理音が自分で見つけてきた就職先だ。
子どもの頃から引っ込み思案で自主性が乏しい理音が、自分の力だけでやっと勝ち取った就職先だ、頭ごなしにダメだ、なんて言えず尊重してやろうと思って黙っていたが……まぁ、その考えは甘かったのかもしれない、と智史は悔やんだ。
と同時に、そこが俺の欠点でもあると思った。
そんな智史は、いや、使える……といって明美をジッと睨むと話を続けた。
「正社員で入社した理音はもう半年以上勤務している。よって労働基準法に則って理音には有給が十日以上は与えられている。今回はそれをすべて消化しようと思う」
「そ、そんな勝手な! 私だってまだ有給を一日もとっていないのに!」
「それはマズイな……有給休暇は義務化されている。年度内に五日以上は消化しないと、労基に目をつけられるどころか、罰金三十万だ。もし御社にそんな人がたくさんいたとすると……あはは、掛け算すると結構な金額になるな」
「そ、そんな……」
「まぁ、まだ十月の秋だ……これから君も休みたまえ、では失礼する」
そういった智史は腕を組むと、「そうそう」と付け加えた。
「理音の退職理由によっては、あなた方を法律に則って裁くことになるかもしれないので、そのおつもりで」
すると、店内にいた女性スタッフたちが接客を放置して智史に近づいた。
そして泣きながら訴え始めた。
「わたしたちは何もやってません」
「副店長に脅されてたから、立花さんを無視するしかなかったんです」
「立花さんのロッカーの鍵にテープを貼ったのも副店長です」
色々な悪事を白状する女性スタッフたち。
智史は、やれやれ、と首を振ると口を開いた。
「すべては理音しだいだ。理音が君たちから精神的苦痛を与えられたと証言したら、君たちに慰謝料を請求するよ」
そう智史がいった瞬間だった。
わっと女性スタッフたちは走り出し、理音のもとに向かった。
「「「立花さん! ごめんなさい!」」」
深々と頭を下げ、理音に謝罪する女性スタッフたち
理音は立ち上がると、
え!? あ、ちょ……。
と、戸惑うばかり。
すると、智史は微笑みながら理音に、荷物を持ってきなさいと告げた。
制服は? と理音が尋ねたから、クリーニングして返却しようと、智史はいった。
小走りしてバックヤードに向かう理音。
残った女性スタッフたちは智史に擦り寄り、どうか、どうか、わたしたちは許してください、と上目使いで懇願する。
しまいには、お尻を突き出しながら土下座して謝る女性もいた。
「俺に言っても無駄だ。理音に謝るんだな……それより君たち仕事に戻りなさい」
「「「そんなぁ~」」」
ぐったりと肩を落とす女性スタッフたち。
店内の客は放置されたまま、呆然とこのやりとりを眺めていた。
客たちの中には、スマホをいじくってこの光景を撮影する者もいた。
またネットでつぶやく者もいる。
その内容は、画像付きで荒れていた……。
『なんだこれw』
『ショップの女たち土下座してるンゴ……』
『何があったんだ?』
『ああ、スタッフの女の子をいじめてたのがバレたらしいwww』
『ざまぁwww』
『その女の子の画像ほれっ』
『かっわいい♡』
『クッソ~こんな可愛い子をいじめるなんて激おこだわ!』
『で、首謀者がこの女らしい 画像ポチッ』
『ちょwww』
『死にそうな顔してんなwww』
画像の中の明美は、ポツンとデスクに座っていた。
顔が絶望の色に染まっている。
「お、終わった……」
そう嘆く明美の体は、ガクブルに震えていた。
一方、ハルカは家の自室に戻っていた。
カモミールを飲みながら優雅にスマホをいじっている。
画面には、ネットのつぶやきが表示されていた。
高速で指先をタッチさせて、そこに何やら打ち込んでいる。
自分の正体はわからない、匿名性の高いつぶやきだ。
所謂、裏アカウントを利用している。
するとハルカは、うふふ、と冷笑した。
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