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第一章 悪徳モンスターはざまぁしますわ!
13 やっぱりいじめはなくならない
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朝の目覚め。
窓から射し込む太陽の光。
一日の始まりはスマホから流れるアラームの音。
理音は布団から飛び起きると、身支度を済ませて朝食をとった。
母親の「早くしなさい」という応援ソングも聞こえてくる。
理音の今日の勤務体制は早番だった。
開店前に朝礼や清掃をして客を迎える準備をしなくてはならない。
遅刻することは絶対に許されなかった。
「いってきまーす!」
玄関を出てダッシュする理音。
制服は事務所のロッカーに置いてあるから、通勤の格好はいつも私服だった。
ファストファッションで適当に母親と買い物したやつだ。
親友のハルカからいわせると、
「着せられている感じがする」
らしいのだが、理音にはそのことに関して深く追究する気はない。
しかもノーメイク。まったくもって理音の美容意識は低い。
さらに電車通勤中はひたすら文庫本を読みふける文学女子。
座れなくて、つり革に捕まりながらでも読書する活字中毒。
何を読んでいるのかといえば、
『ローマの旅』
と題される本だった。
昨夜父親から、あと一年しか生きられないとしたら……と問われた。
考えれば考えるほど、ローマに旅行したくなっていたのだ。
すると、理音のページをめくる指先が止まった。
本にはイタリアの城が紹介されていた。
スフォルツェスコ城、サンレオ城、カステル・デル・モンテなどなど……。
理音はそれらを見るたびにぞわぞわと体温が上昇するのを感じた。
なぜそんなふうになるのか……わからない。
だが、こんな写真ではなく、直接この肉眼で本物の城を見ることができたなら……。
この高ぶる気持ちの正体がわかるかもしれない!
と理音は思っているのだった。
職場に着いた理音は、事務所のロッカー室に駆け込む。
朝礼まであと五分、のんびりしている暇はなかった。
ロッカー室では何人か他のスタッフが着替えていた。
彼女たちは理音の方に目を向けない。事務的におはようございますというのみ。
理音も倣って挨拶をする。
着替えようと自分のロッカーの前に立って鍵を差し込もうとした。
だが、鍵が上手く入らない。
おや……なぜだろう? と理音は鍵穴を凝視する。
すると、鍵穴には接着テープが貼られていた。
誰がこんなことを!?
驚いた理音は首を振って辺りを見回す。
ちょうど着替えを終えたスタッフたち。
ロッカー室から出ていくところだった。
何やら、クスクスと笑っているようにも見える。
彼女たちがやったのか?
という疑惑と悪質な匂いを理音は嗅ぎ取った。
まただ……また私は人から嫌われている。自分の人生を呪った。
だが、いつまでも塞ぎ込んだままではいられない。もう社会人だ。仕事をしなくてはならない。仕方なく、爪を使って接着テープを剥がしにかかる。朝礼に遅刻したら大変だ。副店長の鬼のような形相が目に浮かぶ。
ガリッッ!
だが、なかなか上手くテープが剥がれない。しっかりと固着している。下手をすると鍵穴の中にテープが入り込んでしまう恐れがあった。綺麗にテープを剥がす必要がある。慎重にガリガリと剥がそうとする指先が、だんだん痛くなってきた。爪が割れそうになるが、やがて少しずつテープが剥がれてきた。ふと、壁時計に目を配る。
ヤバイ! もう朝礼が始まってる!
早く制服に着替えて朝礼に出ないと!
焦る理音は、何とかすべてテープを剥がすことができ、急いで鍵を差し込んだ。
ガチャ!
やっとロッカーが開いた。
制服は……無事だった。何もされてなかった。
ほっと胸を撫で下ろす理音の脳裏に、また中学時代の悪夢が蘇る……。
……。
ポタ……ポタ……。
水が滴る音。
濡れた髪、透ける制服から見える下着、涙と共に頬を流れるカルキ臭のする水。
トイレで水をかけられた少女、理音が廊下を歩いている。
肌の透けた濡れる制服姿を、やらしい目で男子たちから見られた。
教室に戻れば、クラスメイトの女子たちから白い目で見られた。
だが、一人の少女だけが、
「リオン……どうなさったの!?」
といって心配そうな顔を浮かべながら駆けつけてくれた。
少女時代のハルカだ。この頃からハルカは別格で美少女だった。
さらに文武両道、何をやらせても卒なくこなした。
文句なしで学校一番の優等生だった。ハルカのことを神童という先生もいた。
そうなると学校の生徒たちは、ハルカに近寄り難い印象を受けるところもあった。
だが、理音だけはハルカに対して友情を感じていた。
それだけに、理音はハルカに心配をかけたくないと思っている。
理音は急いで教室の後ろに向かった。
自分の荷物棚にある体操服に着替えようとしたのだ。
だが……。
ない……ない……体操服がない!
いくら探しても体操服が見つからない。
昨日の授業で体育があったので使い、そのまま置いてあったはずなのに……。
すると、チャイムが鳴った。授業が始まる合図だ。
急いで席に着くクラスメイトたち、慌てて教室に入ってくる男性教諭。
対照的に呆然と立ち尽くす理音。
「何やってんだ立花! ずぶ濡れじゃないか!? 早く体操服に着替えて来い」
と男性教諭の鋭い言葉が、静まりかえった教室に響く。
だが、理音は着替えることができない。体操服がないからだ。
理音は黙って席に着く。
男性教諭は、そんな濡れた制服じゃ授業は受けさせなれない、という。
すると、
「制服を脱いで乾かせばいいと思いまーす」
と、一人の女子生徒の声が発すると、
「ヤバ! 脱いだらヤバいって!」
「巨乳がバレちゃう~」
「やだ……エロすぎ……」
釣られて次々と女子生徒たちが騒ぎ出す。
「「「ぬ~げ! ぬ~げ! ぬ~げ!」」」
男性教諭の静かにしなさいという声は全く効果がなかった。
教室中が騒然とし全生徒の顔が理音の方に向けられる。
理音は下を向いたまま、ただ黙ってやり過ごそうと唇を噛んだ。
その時だった。
ガタ!
ハルカが急に立ち上がった。
ぬぎぬぎ……。
おもむろに自分の着ている制服を脱ぎ始める。
真っ白な白い肌、スレンダーなプロポーション、サラサラと黒髪が揺れる。
ハルカの美しい下着姿が露わになった。教室が鎮まり返る。
その光景はまるで絵画のような芸術性があり、誰もが美しいと思って息を飲んだ。
ハルカは脱いだ制服を持って、理音のところまで行くと、
「わたくしの制服を着てなさい。もっとも体操服が見つかればいいんだけど……」
そういいながら、目線はある一人の女子生徒を睨みつける。
女子生徒はまるで蛇にでも睨まれたように、体を震わせた。
そして、罰の悪そうな顔をして引き出しから体操服を取り出す。
体操服には『立花』の文字が刺繍されていた。
窓から射し込む太陽の光。
一日の始まりはスマホから流れるアラームの音。
理音は布団から飛び起きると、身支度を済ませて朝食をとった。
母親の「早くしなさい」という応援ソングも聞こえてくる。
理音の今日の勤務体制は早番だった。
開店前に朝礼や清掃をして客を迎える準備をしなくてはならない。
遅刻することは絶対に許されなかった。
「いってきまーす!」
玄関を出てダッシュする理音。
制服は事務所のロッカーに置いてあるから、通勤の格好はいつも私服だった。
ファストファッションで適当に母親と買い物したやつだ。
親友のハルカからいわせると、
「着せられている感じがする」
らしいのだが、理音にはそのことに関して深く追究する気はない。
しかもノーメイク。まったくもって理音の美容意識は低い。
さらに電車通勤中はひたすら文庫本を読みふける文学女子。
座れなくて、つり革に捕まりながらでも読書する活字中毒。
何を読んでいるのかといえば、
『ローマの旅』
と題される本だった。
昨夜父親から、あと一年しか生きられないとしたら……と問われた。
考えれば考えるほど、ローマに旅行したくなっていたのだ。
すると、理音のページをめくる指先が止まった。
本にはイタリアの城が紹介されていた。
スフォルツェスコ城、サンレオ城、カステル・デル・モンテなどなど……。
理音はそれらを見るたびにぞわぞわと体温が上昇するのを感じた。
なぜそんなふうになるのか……わからない。
だが、こんな写真ではなく、直接この肉眼で本物の城を見ることができたなら……。
この高ぶる気持ちの正体がわかるかもしれない!
と理音は思っているのだった。
職場に着いた理音は、事務所のロッカー室に駆け込む。
朝礼まであと五分、のんびりしている暇はなかった。
ロッカー室では何人か他のスタッフが着替えていた。
彼女たちは理音の方に目を向けない。事務的におはようございますというのみ。
理音も倣って挨拶をする。
着替えようと自分のロッカーの前に立って鍵を差し込もうとした。
だが、鍵が上手く入らない。
おや……なぜだろう? と理音は鍵穴を凝視する。
すると、鍵穴には接着テープが貼られていた。
誰がこんなことを!?
驚いた理音は首を振って辺りを見回す。
ちょうど着替えを終えたスタッフたち。
ロッカー室から出ていくところだった。
何やら、クスクスと笑っているようにも見える。
彼女たちがやったのか?
という疑惑と悪質な匂いを理音は嗅ぎ取った。
まただ……また私は人から嫌われている。自分の人生を呪った。
だが、いつまでも塞ぎ込んだままではいられない。もう社会人だ。仕事をしなくてはならない。仕方なく、爪を使って接着テープを剥がしにかかる。朝礼に遅刻したら大変だ。副店長の鬼のような形相が目に浮かぶ。
ガリッッ!
だが、なかなか上手くテープが剥がれない。しっかりと固着している。下手をすると鍵穴の中にテープが入り込んでしまう恐れがあった。綺麗にテープを剥がす必要がある。慎重にガリガリと剥がそうとする指先が、だんだん痛くなってきた。爪が割れそうになるが、やがて少しずつテープが剥がれてきた。ふと、壁時計に目を配る。
ヤバイ! もう朝礼が始まってる!
早く制服に着替えて朝礼に出ないと!
焦る理音は、何とかすべてテープを剥がすことができ、急いで鍵を差し込んだ。
ガチャ!
やっとロッカーが開いた。
制服は……無事だった。何もされてなかった。
ほっと胸を撫で下ろす理音の脳裏に、また中学時代の悪夢が蘇る……。
……。
ポタ……ポタ……。
水が滴る音。
濡れた髪、透ける制服から見える下着、涙と共に頬を流れるカルキ臭のする水。
トイレで水をかけられた少女、理音が廊下を歩いている。
肌の透けた濡れる制服姿を、やらしい目で男子たちから見られた。
教室に戻れば、クラスメイトの女子たちから白い目で見られた。
だが、一人の少女だけが、
「リオン……どうなさったの!?」
といって心配そうな顔を浮かべながら駆けつけてくれた。
少女時代のハルカだ。この頃からハルカは別格で美少女だった。
さらに文武両道、何をやらせても卒なくこなした。
文句なしで学校一番の優等生だった。ハルカのことを神童という先生もいた。
そうなると学校の生徒たちは、ハルカに近寄り難い印象を受けるところもあった。
だが、理音だけはハルカに対して友情を感じていた。
それだけに、理音はハルカに心配をかけたくないと思っている。
理音は急いで教室の後ろに向かった。
自分の荷物棚にある体操服に着替えようとしたのだ。
だが……。
ない……ない……体操服がない!
いくら探しても体操服が見つからない。
昨日の授業で体育があったので使い、そのまま置いてあったはずなのに……。
すると、チャイムが鳴った。授業が始まる合図だ。
急いで席に着くクラスメイトたち、慌てて教室に入ってくる男性教諭。
対照的に呆然と立ち尽くす理音。
「何やってんだ立花! ずぶ濡れじゃないか!? 早く体操服に着替えて来い」
と男性教諭の鋭い言葉が、静まりかえった教室に響く。
だが、理音は着替えることができない。体操服がないからだ。
理音は黙って席に着く。
男性教諭は、そんな濡れた制服じゃ授業は受けさせなれない、という。
すると、
「制服を脱いで乾かせばいいと思いまーす」
と、一人の女子生徒の声が発すると、
「ヤバ! 脱いだらヤバいって!」
「巨乳がバレちゃう~」
「やだ……エロすぎ……」
釣られて次々と女子生徒たちが騒ぎ出す。
「「「ぬ~げ! ぬ~げ! ぬ~げ!」」」
男性教諭の静かにしなさいという声は全く効果がなかった。
教室中が騒然とし全生徒の顔が理音の方に向けられる。
理音は下を向いたまま、ただ黙ってやり過ごそうと唇を噛んだ。
その時だった。
ガタ!
ハルカが急に立ち上がった。
ぬぎぬぎ……。
おもむろに自分の着ている制服を脱ぎ始める。
真っ白な白い肌、スレンダーなプロポーション、サラサラと黒髪が揺れる。
ハルカの美しい下着姿が露わになった。教室が鎮まり返る。
その光景はまるで絵画のような芸術性があり、誰もが美しいと思って息を飲んだ。
ハルカは脱いだ制服を持って、理音のところまで行くと、
「わたくしの制服を着てなさい。もっとも体操服が見つかればいいんだけど……」
そういいながら、目線はある一人の女子生徒を睨みつける。
女子生徒はまるで蛇にでも睨まれたように、体を震わせた。
そして、罰の悪そうな顔をして引き出しから体操服を取り出す。
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