賢者の加護を受けた娘とコスプレお嬢様の恋と友情の物語

花野りら

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第一章 悪徳モンスターはざまぁしますわ!

4 積極的な店長

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 颯爽と歩く大塚の横で、理音は小走りする。
 往来する人いきれが激しくて、油断していると離されそうだったからだ。
 ほどよい身長差があった。はたから見えればお似合いのカップルだった。
 大塚のスペックはこうだ。
 二十八歳で独身、彼女はいない。
 身長は175センチで割と高い方。顔はイケメンで髪型は爽やかな長髪。
 グレーのスーツ姿がよく似合っていて、知的な社会人という風格がある。
 話しも面白いので、モテた学生時代を過ごしていたような雰囲気もある。
 そういう意味ではチャラい物件だ。
 そのチャラさが良いという女性もいるだろう。話しやすいからだ。
 さらに、正社員で大手キャリアの店長として働いている。
 まだ若いし将来性も十分にある。
 むべなるかな、女性スタッフから絶大な人気があった。
 所謂、王子様キャラだった。

 誰が大塚店長の彼女にふさわしいか?

 そんな話で盛り上がっていることを、理音は知っていた。
 そんな大塚は、駅前の大通りを歩いていると、急に脇道を逸れた。
 二人は、何やらネオンの光が輝く、怪しい界隈に足を踏み入れていく。
 
 私の働く店の近くに、こんなところがあったなんて知らなかった……。
 
 理音はそんなことを思いがら小走りする。
 目に飛び込んでくる看板は、みんな花のようにピンク色。
 口に出すのも恥ずかしい店の名前ばかりだった。
 理音はあまりにも驚いて立ち止まってしまった。
 開いた口が塞がらず、恥ずかしくなって手で隠した。
 その仕草が何とも可愛らしかった。
 そんな理音を見つめる大塚はそっと、理音の耳元へ囁くように話しかけた。
 
「なぁ、あれを見てくれ……立花さん」

 大塚が示した方角には、男たちがいた。
 理解不能な店が並ぶ道の中央で、千鳥足のサラリーマンたちと会話をしている。
 そんな男たちの姿は、どこか不気味に見えた。
 近寄って聞き耳を立てると、何やら商談ごとをしているようにも聞こえた。
 彼らはそのまま一緒に歩いていけば商談成立。別れれば商談不成立なのだろう。
 だが、いったい何を商談しているのか?
 理音にはちんぷんかんぷん、わからなかった。
 訝しむ理音を横目に、大塚はゆるりと話かける。

「ここは繁華街だ」
「わ……私、生まれて初めて来ました」
「そうか……じゃあ、あの男たちが何をしているのか、わからないだろう?」
「はい……」
「だが、あいつらの顔や口調を観察してみろ……何かわかるかもしれないぞ」
「やってみます」

 理音は男たちの間を通り過ぎる時、目と耳を集中して働かせた。
 すると、あることに気づいた。
 理音は思わず言葉を発してしまう。
 
「あ! お店に来るモンスターだ!」

 モンスター、という言葉に反応した男たちが、
 
 なんだコラァ!?
 
 といった感情を理音にぶつけてきた。
 怖い顔をした男たちの目線に、狼狽える理音。
 機転を利かせた大塚は、ぱっと理音の手を握ると走りだした。
 二人は界隈を抜けて、一層暗い道に入っていく。
 理音は自分の手を握っている、大塚の男らしいゴツい手を凝視した。

「う……男の人が……私の手を……」

 急に恥ずかしくなって、頬を真っ赤に染める。
 まるで熟れたリンゴのようだった。
 すると理音は突然、
 
「やめてください!」

 と叫んで、大塚の手を振り解いた。
 ぽかん、立ち尽くす大塚。
 ごめん、と一言いうと話を続けた。
 
「わかっただろ……俺たちの店の近くにはエッチな店が多いんだ。だからモンスターが店にやってくる……というわけさ」
「……」

 沈黙する理音。
 大塚の話など、全然耳に入ってなかった。
 それどころではなかった。
 その心境は……。
 
 わ、わ、わたしっ、男の人と手を繋いじゃった!
 
 であった。
 自分の手をジッと見つめている理音。
 
 ドキドキドキドキ!
 
 心臓は早鐘を打ち鳴らしていた。
 すると、大塚は、
 
「とりあえずここに入ろう……」

 といって、理音をある建物に一緒に入るよう促してくる。
 理音は建物の外にある看板をみて驚いた。
 
「休憩? 宿泊? え!? ここって……ラブホ!!!!」

 困惑してあたふたする理音。
 頭から大きな汗の粒が、まるでアニメのように吹き出しそうな勢いだ。
 大塚は構うことなく、建物の入り口にずんずん歩いていく。
 だが、理音はピクリとも動かない。地蔵ように固まっている。
 大塚はこっちに来ない理音の方を振り返ると、

「どうした? いくぞ」

 と強引に理音を誘ってくる。
 だが、やはり理音はぴくりとも動かない。蝋人形のように瞬きもしてない。
 ついに気を揉んだ大塚は、踵を返して理音の体に肉薄してきた。
 
 ヤダ……。
 
 理音は大塚の視線が、自分のおっぱいを見ているような気がしてならない。
 急接近してくる大塚。
 理音はたまらず、自分の腕を組んでおっぱいを隠した。
 すると、いきなり大塚の手が理音の肩に触れた。
 その瞬間!
 
「つ、つ、付き合ってないのに、こういうところには入れません!」

 理音は大声を上げて大塚を拒絶した。
 ストン、と理音の肩から大塚の手が離れた。
 わなわなと体を震わせる理音は、サッと風のように走り去った。
 ラブホの前に取り残された大塚は、ポリポリと頭を掻いて肩を落とした。

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