5 / 70
第一章 悪徳モンスターはざまぁしますわ!
2 イケメンな店長
しおりを挟む
「ですからお客様……審査が通らない場合は、一括で端末代金を払っていただくしか方法はないのです」
「なんだよ! たんまつだいきんって?」
「あ、あの、お客様がお買い求めのスマートフォンの代金でございます」
「ぬああ! 難しいことはいいからよぉ、さっさと契約してくれよ」
「で、ですからお客様は審査が通らないので分割払いが不可能でございます」
「くそ……じゃあ、いくらだよ?」
「この新型モデルですと十五万円です」
「じゅ、じゅ、十五万なんか一括で払えねぇよ! 分割しろや!」
「ですから、お客様は審査が……」
「そこをなんとかしろや!」
「……」
理音は心の中で、
てんちょ~助けて~。
と涙目で嘆きながら、視線を店内の至るところに向けた。
すると店長の大塚俊秀が飛んできた。
「お客様……もしよろしかったら十万円以下のこちらの機種はいかがでしょうか? こちらでしたら審査も甘いので簡単に通ると思いますよ」
「え!? マジか……どんな機種なの?」
「旧モデルですが、十万以下でこのスペックならお得な買い物です。実際、私の友達もこれを使ってます。ちなみに残りの在庫は……」
と大塚はいったところで理音の方に顔を向けて、
「立花さん、これの在庫を確認してきてくれるかな」
と理音に指示を出した。
さわやかな笑顔のおまけつきだった。
「……あ、はい」
理音はそう返事をすると、ダッシュで裏のバックヤードに駆け込む。
するとそこには副店長の木和田明美がいた。
尋ねてみると、在庫は残り一台と教えてくれた。
理音は、ありがとうございます、といって走り去る。
明美は、自分で調べなよ……と吐き捨てた。
売り場に戻った理音は、人差し指を掲げて、
「 てんちょ~、残り一台です!」
と高い声を上げた。
それを聞いた大塚は、にこやかに笑みを浮かべた。
結局、お客様は旧モデルの購入に踏み切った。
審査は落ちることなく、見事に通り、店長の大塚と握手を交わし契約をした。
満足そうな顔をしていた。良い買い物ができた時の顔だ。
欲しい物が手に入って嬉しいのだ。その手には紙袋が幸せそうに揺れていた。
ふぅ、やれやれ、と大塚はいって理音の肩をぽんぽんと叩く。
頭を下げる理音。
そのような光景を見ていた他のスタッフたちから、理音はあだ名をつけられた。
その名も、
「落としの立花」
であった。
お客様をローン審査に落とすからだ。
いや、これは理音本人が狙ってやっているわけではない。
悪いのはローン審査に落っこちる客の方なのだ。
と、理音からすれば思うのだが……。
どうやら、世の中というのは、そうは問屋は卸さない。
物事には必ず表もあれば裏もある。
一つのプランがダメな時は他のプランを試してみる。
そういった臨機応変さがないと、世の中とてもじゃないが上手く渡っていけない。
押してダメなら引いてみな。
柔よく剛を制す。
北風より太陽。
などのことわざがあるように、上手くいかない時は、別の方法を試してみることが大事になってくる。
理音のように、客が求めるものは新型モデルだから、これを買わせなきゃ!
と、一方的に思い込むだけでは成功には導けない。
つまり理音のやり方では、いくらも売り上げにはならないということだ。
店長の大塚のように、多面的に物事をとらえ、お客様にあったプランを提案すれば……。
あら不思議。
怒って帰るところだったお客様の凍った心を溶かす。
そして、ニコニコ笑顔で契約してくれるというわけだ。
はあ……私にはこの仕事向いてないのかも……。
理音はそんなことを思いながら、休憩室のテーブルの椅子を引いた。
隣のテーブルには女性スタッフ三人が弁当をつつきながら、陽気に騒いでいる。
椅子に腰を下ろし理音は、一人だけ、ポツンと弁当を食べ始める。
いただきます、という小さい声は虫の羽音のようだった。
理音とは対照的な三人はいつも仲良しだった。
息が合う友達とはまさに彼女たちのことをいう。
職場に仲間がいるなんて羨ましいな、と理音は思った。
三人の声は大きくて、聞きたくないのに話の内容が、じゃんじゃん入ってくる。
三人はもっぱら恋の話をしていた。この店の恋愛事情についてだ。
「店長って彼女いないらしいよ」
「へ~そうなんだ~イケメンなのにね~」
「はぁぁ、店長とデートとかできたら……楽しそっ」
「それな~」
「でもさ、店長って優しいけど、いざって時はグイグイきそうだよね」
「わかる」
「はぁぁ、強引に引っ張ってかれたら……いやん♡」
すると休憩室の扉が、ガチャッと開いた。
ぬっと顔だけが入ってきた。副店長の木和田明美だった。
「そろそろ休憩交代してね~」
はーい、と返事をする三人のスタッフたちは、急いで弁当を平らげる。
明美は去り際に、
「立花さん、またお客様を落としたらしいわね」
と言い放った。
はい、すいません、と理音が謝ると、明美は深くため息をついた。
三人のスタッフは、
さぁ、始まるぞ……。
といった顔をして、クスクスと安っぽい笑みを浮かべている。
「それとね立花さん……あなた在庫ぐらい自分で調べなさい。私はあなたの友達じゃないのよ。あと、店長は売り上げアップのためにあなたを助けてるだけだからね。優しくされたと思って勘違いしないでちょうだい」
「……はい」
「わかったらさっさと売り場に行きなさい。あ! ちゃんと歯磨きしてから行きなさい。あなたはすっぴんだから息くらい綺麗にしておかないとお客様に失礼です」
「……はい」
バタン!
明美は乱暴に休憩室の扉を閉めた。
「副店長、今日もキレキレだね」
「こえ~」
「あわわ、おしっこ行きたくなってきました……」
三人はひそひそ話しているつもりだが、理音に丸聞こえだった。
「なんだよ! たんまつだいきんって?」
「あ、あの、お客様がお買い求めのスマートフォンの代金でございます」
「ぬああ! 難しいことはいいからよぉ、さっさと契約してくれよ」
「で、ですからお客様は審査が通らないので分割払いが不可能でございます」
「くそ……じゃあ、いくらだよ?」
「この新型モデルですと十五万円です」
「じゅ、じゅ、十五万なんか一括で払えねぇよ! 分割しろや!」
「ですから、お客様は審査が……」
「そこをなんとかしろや!」
「……」
理音は心の中で、
てんちょ~助けて~。
と涙目で嘆きながら、視線を店内の至るところに向けた。
すると店長の大塚俊秀が飛んできた。
「お客様……もしよろしかったら十万円以下のこちらの機種はいかがでしょうか? こちらでしたら審査も甘いので簡単に通ると思いますよ」
「え!? マジか……どんな機種なの?」
「旧モデルですが、十万以下でこのスペックならお得な買い物です。実際、私の友達もこれを使ってます。ちなみに残りの在庫は……」
と大塚はいったところで理音の方に顔を向けて、
「立花さん、これの在庫を確認してきてくれるかな」
と理音に指示を出した。
さわやかな笑顔のおまけつきだった。
「……あ、はい」
理音はそう返事をすると、ダッシュで裏のバックヤードに駆け込む。
するとそこには副店長の木和田明美がいた。
尋ねてみると、在庫は残り一台と教えてくれた。
理音は、ありがとうございます、といって走り去る。
明美は、自分で調べなよ……と吐き捨てた。
売り場に戻った理音は、人差し指を掲げて、
「 てんちょ~、残り一台です!」
と高い声を上げた。
それを聞いた大塚は、にこやかに笑みを浮かべた。
結局、お客様は旧モデルの購入に踏み切った。
審査は落ちることなく、見事に通り、店長の大塚と握手を交わし契約をした。
満足そうな顔をしていた。良い買い物ができた時の顔だ。
欲しい物が手に入って嬉しいのだ。その手には紙袋が幸せそうに揺れていた。
ふぅ、やれやれ、と大塚はいって理音の肩をぽんぽんと叩く。
頭を下げる理音。
そのような光景を見ていた他のスタッフたちから、理音はあだ名をつけられた。
その名も、
「落としの立花」
であった。
お客様をローン審査に落とすからだ。
いや、これは理音本人が狙ってやっているわけではない。
悪いのはローン審査に落っこちる客の方なのだ。
と、理音からすれば思うのだが……。
どうやら、世の中というのは、そうは問屋は卸さない。
物事には必ず表もあれば裏もある。
一つのプランがダメな時は他のプランを試してみる。
そういった臨機応変さがないと、世の中とてもじゃないが上手く渡っていけない。
押してダメなら引いてみな。
柔よく剛を制す。
北風より太陽。
などのことわざがあるように、上手くいかない時は、別の方法を試してみることが大事になってくる。
理音のように、客が求めるものは新型モデルだから、これを買わせなきゃ!
と、一方的に思い込むだけでは成功には導けない。
つまり理音のやり方では、いくらも売り上げにはならないということだ。
店長の大塚のように、多面的に物事をとらえ、お客様にあったプランを提案すれば……。
あら不思議。
怒って帰るところだったお客様の凍った心を溶かす。
そして、ニコニコ笑顔で契約してくれるというわけだ。
はあ……私にはこの仕事向いてないのかも……。
理音はそんなことを思いながら、休憩室のテーブルの椅子を引いた。
隣のテーブルには女性スタッフ三人が弁当をつつきながら、陽気に騒いでいる。
椅子に腰を下ろし理音は、一人だけ、ポツンと弁当を食べ始める。
いただきます、という小さい声は虫の羽音のようだった。
理音とは対照的な三人はいつも仲良しだった。
息が合う友達とはまさに彼女たちのことをいう。
職場に仲間がいるなんて羨ましいな、と理音は思った。
三人の声は大きくて、聞きたくないのに話の内容が、じゃんじゃん入ってくる。
三人はもっぱら恋の話をしていた。この店の恋愛事情についてだ。
「店長って彼女いないらしいよ」
「へ~そうなんだ~イケメンなのにね~」
「はぁぁ、店長とデートとかできたら……楽しそっ」
「それな~」
「でもさ、店長って優しいけど、いざって時はグイグイきそうだよね」
「わかる」
「はぁぁ、強引に引っ張ってかれたら……いやん♡」
すると休憩室の扉が、ガチャッと開いた。
ぬっと顔だけが入ってきた。副店長の木和田明美だった。
「そろそろ休憩交代してね~」
はーい、と返事をする三人のスタッフたちは、急いで弁当を平らげる。
明美は去り際に、
「立花さん、またお客様を落としたらしいわね」
と言い放った。
はい、すいません、と理音が謝ると、明美は深くため息をついた。
三人のスタッフは、
さぁ、始まるぞ……。
といった顔をして、クスクスと安っぽい笑みを浮かべている。
「それとね立花さん……あなた在庫ぐらい自分で調べなさい。私はあなたの友達じゃないのよ。あと、店長は売り上げアップのためにあなたを助けてるだけだからね。優しくされたと思って勘違いしないでちょうだい」
「……はい」
「わかったらさっさと売り場に行きなさい。あ! ちゃんと歯磨きしてから行きなさい。あなたはすっぴんだから息くらい綺麗にしておかないとお客様に失礼です」
「……はい」
バタン!
明美は乱暴に休憩室の扉を閉めた。
「副店長、今日もキレキレだね」
「こえ~」
「あわわ、おしっこ行きたくなってきました……」
三人はひそひそ話しているつもりだが、理音に丸聞こえだった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
母娘丼W
Zu-Y
恋愛
外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。
左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。
社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。
残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。
休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。
しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。
両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。
大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。
ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
続・上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。
会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。
☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。
「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる