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プロローグ
3 勇者様だ〜いすき♡ 賢者の告白
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ピヨピヨ♪
飛ぶ鳥の鳴き声。
心地良い風がどこからともなく吹いている。
勇者と賢者は高台に移動していた。
眼下に望む草原には、討伐されて横たわる暗黒竜の亡骸。
その周りで歓喜の声を上げながら、暗黒竜の皮を剥ぎ取る王都の民。
勇者はそのような光景を見ながら、
「これでこの国も平和で豊かになるな……」
と囁くようにいった。
賢者は、ほっと胸を撫で下ろしてから答えた。
「ええ、勇者様……」
勇者は、フッと鼻で笑うと踵を返して、さぁ、帰るか、といった。
賢者は、サッと下を向いた。
なにやら拳に力が入っている。気合を入れているようだ。
「ゆ、ゆ、勇者様!」
ん? と振り返る勇者は、賢者の顔を不思議そうに見つめている。
覚悟を決めた賢者は、唇をすぼめて、
「す、す、好きです……勇者様! 私と付き合ってください!」
と告白した。
「……」
勇者はゆっくりと賢者に近づく。
「そうだったのか……賢者よ……俺のことが好きだったのか……」
「はい……ずっと好きでした……きゃ♡」
すると勇者は黙って賢者の両肩を抱いた。
ゆっくりと顔を賢者の顔に近づける。
唇と唇が……ああ、肉薄していく……。
「ちょっ、ちょっと待って勇者様! キスは付き合ってからじゃないとダメですぅ」
いやん……と目を逸らす賢者。
勇者は抱いていた賢者の両肩から、そっと手を離した。
「ごめん、君とは付き合うことはできない」
「な、なぜですか? いまキスしようとしたじゃないですか!?」
「ごめん、俺、付き合っている人がいるんだ……」
「え?」
びっくりして目を丸くする賢者。
「はあ!? 誰ですか?」
「あれ~知らなかった? 地元の村娘だよ……気づかなかったのか……」
えっ!? えええええええ!
賢者は心の中で叫んだ。
じわり、後退りして……反転、そのまま走り去った。
「うわぁぁぁぁぁっぁああん!」
賢者は泣き叫んだ。
目には大粒の涙を浮かべ、失恋を疾走で紛らわそうとしている。
だが、そんなに上手くはいかなかった。
気づくと賢者は、山の断崖絶壁に立っていた。
一歩でも踏み出せば、落っこちて楽になれそうな場所だった。
「あぁ、もう冒険はうんざり……普通の恋がしたいわ……」
そう呟いた賢者は、高らかに手を掲げた。
青い空に白い雲が流れて消えていく。
風が枯れ葉を運んでいる。
その時!
賢者の高く掲げた手の平から、光る魔法の玉が浮かんだ。
するとその玉は、螺旋を描いてフワッと上昇した。
宝石のようにキラキラと雫をこぼしながら、天高く舞い上がっていく。
大気圏を突き抜け、宇宙空間を移動し、暗黒面の揺らぎに突入。
やがて遥か彼方に輝く銀河を通過していくと、一つの星に辿り着いた。
青く光る水の星だった。
そこに住む人たちは、自分たちの星のことを『地球』と呼んでいた。
賢者から解き放たれた魔法の玉は、地球の周りを浮遊する。
アフリカ、オセアニア、アメリカ、ヨーロッパ、アジア。
やがてジャパンと呼ばれる国のある一人の妊婦に狙いをつけた。
すると……。
スッ!
魔法の玉は、妊婦のお腹の中に入ってしまった。
「あれ? 今、あかちゃん動いたっ!?」
妊婦は驚いたが、すぐにその表情は微笑みに変わった。
丸くなったお腹を優しく触り、健やかな祈りを捧げるのだった。
飛ぶ鳥の鳴き声。
心地良い風がどこからともなく吹いている。
勇者と賢者は高台に移動していた。
眼下に望む草原には、討伐されて横たわる暗黒竜の亡骸。
その周りで歓喜の声を上げながら、暗黒竜の皮を剥ぎ取る王都の民。
勇者はそのような光景を見ながら、
「これでこの国も平和で豊かになるな……」
と囁くようにいった。
賢者は、ほっと胸を撫で下ろしてから答えた。
「ええ、勇者様……」
勇者は、フッと鼻で笑うと踵を返して、さぁ、帰るか、といった。
賢者は、サッと下を向いた。
なにやら拳に力が入っている。気合を入れているようだ。
「ゆ、ゆ、勇者様!」
ん? と振り返る勇者は、賢者の顔を不思議そうに見つめている。
覚悟を決めた賢者は、唇をすぼめて、
「す、す、好きです……勇者様! 私と付き合ってください!」
と告白した。
「……」
勇者はゆっくりと賢者に近づく。
「そうだったのか……賢者よ……俺のことが好きだったのか……」
「はい……ずっと好きでした……きゃ♡」
すると勇者は黙って賢者の両肩を抱いた。
ゆっくりと顔を賢者の顔に近づける。
唇と唇が……ああ、肉薄していく……。
「ちょっ、ちょっと待って勇者様! キスは付き合ってからじゃないとダメですぅ」
いやん……と目を逸らす賢者。
勇者は抱いていた賢者の両肩から、そっと手を離した。
「ごめん、君とは付き合うことはできない」
「な、なぜですか? いまキスしようとしたじゃないですか!?」
「ごめん、俺、付き合っている人がいるんだ……」
「え?」
びっくりして目を丸くする賢者。
「はあ!? 誰ですか?」
「あれ~知らなかった? 地元の村娘だよ……気づかなかったのか……」
えっ!? えええええええ!
賢者は心の中で叫んだ。
じわり、後退りして……反転、そのまま走り去った。
「うわぁぁぁぁぁっぁああん!」
賢者は泣き叫んだ。
目には大粒の涙を浮かべ、失恋を疾走で紛らわそうとしている。
だが、そんなに上手くはいかなかった。
気づくと賢者は、山の断崖絶壁に立っていた。
一歩でも踏み出せば、落っこちて楽になれそうな場所だった。
「あぁ、もう冒険はうんざり……普通の恋がしたいわ……」
そう呟いた賢者は、高らかに手を掲げた。
青い空に白い雲が流れて消えていく。
風が枯れ葉を運んでいる。
その時!
賢者の高く掲げた手の平から、光る魔法の玉が浮かんだ。
するとその玉は、螺旋を描いてフワッと上昇した。
宝石のようにキラキラと雫をこぼしながら、天高く舞い上がっていく。
大気圏を突き抜け、宇宙空間を移動し、暗黒面の揺らぎに突入。
やがて遥か彼方に輝く銀河を通過していくと、一つの星に辿り着いた。
青く光る水の星だった。
そこに住む人たちは、自分たちの星のことを『地球』と呼んでいた。
賢者から解き放たれた魔法の玉は、地球の周りを浮遊する。
アフリカ、オセアニア、アメリカ、ヨーロッパ、アジア。
やがてジャパンと呼ばれる国のある一人の妊婦に狙いをつけた。
すると……。
スッ!
魔法の玉は、妊婦のお腹の中に入ってしまった。
「あれ? 今、あかちゃん動いたっ!?」
妊婦は驚いたが、すぐにその表情は微笑みに変わった。
丸くなったお腹を優しく触り、健やかな祈りを捧げるのだった。
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