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第三章 人類は忘却と虚構で成り立っていることを知る
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さて、ここからどうする?
この女が真里だとしたら問題がある。
なぜなら、監禁状態にあったからだ。そんな真里が取り調べを受け、社会に出たときに待っている現実はどんなものか。それは十年間という長い監禁生活から生還した女ということで、マスコミに注目される可能性がある。
やつらは世間が欲しがる他人の不幸という腐った甘い蜜を吸いたがり、群がる。しかも、一斉に群がってたちが悪い。真里は綺麗でスタイルも抜群な女に成長していることもあって、マスコミたちから性的な目で見られることは明白だ。
どんな監禁生活をしていたか?
そんなふうに、警察からの取り調べをうけるだろう。
真里は耐えられるだろうか?
そして、警察がその聴取内容をマスコミに言い値でリーク、つまり、売ったらどうなるだろうか。そうなると、真里が社会復帰できるかどうか、まったく疑わしい。目も当てられない状況にもなりかねない。
被害者なのに守ってもらえない。
一度でも犯罪に巻き込まれた被害者は、一生そのレッテルを貼られ、悪魔の目から逃れられない。
凶悪な犯罪を犯したやつのなかには、初めから死んだっていいと思っている者もいるのだから楽なものだ。奴等はぬくぬくと牢屋のなかで弁護士と検察とおしゃべりをして、ラストは裁判官に判決を下される。不服がなければそれに従えばいい。最終的に死刑になっても別に構わないのだ。そういった人種のことを、悪魔と呼ぶことがある。
一方、犯罪者によって人生を狂わされた被害者の未来はどうだろうか?
小さな幸せを感じながら暮らしていた人もいただろう。まるで、天使のような微笑みを浮かべながら、毎日を楽しく生きていたことだろう。だが、犯罪を受けた瞬間、未来は崩れ去り、絶望へと移り変わる。
無残に呆気なく、ただ、たまたま犯罪者に居合わせたアンラッキーという天災、いや人災に振りかたっただけで、その人生はロストする。つまり今まで歩いてきた人生を、一瞬で、しかも人権も拒否権もなしで一方的に消去されるということだ。
被害者は、被害を受けたことによって、退廃的で残忍なことをされたイメージを植え付けられる。そのような負のスパイラルへと巻き込まれてしまう。その状態から社会に復帰することは容易なことではない。今回の真里の場合だって同じだろう。もしハイエナのようなマスコミに嗅ぎつかれたら、世間からこのような目で見られる可能性がある。
あの女は監禁されたらしいぞ。
性奴隷だな。
そのように世間から騒がれ、噂され、家の外に出られなくなるかもしれない。だが、それは避けたい。いや、絶対に回避してやらないといけない。
真里を守ってやる!
そう決めた俺は、さっそく真里の保護に向けてどうすべきが思考する。まず、この監禁場所から真里の所持品をすべて回収しなければならない。真里の痕跡が見つかった場合、警察の捜査の息が真里にかかってくる可能性がある。だが、それだけは避けたい。真里が普通に暮らしていくために。
とりあえずこの部屋から探してみる。
そして、失踪当時の真里の所持品について思い出そうとするが、記憶のアーカイブを引っ張り出すのには、時間がかかる。
たしか……あの日はカフェに行ったあと俺の実家で……。
そうだ、真里は黒いレースのワンピースを着ていた。そして、所持品はポーチに携帯と財布と化粧道具を入れていた。つまり、そのポーチはどこにいったのかが重要だ。
だが、この首吊り男がどこかに捨てた可能性もある。逆に捨ててもらったほうがこの際、都合が良い。そんなことを思いながら、手当たりしだいに探してみる。机の引き出し、タンスの中を探すが、それらしいものは見つからない。いつまでも探している時間はないし、困った。
こればっかりは、運を天に任せるしかないか……。
神にすがるような思いで、真里を抱き上げる。
そして、そのまま階段を降りる。途中で蜘蛛の巣が身体中に絡みついたが、気にしている余裕はない。階段の幅は狭いし、勾配もキツい。階段を踏み外して転ばないよう、足下への注意が必要としがら歩く。少しずつ、少しずつ……。覚めない夢から離脱するように。
なんとか、一階に降りることができ、玄関からスリッパを蹴り投げ捨てる。見事、二つのスリッパが放物線を描いて飛んでいく。急いで靴に履き替え、外に出る。とりあえず真里の確保ができたので、ほっと胸をなで下ろした。
だが、暗闇から一変したことで、太陽の光りに照らされ目が眩む。
とにかく今は、真里を車まで運ぶため前進するしかない。スリッパはあかねちゃんに回収してもらおうと思い、生垣のほうに顔を向ける。すると、反対側の生垣から、聞き覚えのある笑い声が響く。
「嘘だろ……なんでこんなところに?」
五十嵐刑事の声だった。
それと、可愛らしい声も聞こえる。どうやら、あかねちゃんと五十嵐さんは談笑しているようだ。
やがて、その声はこちらに近づいてくる。俺は抱いている真里を落としそうになるくらいに驚愕の念を抱く。やがて、生垣の角から姿を現したのは、やはり定年間近のベテラン刑事、五十嵐さんだった。そして、その隣には、さも当たり前のようにあかねちゃんが、腕を組んで黙ってこちらを見つめていた。
この女が真里だとしたら問題がある。
なぜなら、監禁状態にあったからだ。そんな真里が取り調べを受け、社会に出たときに待っている現実はどんなものか。それは十年間という長い監禁生活から生還した女ということで、マスコミに注目される可能性がある。
やつらは世間が欲しがる他人の不幸という腐った甘い蜜を吸いたがり、群がる。しかも、一斉に群がってたちが悪い。真里は綺麗でスタイルも抜群な女に成長していることもあって、マスコミたちから性的な目で見られることは明白だ。
どんな監禁生活をしていたか?
そんなふうに、警察からの取り調べをうけるだろう。
真里は耐えられるだろうか?
そして、警察がその聴取内容をマスコミに言い値でリーク、つまり、売ったらどうなるだろうか。そうなると、真里が社会復帰できるかどうか、まったく疑わしい。目も当てられない状況にもなりかねない。
被害者なのに守ってもらえない。
一度でも犯罪に巻き込まれた被害者は、一生そのレッテルを貼られ、悪魔の目から逃れられない。
凶悪な犯罪を犯したやつのなかには、初めから死んだっていいと思っている者もいるのだから楽なものだ。奴等はぬくぬくと牢屋のなかで弁護士と検察とおしゃべりをして、ラストは裁判官に判決を下される。不服がなければそれに従えばいい。最終的に死刑になっても別に構わないのだ。そういった人種のことを、悪魔と呼ぶことがある。
一方、犯罪者によって人生を狂わされた被害者の未来はどうだろうか?
小さな幸せを感じながら暮らしていた人もいただろう。まるで、天使のような微笑みを浮かべながら、毎日を楽しく生きていたことだろう。だが、犯罪を受けた瞬間、未来は崩れ去り、絶望へと移り変わる。
無残に呆気なく、ただ、たまたま犯罪者に居合わせたアンラッキーという天災、いや人災に振りかたっただけで、その人生はロストする。つまり今まで歩いてきた人生を、一瞬で、しかも人権も拒否権もなしで一方的に消去されるということだ。
被害者は、被害を受けたことによって、退廃的で残忍なことをされたイメージを植え付けられる。そのような負のスパイラルへと巻き込まれてしまう。その状態から社会に復帰することは容易なことではない。今回の真里の場合だって同じだろう。もしハイエナのようなマスコミに嗅ぎつかれたら、世間からこのような目で見られる可能性がある。
あの女は監禁されたらしいぞ。
性奴隷だな。
そのように世間から騒がれ、噂され、家の外に出られなくなるかもしれない。だが、それは避けたい。いや、絶対に回避してやらないといけない。
真里を守ってやる!
そう決めた俺は、さっそく真里の保護に向けてどうすべきが思考する。まず、この監禁場所から真里の所持品をすべて回収しなければならない。真里の痕跡が見つかった場合、警察の捜査の息が真里にかかってくる可能性がある。だが、それだけは避けたい。真里が普通に暮らしていくために。
とりあえずこの部屋から探してみる。
そして、失踪当時の真里の所持品について思い出そうとするが、記憶のアーカイブを引っ張り出すのには、時間がかかる。
たしか……あの日はカフェに行ったあと俺の実家で……。
そうだ、真里は黒いレースのワンピースを着ていた。そして、所持品はポーチに携帯と財布と化粧道具を入れていた。つまり、そのポーチはどこにいったのかが重要だ。
だが、この首吊り男がどこかに捨てた可能性もある。逆に捨ててもらったほうがこの際、都合が良い。そんなことを思いながら、手当たりしだいに探してみる。机の引き出し、タンスの中を探すが、それらしいものは見つからない。いつまでも探している時間はないし、困った。
こればっかりは、運を天に任せるしかないか……。
神にすがるような思いで、真里を抱き上げる。
そして、そのまま階段を降りる。途中で蜘蛛の巣が身体中に絡みついたが、気にしている余裕はない。階段の幅は狭いし、勾配もキツい。階段を踏み外して転ばないよう、足下への注意が必要としがら歩く。少しずつ、少しずつ……。覚めない夢から離脱するように。
なんとか、一階に降りることができ、玄関からスリッパを蹴り投げ捨てる。見事、二つのスリッパが放物線を描いて飛んでいく。急いで靴に履き替え、外に出る。とりあえず真里の確保ができたので、ほっと胸をなで下ろした。
だが、暗闇から一変したことで、太陽の光りに照らされ目が眩む。
とにかく今は、真里を車まで運ぶため前進するしかない。スリッパはあかねちゃんに回収してもらおうと思い、生垣のほうに顔を向ける。すると、反対側の生垣から、聞き覚えのある笑い声が響く。
「嘘だろ……なんでこんなところに?」
五十嵐刑事の声だった。
それと、可愛らしい声も聞こえる。どうやら、あかねちゃんと五十嵐さんは談笑しているようだ。
やがて、その声はこちらに近づいてくる。俺は抱いている真里を落としそうになるくらいに驚愕の念を抱く。やがて、生垣の角から姿を現したのは、やはり定年間近のベテラン刑事、五十嵐さんだった。そして、その隣には、さも当たり前のようにあかねちゃんが、腕を組んで黙ってこちらを見つめていた。
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