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第三章 人類は忘却と虚構で成り立っていることを知る
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「ねぇ……起きて、あかねちゃん」
「……」
寝てる。
すやすやと、気持ちよさそうに目を閉じている。
無防備なあかねちゃんの寝顔は、まるで人形のように美しい。胸の膨らみ、夏の制服のスカート、柔らかそうな白い太ももに視線が移ってしまうのは、男の悪い癖。
見るのはやめよう……な。
よし……落ち着け、なんてことはない、ただの子どもじゃないか。興味ないね。俺が好きなのは大人のお姉さんなはずだろ。正気を取り戻せ。
「ふぅ……とりあえず降りるか」
車内にあかねちゃんを残して外に出て、深呼吸をする。
バタン、と車のドアを閉めると、その音に反応してあかねちゃんが起き上がる。ジュルリ、と口元のよだれを手の甲で拭うと車の外に出てきた。そのまま寝てれば、かわいかったのに。
「なんだぁ、起こしてくれよ~ふぁ~よく寝た」
「いや、あまりにもかわいい寝顔だったからさ」
「……え、わたしってかわいい?」
「黙ってたらな」
「貴様ぁ!」
ぽこすか俺のお尻を殴るあかねちゃん。
ぜんぜん痛くないけど、できたらやめてほしい。人に見られた嫌だし、なんて思って周りを見渡す。
だが、そんな心配は無用だった。
周りは人もいないし、車の往来もない穏やかなド田舎。都内にもまだこんなところがあったんだな。青い空には入道雲が浮かび、木々につかまる蝉たちの鳴き声は、殺人的な怒声となり耳をつんざく。太陽の熱射は本格的な夏を感じさせ、陽炎が踊るアスファルトの焦げた匂いが鼻につく。
佐野家を見れば、二階建ての日本家屋のようだ。
パッと見た印象は、あかねちゃんがつぶやいた言葉通りだった。
「これ……人が住んでるのか?」
朽ち果てた家がそこにはあった。
今にも崩れそうな軒から草や蔓が伸びており、屋根瓦がないところもある。まるで、歯が抜けたように虫歯だらけの口に見えた。家の周りは生垣がぐるりと囲み、家の中の様子は庭に入らないと判断できない。とりあえず俺たちは、玄関のほうに回ってみることにする。
そして、玄関の前に立ったとき、さらに驚愕の念を抱く。
あかねちゃんは、ぽかんと口を開けて漏らす。
「なぁ、玄関が開いてるぞ」
「……ほんとだ」
呆然と立ち尽くすが、こうやっていても仕方ないし、時の流れは誰にも止められない。勇気を出して侵入してみようと思い、黒い手袋をはめ、いざ行こうとする。
「ちょっと入ってみる。あかねちゃんは隠れてろ」
「オーケー」
生垣の向こうに目配せすると、あかねちゃんは猫のように走っていく。
だが、次の瞬間には、生垣の角からひょこりと顔を出す。
ん? 口パクで、がんばれ~っと言っているようだ。
なんとも緊張感のない美少女だぜ、まったく。
「……」
寝てる。
すやすやと、気持ちよさそうに目を閉じている。
無防備なあかねちゃんの寝顔は、まるで人形のように美しい。胸の膨らみ、夏の制服のスカート、柔らかそうな白い太ももに視線が移ってしまうのは、男の悪い癖。
見るのはやめよう……な。
よし……落ち着け、なんてことはない、ただの子どもじゃないか。興味ないね。俺が好きなのは大人のお姉さんなはずだろ。正気を取り戻せ。
「ふぅ……とりあえず降りるか」
車内にあかねちゃんを残して外に出て、深呼吸をする。
バタン、と車のドアを閉めると、その音に反応してあかねちゃんが起き上がる。ジュルリ、と口元のよだれを手の甲で拭うと車の外に出てきた。そのまま寝てれば、かわいかったのに。
「なんだぁ、起こしてくれよ~ふぁ~よく寝た」
「いや、あまりにもかわいい寝顔だったからさ」
「……え、わたしってかわいい?」
「黙ってたらな」
「貴様ぁ!」
ぽこすか俺のお尻を殴るあかねちゃん。
ぜんぜん痛くないけど、できたらやめてほしい。人に見られた嫌だし、なんて思って周りを見渡す。
だが、そんな心配は無用だった。
周りは人もいないし、車の往来もない穏やかなド田舎。都内にもまだこんなところがあったんだな。青い空には入道雲が浮かび、木々につかまる蝉たちの鳴き声は、殺人的な怒声となり耳をつんざく。太陽の熱射は本格的な夏を感じさせ、陽炎が踊るアスファルトの焦げた匂いが鼻につく。
佐野家を見れば、二階建ての日本家屋のようだ。
パッと見た印象は、あかねちゃんがつぶやいた言葉通りだった。
「これ……人が住んでるのか?」
朽ち果てた家がそこにはあった。
今にも崩れそうな軒から草や蔓が伸びており、屋根瓦がないところもある。まるで、歯が抜けたように虫歯だらけの口に見えた。家の周りは生垣がぐるりと囲み、家の中の様子は庭に入らないと判断できない。とりあえず俺たちは、玄関のほうに回ってみることにする。
そして、玄関の前に立ったとき、さらに驚愕の念を抱く。
あかねちゃんは、ぽかんと口を開けて漏らす。
「なぁ、玄関が開いてるぞ」
「……ほんとだ」
呆然と立ち尽くすが、こうやっていても仕方ないし、時の流れは誰にも止められない。勇気を出して侵入してみようと思い、黒い手袋をはめ、いざ行こうとする。
「ちょっと入ってみる。あかねちゃんは隠れてろ」
「オーケー」
生垣の向こうに目配せすると、あかねちゃんは猫のように走っていく。
だが、次の瞬間には、生垣の角からひょこりと顔を出す。
ん? 口パクで、がんばれ~っと言っているようだ。
なんとも緊張感のない美少女だぜ、まったく。
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