きっと彼女はこの星にいる

花野りら

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第三章 人類は忘却と虚構で成り立っていることを知る

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「ここか」

 ハンドルをさばく俺は、蓮水小学校付近の路肩に車を停めた。車内から見える学校は古い建物だった。四角いコンクリートの塊りが、長年の雨に打たれて風化しており、人間でいうと老人のようだ。なんとも、地方自治体の苦労が目に見える形だ。鳥の目で俯瞰すれば、でかい墓標として見えなくもない。

 それは全国どこでも同じ教育を前提にしたことによる、量産型の建築だった。北に廊下、南に教室を置き、そこへ子どもを閉じ込める。とても子どもたちのことを考えて作られた建物とは言い難い。
 
 だが、そんな教育を受けたのが俺であり、今の日本の大人たちだ。現状を見てみると、日本は良い国だと誇らしく言えるだろうか? 
 
 人類は、自然と動物、そして目には見えない小さな微生物たちとともに、この星で上手く暮らしていた。
 
 だが、科学革命以降、共存できていると言えるだろうか?
 
 現代の人類は、この星の頂点を極めたとばかりに調子に乗っていたが、どうやらそれは、大きな勘違いだったようだ。そのことに気づき始めてはいるが、しまったって思ったって、もう後の祭り。
 
 台風や地震といった自然災害、未知なるウィルスのパンデミック、そのような過酷な環境によって儚く消えていく人もいる。
 
 それでもこの星は回りつづける。
 別に人類が何をしようと無関係に、ぐるぐると回りながら銀河を旅している。やがて、この星は何十億年後には火滅する。そのような運命にあることはわかっている。
 
 だが、それでも回りつづける。それが宇宙のシステムだ。もう戻ることはない不可逆的な仕組み。そのようなときの中で、俺は行方不明の彼女を探す旅に出ているのだ。見えるものが残酷な現実だとしても。


 アクセルを踏み込んで車を発進させる。
 蓮水小学校の周りは畑や木々が多く、近くには池があった。この池の名前こそ蓮池であり、そこから蓮水小学校の由来となったのだと推測された。地名はシンプルなほど美しい。
 
 そんな自然あふれる情景のなかに、ポツポツと住宅が建っていて、そのなかの一件が佐野家だった。
 車を近くの路肩に停めた。田舎なだけに道幅もあり、余裕を持って車を停められたのは幸いかな。
 
 佐野家は目と鼻の先にある。
 通常なら周辺の家々伺って聞き込み調査をするのだが、今回は勝手が違う。もしかしたら真里が監禁されているかもしれないのだ。犯人も家にいるかもしれない。特殊な調査だと思わざるを得ない。
 
 いや、調査とは言えないか。

 むしろ、真里救出作戦と言ったほうがいいのかもしれなかった。
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