きっと彼女はこの星にいる

花野りら

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第一章 目に見える世界が真実ではないことを知る

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 もっと切実な謎があった。
 
 なんで美少女が俺に絡んでくるのだろうか?
 
 一説によると、歳上のイケメン男性が好きな女の子が一定数いるらしい。だが、週刊誌の記事なのでその信ぴょう性は欠ける。ただ、幸いなことに、俺は背の高い爽やかイケメンだ。女は笑いながら楽しい話をすれば、たいてい好意を抱いてくれることを知っている。俺の笑顔は人を安心させる力があるのだ。
 
 仮説だが、あかねちゃんは俺のことが好きなのかもしれない。よって、このような偽造した録音を持ってきたんだろう。短時間でどうやって作成したのかは不明だが、今日あったばかりなのに手の込んだことをするものだ。

 ん? ひょっとして、あかねちゃんはサイコなのかもしれないそれはそれで、俺好みなのだが……困った。
 
 まったく論理的ではない。

 さっきの録音が、非常にリアルだったこともある。そうなると、話が長くて途中からしっかり聴いてなかったことが悔やまれる。もう一回聞きたくなってきた。だが、あかねちゃんに録音再生をリクエストしようにもガッツリ泣かれてしまって思うように話せない。
 
 ヤバイな、どうしよう……女の涙はズルい。人類最強の武器じゃないか? こっちが謝るしかないではないか。
 
「ううう……偽造してないもん……ぴ、ぴ、ぴぇぇぇん」
「あ、あああ、ごめんね。偽造じゃないもんね、ちょっとお兄さんびっくりしてさ」
「ううう……ドーナツ……」
「え?」
「ドーナツが食べたい……」
「はあ?」
「駅前のドーナツを食べさせないと、このまま大声で泣くぞぉぉぉぉ!」
「ちょ……やめようね……ね?」
「ぴぇ、ぴぃっぇ……」
「わかったわかった! ドーナツね! いいよ、食べにいこっ」
「う、ううう……」

 な、なんなんだこの美少女は?
 
 ツンデレにメンヘラ成分まであるのだろうか?
 
 とてもじゃないが、俺にはこの子と付き合う自信がない。ドーナツを食べさせたらさっさと別れよう。そんなことを思いながら、スマホと財布をジャケットに荒っぽく入れ、出かける準備をする。電気もエアコンも消さないとな。
 
 美少女を見ると、相変わらず泣き……ん? もう泣き止んでるぞ。
 
 あかねちゃんは、ルンルンで飛び跳ねながら、

「ドーナッツ! ドーナッツ!」

 とわっしょい祭りをしている。 

 え? そんな嬉しいか?

 事務所から追い出すようにあかねちゃんの肩を叩き、

「ささ、ドーナツ食べて帰ろうね」

 と散らすように言って外に出る。
 玄関の鍵を閉め、まるで風のようにその足で二階に上がる。
 
「おいっ、どこに行く! ドーナツ屋は駅前だぞぉぉぉぉ」

 後ろからあかねちゃんが吠えていたが無視した。未成年の少女を連れて歩けるほど、俺の職業は能天気なものではない。
 
 俺は探偵だ。

 周知の通り、未成年者と歩いているだけで警察から職質を受ける、それが日本のルール。偉い人が作ったフィクション。つまり作られた社会で暮らしている。したがって、探偵の俺が地元の警察官から信用をなくされては、仕事に支障をきたす。
 
 ということで、一応、保護者である奈美さんに、あかねちゃんと一緒に駅前のドーナツ屋に行ってもいいか許可を貰おうと尋ねにいくわけだが……。

 意外な答えが返ってくるではないか。
  
「あっ! チョコファッション買ってきて~」
 
 奈美さんはそれだけ言うと、奥のリビングでガチャガチャコントローラーを操作している。ゲームの中で強敵モンスターと戦っているようだ。今、手が離せないらしい。したがって、二人で行って来い、そういうメッセージを玄関の扉を開けた俺に送ってくる。あの姉にしてこの妹なのかもしれない。どうなってるんだこの姉妹……変わってる。

 俺をなんだと思ってるんだ? 

 奴隷か下僕かのどっちかだろうきっと。

 田中家の扉を閉めた俺は、しぶしぶ、とぼとぼと道を歩く。
 あかねちゃんを連れて駅前まで来たはいいが、不安は的中するもので、道すがら巡回中の警察官とすれ違ってしまう。
 
 やっべ……。
 
 あかねちゃんから、サッと離れた。
 
「何をビクビクしている。不審者かよぉ、きゃはは」

 陽気に笑うあかねちゃんにツッコミされる。
 だが、駅前の歓楽街でセーラー服の美少女とスーツの大人が仲良く歩くこの光景はどう見たって、少女と大人のあれとそれ。所謂、パパ活に見えてしまうだろう。ヤダ、逃げ出したい。なんでこんなことに……。

 今日は変な日だ。

 気絶はするし、日にちの感覚はズレるし……。
 挙句にはリアルで恋はしてはいけないツンデレ美少女に絡まれて、行方不明の彼女を探しにいくなんて、なんて日だ。
 
 呪われてないか、俺? 
 
 だが、そんな心境とは裏腹に、橋涼みの風の強さがちょっと心を揺さぶっているのは、気のせいだろうか。ならいっそ、この風に身をまかせて、騙されて踊ってもいいのかもしれないな。
 
 そんな思いを抱きつつ、俺はあかねちゃんの笑顔を見つめて歩いている。どこか懐かしい南風に吹かれながら。
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