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第一章 目に見える世界が真実ではないことを知る
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事務所を出て、二階へ上がる。
廊下を歩いて一件ずつ表札を見ていくと、探していた苗字が目に飛び込んできた。
「あった、田中さん」
チャイムを押してしばらくすると、扉の向こう側から、は~い、という声が響く。と同時に、足音も近づいてくる。
ガチャ、と扉が開く。
部屋のなかには、なんと絶世の美少女が立っているではないか。
美少女は俺の顔を見るなり、ニコッと笑うと抱きついてきた。
ふわりと揺れる艶のある黒髪、ほっそりとした華奢な白い腕、上目使いする利発なその瞳はキリッとしており、眉目秀麗で育ちの良さを感じさせたが、絡ませてくる冷んやりとした腕の感触と、甘い美少女の香りが心地よくて身体がとろける。まるでアイスクリームをスプーンですくって食べるような、冷たい潤いを感じる。
え? 何、この展開?
外国の挨拶、ハグなのだろうか。
混乱する俺と美少女のあいだで、むぎゅっと猫がつぶされている。ニャンニャン鳴く猫は飛び出すと、リビングのほうへと走り去る。御主人様のもとへ向かったようだ。すると、美少女は俺の身体から離れ、小さな声でつぶやく。
「やはり、データにあった通りの匂いだな……」
「ん? 匂い? 君は、奈美さんの妹なのか?」
「ああ」
クールに答える美少女は、夏のセーラー服を着ていた。甘くてとてもいい香りが漂っている。そんな美少女は俺の顔を、ジッと見つめて微動だにしない。
ん? 俺の顔になんかついてるか?
しばらく美少女と見つめあっていた。時の感覚を忘れるような、そんな錯覚を抱く。すると、部屋の奥から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。この声は、奈美さんで間違いない。
「あ! リンちゃぁん、おかえり~」
美少女に「あがっても?」と尋ね目線を部屋の奥に向ける。
「どうぞ」
と告げる美少女は、部屋の奥へと移動する。足下に用意されていた可愛い花柄のスリッパをはき、その後についていく。
リビングは女の子らしいファンシーな小物であふれ、カーテンやテーブルといった調度品はみんな白と淡いピンクで統一されていた。男の俺が入室することは、何やら場違いな部屋だったが、まぁなんとか勇気を出して足を踏み入れる。
奈美さんはソファに座り、カーテンから漏れる午後の日差しを浴びながら、まったりとゲームをしていた。大きなテレビの画面を見ると、切り裂くと破滅的な攻撃力のある剣を持ったプレイヤーが、バッタバッタとモンスターをなぎ倒している。さらにド派手な魔法をぶっ放しては、奈美さんはケラケラと子どものように笑う。
最近のゲームは凄い迫力があるなあ。
まるで映画のような、いや、もう一つの世界が向こう側にあるような、そんな錯覚を抱かせる。
ふと、猫を見ると奈美さんの太ももの上で丸くなっていた。どうやら、眠っているようだ。その寝顔に癒される。すると、奈美さんの耳元に、美少女が何やら囁いている。
一通り話がついた様子で、奈美さんは手に持っていたコントローラーを机の上に置く。二人は目を合わせて大仰にうなずくと、奈美さんのほうが俺に声をかけてきた。
「探偵さん、リンちゃんをありがとうございます」
「すいません。遅くなりました」
「それは大丈夫です。怪我とかしてないですか?」
「はい、特にどこも怪我はしてないです。俺も猫ちゃんも」
そこまで言うと奈美さんはまた、美少女とひそひそと内緒話をする。
何を話しているのだろうか?
不思議に思っていると、奈美さんが立ち上がる。
「じゃあ、探偵さん椅子に座ってください。お茶を入れますね」
「あ……ありがとうございます」
奈美さんの言葉に甘えて、テーブルの椅子を引いて座る。
てっきり奈美さんが家事をするかと思ったが予想と外れた。美少女が急須に茶っぱを入れ、ポットから湯を注いでいる。その仕草はとても手際のよいものだった。子どもっぽくないなと思った。
廊下を歩いて一件ずつ表札を見ていくと、探していた苗字が目に飛び込んできた。
「あった、田中さん」
チャイムを押してしばらくすると、扉の向こう側から、は~い、という声が響く。と同時に、足音も近づいてくる。
ガチャ、と扉が開く。
部屋のなかには、なんと絶世の美少女が立っているではないか。
美少女は俺の顔を見るなり、ニコッと笑うと抱きついてきた。
ふわりと揺れる艶のある黒髪、ほっそりとした華奢な白い腕、上目使いする利発なその瞳はキリッとしており、眉目秀麗で育ちの良さを感じさせたが、絡ませてくる冷んやりとした腕の感触と、甘い美少女の香りが心地よくて身体がとろける。まるでアイスクリームをスプーンですくって食べるような、冷たい潤いを感じる。
え? 何、この展開?
外国の挨拶、ハグなのだろうか。
混乱する俺と美少女のあいだで、むぎゅっと猫がつぶされている。ニャンニャン鳴く猫は飛び出すと、リビングのほうへと走り去る。御主人様のもとへ向かったようだ。すると、美少女は俺の身体から離れ、小さな声でつぶやく。
「やはり、データにあった通りの匂いだな……」
「ん? 匂い? 君は、奈美さんの妹なのか?」
「ああ」
クールに答える美少女は、夏のセーラー服を着ていた。甘くてとてもいい香りが漂っている。そんな美少女は俺の顔を、ジッと見つめて微動だにしない。
ん? 俺の顔になんかついてるか?
しばらく美少女と見つめあっていた。時の感覚を忘れるような、そんな錯覚を抱く。すると、部屋の奥から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。この声は、奈美さんで間違いない。
「あ! リンちゃぁん、おかえり~」
美少女に「あがっても?」と尋ね目線を部屋の奥に向ける。
「どうぞ」
と告げる美少女は、部屋の奥へと移動する。足下に用意されていた可愛い花柄のスリッパをはき、その後についていく。
リビングは女の子らしいファンシーな小物であふれ、カーテンやテーブルといった調度品はみんな白と淡いピンクで統一されていた。男の俺が入室することは、何やら場違いな部屋だったが、まぁなんとか勇気を出して足を踏み入れる。
奈美さんはソファに座り、カーテンから漏れる午後の日差しを浴びながら、まったりとゲームをしていた。大きなテレビの画面を見ると、切り裂くと破滅的な攻撃力のある剣を持ったプレイヤーが、バッタバッタとモンスターをなぎ倒している。さらにド派手な魔法をぶっ放しては、奈美さんはケラケラと子どものように笑う。
最近のゲームは凄い迫力があるなあ。
まるで映画のような、いや、もう一つの世界が向こう側にあるような、そんな錯覚を抱かせる。
ふと、猫を見ると奈美さんの太ももの上で丸くなっていた。どうやら、眠っているようだ。その寝顔に癒される。すると、奈美さんの耳元に、美少女が何やら囁いている。
一通り話がついた様子で、奈美さんは手に持っていたコントローラーを机の上に置く。二人は目を合わせて大仰にうなずくと、奈美さんのほうが俺に声をかけてきた。
「探偵さん、リンちゃんをありがとうございます」
「すいません。遅くなりました」
「それは大丈夫です。怪我とかしてないですか?」
「はい、特にどこも怪我はしてないです。俺も猫ちゃんも」
そこまで言うと奈美さんはまた、美少女とひそひそと内緒話をする。
何を話しているのだろうか?
不思議に思っていると、奈美さんが立ち上がる。
「じゃあ、探偵さん椅子に座ってください。お茶を入れますね」
「あ……ありがとうございます」
奈美さんの言葉に甘えて、テーブルの椅子を引いて座る。
てっきり奈美さんが家事をするかと思ったが予想と外れた。美少女が急須に茶っぱを入れ、ポットから湯を注いでいる。その仕草はとても手際のよいものだった。子どもっぽくないなと思った。
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