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プロローグ 無知の知を知る
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次の日の朝、テレビをつけると真里の顔が映っていた。
事件性が高いと判断した警察は本格的な捜査にふみきったのだ。しかし検問をかけたという情報は聞かなかった。どうやら真里の両親は、真里がひょっこり帰ってくると思い、昨日の夜の段階では、あまり騒ぎを大ごとにしたくないというのが本音だったようだ。
しかし、朝になっても真里は帰ってこなかった。
そこで思い切って報道関係者に情報を公開したようだ。その瞬間、当然のようにマスコミが騒ぎはじめた。それにともなって、真里の両親たちは駅前などで、真里の顔写真と、当日着ていた服である黒のレースワンピースを載せた、
『 この子を知りませんか? 』
というビラを配り始めた。
往来する人々はみんなビラを受け取ってくれるものの、その表情はどこか虚ろで、関わりあいたくないような、そんな雰囲気が感じとれた。真里の両親は泣きそうな顔で声を張り上げていた。
「この子を知りませんかー! 探しています!」
僕は居ても立っていられず、真里の両親に頼みこんで、一緒にビラを配った。その様子を見ていた同じ高校の生徒たちもみんなで協力して、真里が見つかるようにと願いを込めてビラを配った。
しかし結局、真里は見つからなかった。そのあとも、警察は名ばかりの捜査を継続していたようだったが、当時は防犯カメラの数も少ないし、その解像度も低かったので、まったく有益な目撃情報が得られなかった。
僕はとんでもない思い違いをしていたのかもしれなかった。
あれ以来、警察からは何の進捗状況も知らされることなく、残酷にも時の流れは風のようにあっという間に過ぎていく。気がつけば真里がいなくなってから一年が過ぎようとしていた。もうその頃には、僕は完全に勘違いしていたのだと、確信していた。
あの日の夜。
僕は真里のことは警察に任せようと家に帰った。警察なら何とかしてくれる、そうに違いないと思い込んでいたのだ。しかしそれは大きな間違いだった。警察は事件が起きてからでないと動かないのだ。つまりテレビに顔写真をあげて公開捜査をしているころには、おそらく彼女はもう……考えたくもない状況になっていたのだ。
僕は真里がいなくなって思い知らされた。
この世には、とんでもない悪魔がいて、そいつらは自分の欲求さえ満たされれば、他人が不幸になろうがかまわないし、ましてやその犯行によって警察に捕まって刑務所に入ろうが、死刑になろうが、もうどうでもいいような人生を送っている。そんなやつらがこの星に存在しているということを僕は思い知った。のほほんと生活していると、そいつらの存在にはまったく気がつかないが、たまに新聞やテレビのニュースを騒がせる凶悪な事件などは、どうもそいつらの仕業に違いなかった。
本当に時の流れは残酷で、真里がいなくなってからもうニ年がすぎてしまった。僕は高校の卒業式を迎えていた。舞い散る桜を見ていると、どこかに真里がいるんじゃないかと、首を振って探すが、いるはずもなく。だんだんと頭のなかで真里の笑顔が消えていく。
記憶の片隅にいたはずの、真里の温もりやあの可愛らしい笑い声が、だんだんと脳内で再生できなくなっている。人間は忘れるという能力がずば抜けて高く。その能力のおかげで楽に生きられるし、死ねる。しかし僕はそんな忘却の能力などまったくほしくなかったから、いつまでも真里のことを思いつづけた。
事件性が高いと判断した警察は本格的な捜査にふみきったのだ。しかし検問をかけたという情報は聞かなかった。どうやら真里の両親は、真里がひょっこり帰ってくると思い、昨日の夜の段階では、あまり騒ぎを大ごとにしたくないというのが本音だったようだ。
しかし、朝になっても真里は帰ってこなかった。
そこで思い切って報道関係者に情報を公開したようだ。その瞬間、当然のようにマスコミが騒ぎはじめた。それにともなって、真里の両親たちは駅前などで、真里の顔写真と、当日着ていた服である黒のレースワンピースを載せた、
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往来する人々はみんなビラを受け取ってくれるものの、その表情はどこか虚ろで、関わりあいたくないような、そんな雰囲気が感じとれた。真里の両親は泣きそうな顔で声を張り上げていた。
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僕は居ても立っていられず、真里の両親に頼みこんで、一緒にビラを配った。その様子を見ていた同じ高校の生徒たちもみんなで協力して、真里が見つかるようにと願いを込めてビラを配った。
しかし結局、真里は見つからなかった。そのあとも、警察は名ばかりの捜査を継続していたようだったが、当時は防犯カメラの数も少ないし、その解像度も低かったので、まったく有益な目撃情報が得られなかった。
僕はとんでもない思い違いをしていたのかもしれなかった。
あれ以来、警察からは何の進捗状況も知らされることなく、残酷にも時の流れは風のようにあっという間に過ぎていく。気がつけば真里がいなくなってから一年が過ぎようとしていた。もうその頃には、僕は完全に勘違いしていたのだと、確信していた。
あの日の夜。
僕は真里のことは警察に任せようと家に帰った。警察なら何とかしてくれる、そうに違いないと思い込んでいたのだ。しかしそれは大きな間違いだった。警察は事件が起きてからでないと動かないのだ。つまりテレビに顔写真をあげて公開捜査をしているころには、おそらく彼女はもう……考えたくもない状況になっていたのだ。
僕は真里がいなくなって思い知らされた。
この世には、とんでもない悪魔がいて、そいつらは自分の欲求さえ満たされれば、他人が不幸になろうがかまわないし、ましてやその犯行によって警察に捕まって刑務所に入ろうが、死刑になろうが、もうどうでもいいような人生を送っている。そんなやつらがこの星に存在しているということを僕は思い知った。のほほんと生活していると、そいつらの存在にはまったく気がつかないが、たまに新聞やテレビのニュースを騒がせる凶悪な事件などは、どうもそいつらの仕業に違いなかった。
本当に時の流れは残酷で、真里がいなくなってからもうニ年がすぎてしまった。僕は高校の卒業式を迎えていた。舞い散る桜を見ていると、どこかに真里がいるんじゃないかと、首を振って探すが、いるはずもなく。だんだんと頭のなかで真里の笑顔が消えていく。
記憶の片隅にいたはずの、真里の温もりやあの可愛らしい笑い声が、だんだんと脳内で再生できなくなっている。人間は忘れるという能力がずば抜けて高く。その能力のおかげで楽に生きられるし、死ねる。しかし僕はそんな忘却の能力などまったくほしくなかったから、いつまでも真里のことを思いつづけた。
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