きっと彼女はこの星にいる

花野りら

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プロローグ 無知の知を知る

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 僕は自転車をこいだ。
 彼女の家までの道を走っていた。首を振って辺りを見まわしながら、彼女がどこかにうずくまったり、倒れていないか探した。必死になってペダルをこぐ足がだんだん重くなってきた頃には、頭も冷静になってきた。
 
 よく考えてみると、彼女が僕の家を出てからもうすでに三時間ちかくが経過しているわけだ。猫や犬じゃあるまいし、人間が道で倒れていて長時間も放置されているわけがない。よって彼女は何らかの事件に巻き込まれてしまった可能性が高いのではないか。そのような疑いを持つほうが自然な流れだろう。
 
 僕は彼女の行動パターンを分析した。
 彼女は陽気で明るくて、クラスでもムードメーカーのような、とにかく可愛いらしい女子だった。学校生活や家庭生活においてでも、特に不満がある様子もなく。いたって普通だった。それだけに、世間で噂になっている、SNSで知らない男と出会って、何かの見返りにお小遣いをもらうとか、そんなような類のことなど、絶対にしないタイプの人間だと言いきれた。学校の帰り道などにコンビニに立ち寄ってお菓子を買うことすら憚ってしまうタイプだ。おそらく今夜も僕の家を出たあとは、まっすぐ家に帰ったに違いない。よって僕の彼女は何者かに誘拐されたのだと推測された。

 彼女の家に辿りつくと、路肩には一台のパトカーが停車していた。
 僕は彼女の家を見ながら泣いていた。悲しさと悔しさが頭の中でぐちゃぐちゃに混ざりあっていて、気をぬくとぶっ倒れてしまいそうになっていた。取り返しがつかないことが起きてしまって、もう彼女と会えないんじゃないかという絶望が頭をよぎり、僕は立っているのもやっと、という状態だった。さらに頭のなかは闇を巡り、ダークサイドへと落ちていった。

 なんで一緒に帰らなかった? 
 
 なんで彼女を送ってあげなかった? 
 
 そのような後悔ばかりが頭のなかでループしていた。と同時に、僕の家と彼女の家を結ぶ最短コースにはまったく不審な点は見つからなかったことも反芻していた。心を落ち着かせ、なんとか推理してみることした。
 
 おそらく犯人は車をつかって彼女を連れ去ったのだろう。しかも彼女の自転車ごとだ。だから自転車が入る大きなハイエースのような車だろうか。いや、本当にそうだろうか。箱型の軽自動車でも後部座席をすべて倒せば自転車くらい乗せられるのではないか。犯人はどこにでもありふれた軽自動車で、怪しまれないように真里に近づいて気絶させ、自転車ごと車に乗せてそのままどこか遠くへ連れ去ったのでないか。

 そのような犯行が頭をよぎった。あくまでもこれは仮説だが、もしそうだとしたら、速攻で街じゅうに検問をかけたり、怪しい車がどこかの駐車場に停車していないか捜査してほしかった。箱型の軽自動車もしくは自転車が乗せやすそうなハイエースなどの車種に絞り込んで捜査の網をかけてほしかった。そこまでの思いつきを僕は抱えていた。
 
 しかし、僕がそんな推理を彼女の家にずかずかと上がり、名探偵気取りで警察の人に進言するなんて、そんなことができるはずもなく。僕はただ黙って彼女の家を見上げることしかできなかった。
 
 なぜならこの国はしっかりとした警察組織があり、悪いことをして謝ってすむなら警察はいらない。そのような教育を僕は受けていたから、警察ならきっと真里を見つけてくれるだろうと信じていたのである。

 おそらく真里の家のなかや、警察署のほうでは警察官たちが総力をあげて真里の捜査に躍起になっていることだろうとも思っていた。だから僕は自転車の向きを変えてペダルをこいだ。スピードを求め立ちこぎをし、夜空を仰いで闇を照らす満月を見つめながら、彼女が見つかりますようにと願いを込めて走りつづけた。
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