きっと彼女はこの星にいる

花野りら

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プロローグ 無知の知を知る

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 僕の彼女はとても可愛い子だった。
 一目惚れをした。校舎の窓から彼女の姿をよく眺めていたが、彼女は舞い散る桜を目で追いかけては遊んでいるような女の子だった。そんな彼女のことを僕は可愛い、可愛いと連呼していた。のろける僕のことをバカにするような目で見ていた男友達からは、はやく告れ、なんて言われたけれども、そんなこと簡単にできるわけがない。きっと僕のほうが一方的に好きになっているんだから、そんな状態で告ったところでフラれるに決まってる。なんて言って僕は、友達の肩を冗談っぽく殴っていた。でも僕は彼女に告白した。本当に思いきったことをしたと思う。


 僕の彼女のいいところは、その笑顔だ。
 だって見つめているとすごいんだ。それはまるで星の引力みたいに吸い寄せられるような感覚がある。僕は宇宙に漂う屑みたいな小惑星で、森下真里という大きくて丸い惑星に流れ星になって落ちていく隕石のような、そんな存在だろうと思っていた。

 僕はただのありふれた宇宙空間に漂う星屑のかけらのようなものだ。
 大気圏で熱くなって溶けて消滅。そんな一つの恋の星だと思っていた。だがそれは大きな間違いだった。奇跡が起こった。なんと彼女も僕のほうを見つめていたのだ。目があった瞬間なんかは、それはもう踊り出したい気持ちを抑えるのに必死だった。恋する星がポールシフトして逆回転したのかと思った。それくらい、ビビッときた。

 僕は勇気を出して彼女に話かけてみることにした。
 何を話したのかはよく覚えていない。たしか、彼女は笑うときに口をよく手で隠していた。笑うたびに手で隠すものだから、よほど大きな口を開けているのだろう。覗きたくなって、わざと顔を近づけてみた。そうしたら、心臓が爆発しそうなほど動きだした。彼女からとてもいい香りがした。こんな甘い香りをかいだのは生まれて初めてだった。それはまるで蝶々が花の甘い蜜に誘われたような、そんなような風景が頭のなかに描かれるものだった。と同時に、友達から言われた、告れ、という言葉も脳裏に浮かんできた。すると僕はもう何も考えることができなくなって、頭がぼうと熱くなってきて、気がつけば彼女に告白をしていた。

「好きです、僕と付き合ってください」

 それだけを伝えた。
 彼女の答えは可愛いらし声で「はい」といってくれた。嬉しかった。この星で生まれて初めて、生きていることを認められたような、そんな感覚があった。

 僕と彼女の恋の物語が始まっていく。
 甘くて溶けていくラブストーリーになる。そんなふうなアニメの予告放送が、頭のなかに流れていたし、僕と彼女は、もうとっくに覚悟を決めていて、僕の家でいろいろなことをしてしまった。
 大きな声では言えないが、彼女の生まれたての姿を見つめていると、僕はなぜだかどうしようもなく彼女のなかに入れたくなってしまった。無情ともいえる0・02ミリの薄いスキンをかぶったあと、おそらくたった五分間の愛の叫びを聞いたけど、僕にとっては永遠のような時間の感覚があった。
 そのままシングルベットで二人で抱き合いながら、和泉くんって大きいとか、真里ちゃんってこんなところにホクロがあるんだね、なんて言ってお互いの身体を観察したり触れたりしていたけれど、そのあと、彼女にとんでもないことが起こった。
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