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第六章 ロック
6 4月7日 18:15──
しおりを挟む「ぬこくんに手を出さないでっ!」
ロックは、目をむいて驚いた。
「な、なんで、たまちゃんがここに?」
ふふふ、と不敵に笑うたまちゃんは、腕を組んだ。
「仮想探偵を舐めてもらっちゃ困るわ」
「はあ?」
ロックは、いぶかしむ。
ぬこくんのあとを追いかけていたのよ、とたまちゃんは自信満々にいった。
え? なんで? とぬこくんが訊くと、たまちゃんは、もじもじと内股に身をよじらせる。なんとも乙女らしい。
「いっしょに帰ろうと思って……それでずっとぬこくんを尾行していたの」
ストーカーかよっ! とロックがツッコミを入れた。
あんたにいわれたくないっ! たまちゃんが拳をつくって怒鳴った。
「ロック、あなたがやっていることは犯罪よ! 脅迫、盗撮、それと強姦!」
あの……と沙織がいった。
「誰がロック先輩を訴えているのでしょうか?」
「え? 誰ってあなたが……あれ、違うの?」
クスクスっと沙織は笑った。
「あたしは訴えませんよ。ロック先輩の役に立てるなら、それでよき」
「ななな、なにをいってるの? あなた? エッチな動画取られちゃってるんでしょ?」
「あのぉ、いまどきエッチ動画ぐらい誰でも撮られるんじゃないですか?」
「はい?」
「私は自分の裸を誰に見られようが恥ずかしくないし、むしろどうでもいいっていうか、気持ちよければそれでよき」
あ、あたおか? と、たまちゃんは小さな声でいった。
「と、とにかく! ぬこくん、こっちに来て!」
うん、とうなずいたぬこくんは、ゆっくりと歩きだした。
ロックは両腕を頭で組むと、「あ~あ~」といって目を細めた。
「ぬこ~童貞卒業できなくて残念だったね」
いや、とぬこくんは否定した。
「好きな人じゃないから……」
すたすた、ぬこくんは倉庫から出ていく。眉間にしわがより、暗い影を落としていた。さすがに怒っているのだろう。彼の歩幅は大きくて、とても速い。
「あ! 待って~」
たまちゃんが追いかけていく。
ロックは、ぐっと悔しそうに唇を噛んだ。
沙織は、じっと物欲しそうにロックを見つめ、ワイシャツのボタンを外しはじめた。だが、ロックは腕を伸ばし、ボタンをとめていく。
「やめろ」
え? 沙織は目を丸くした。
ロックは指先を沙織に顎にあて、グイッと押しあげる。
「もう帰れ!」
「え? 先輩……してほしい……」
沙織は、上目使いでおねだりした。
ロックは、目を閉じると首を振った。
「ダメだ……」
「……」
沙織をただ黙って倉庫から出ていった。
ひとりになったロックは、跳び箱の上段にある白いマットを、ギッとにらみ、
「くそっ! くそっ! ぬこーー!」
と叫び、殴りつづけた。
ロックの怒り狂った声が、まるで獣物のように体育館倉庫に響いている。夜の闇が、とっぷりと校舎を包み込んでいた。
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