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第四章 りゅ先生
3 4月5日 19:30──
しおりを挟む『いやぁ、すいません。連絡が遅れて、教頭の陸奥です』
りゅ先生は、電話の向こうで頭をさげる陸奥を空想したのか、自分の頭もさげた。開口一番にあやまるあたり、陸奥という男の腰は低そうだ。
『教頭先生、月乃城くんのことはご存知ですか?』
『ああ、王子が転んで怪我したらしいですね。校長のメールを見ました、大変でしたね~』
『いやあ、俺は特になにもやってませんよ。救急車を手配したのもAIでしたし、月乃城病院での診察結果もAIから報告を受けましたから』
『ほう、管理システム“アイ”はやはり優秀ですな、おそらく、監視カメラで倒れている王子をとらえ、迅速に対応したのでしょう』
『すごいですね、最近のAIは』
『ええ、だから私たちは楽できるんです。これからはロボットの時代ですよ』
電話の向こうで教頭は、ふっと鼻で笑った。
『で、りゅ先生、なんのようでしたか?』
『あ、その監視カメラを見せてもらいたいんです』
『え? どこのですか?』
『じつは王子がなぜ転落したのか調べているのです』
『ほう、りゅ先生は探偵もするのですか』
『校長から無茶ぶりされてますよ、あはは』
『サービス残業ですか?』
はい、といってりゅ先生は後頭部をかいた。
『明日、見せてもらえませんか?』
『そうですね……午前中はロボティクスの営業と打ち合わせがあるので、お昼はどうですか? もしよかったらランチでも一緒に食べながら』
『いいっすね』
『では、昼にカフェテラスで集合ということで』
おっけーです、といってりゅ先生は電話をきった。
そのあと、ふいにタブレットをいじり、陸奥のSNSにとんだ。本日、投稿している画像を見つけた。
『芝生を刈るロボット』
というタイトルで、サッカーコートの芝生を見事に刈っているロボットが映し出されていた。
さらに、過去の投稿を閲覧した。
そのどれもが、学校を管理しているロボットの紹介がほとんどで、プライベートの投稿はなかった。
自己紹介には、三十八歳の既婚者で娘が一人と記載されてあった。りゅ先生と教頭の陸奥の年齢差は十二歳。その関係は、ひとまわり歳の離れた兄弟、といったところか。
「これからはロボットの時代か……人間の先生は絶滅危惧種なのかな?」
そうつぶやいたりゅ先生は、ごろんとベットに横たわった。
天井を見上げる瞳のなかに、うっすらと涙が浮かんでいた。
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