高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

77 闘技場

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 わたしは闘技場に向かっていた。

 ここは乙女ゲームの世界。とくにやることもないし、彼らの行動も把握しておきたい、と思っていた。彼らとは、攻略対象者のロックとシエルのことだ。
 
 昨日、ソレイユに伝えたように、彼らにも伝えなければならない。
 
 この世界は乙女ゲームであり、ヒロインはルナであり、わたしを溺愛すると世界が崩壊する……そのことを、だ。
 そしてその事実を伝えるのは、なるべく早いほうがいい。わたしは今日、言うつもりだ。拳闘の試合が終わった後にでも、革命と言う名の爆弾を投下するように、うふふ、悪役令嬢っぽいでしょ?
 
 やがて、闘技場が見えてきた。
 
 フルール王国にある戦場の擬似体験広場、闘技場には今日も金貨を握りしめた都民があふれている。入場すると、そのなかは活気だった都民たちの歓声がわいていた。
 
 やれー! ぶん殴れ! そこだー! なんて、みんな叫んでいる。うるさい……わたしは片目をつむった。
 
 都民たちの貧富の差は凄まじく。闘技場の下層はボロ切れを着た人々がうごめき。反対に上層階では綺麗な服を着た貴族たちが、なんとも優雅に試合を観戦している。なんて、貧富の差。なんて、天国と地獄……。
 
 わたしの服装は、明らかに貴族っぽくて、面白いほど周りから浮いていた。
 
 フリルのついた白いシャツに淡いブルーのスカートを合わせ、これまた白い大きめの帽子をかぶり、素顔がよくわからないようにもした。帽子のしたに紅い唇だけが見えている。なんとも、おしゃれな格好をしていた。見るからに貴族っぽさをかもしている。
 
 すると、都民から、じろじろと見られた。
 
 とくに野蛮な人相の悪い男たちに……だ。彼らは扇状的に唇を舐めて、わたしの身体も舐め回すように見つめてくる。しかも、一人や二人だけではない。集団でわたしのことを、ガッと、襲いかからんばかりの顔を並べていた。いやらしい目、興奮し血走った目。
 
 そのような騒然とした闘技場のなかを、わたしは風のように、無視するように、颯爽と歩く。
 
 彼らの目線が、さらになお、鋭く突き刺さってくる。
 闘技場はまさにギャンブラーたちの溜まり場。老若男女、一攫千金を求めて、自分が賭けた拳闘士の勝利を期待しながら、一心不乱に応援している。
 
 リングのうえでは、殴り合い、死闘を繰り広げる男と男の姿……。勝敗を賭けた天国と地獄のサバイバル。観戦している都民たちの興奮のボルテージは頂点に達していた。
 
 熱気が高まり吠える観衆。勝敗が決まると怒涛のような歓喜。それと同時に、失落に耐えない悲鳴がいつも混ざり合っては、虚空に響きわたる。勝てば天国、負ければ……もちろん、地獄。
 
 それにしても……ああん、吐息が漏れちゃう。

 拳闘士たちの半裸がかっこいい……肉体美がたまらない。
 
 勝利した拳闘士が拳を高く掲げる。
 それに応える声援が巻き起こる。
 わたしは息を飲んだ、ゴクリ。その足で券売所へと向かう。
 また、通路でじろじろと男たちに見られた。太陽から隠れて日陰になる通路はどこか怪しげな空間だった。小さな器を持ったストリートチルドレンが、金を恵んでくれ、と泣きながらすり寄ってくる。わたしは悲しくなりながらも、無視してしまった。自分のことを薄情だと……思う。それと、同じ人間として生まれたのに、ここまでの貧富の差を作りだすこの世界を呪っても、いた。
 
 そうだ、こんな世界は……ぶっ壊してもいい、とも思っていた。
 
 フルール王国は、いままさに革命が起きようとしている激動の真っ只中。ぶっちゃけ、貴族の格好でこんな野蛮なところにくるべきではない。そんなことは、わたしだって十分承知している。

 では、なぜいくのか……。

 それは、父から闘技場の賭け事のお使いを任されたとき、ひとつのアイデアが浮かんだからだ。
 
 悪役令嬢ならではのやつだ……うふふ。もしも、野蛮な男たちが暴徒化し、わたしを襲ってきたら、そのときは……。

 逆手にとってやる!
 
 すると、妖精フェイは、わたしの服のなかで、もぞもぞと動いた。やがて、胸の谷間に挟まって落ち着き、ねえねえ、と声をかけてくる。周りにいる都民の歓声が大きいから、わたしとフェイの声は、特に怪しく思われていない。
 
「ねえ、真理絵! ここどこなの?」
「闘技場よ……殺戮の擬似体験」
「へー、怖いね」
「ええ、とっても怖いところよ。それでも、試合に関しては一種のエンターティナーね。本気で殺し合いはしてないわ。リングアウトしたり、まいった、と言って降参したらそこでゲームオーバー。それ以上の戦闘はしないルールになってるわ」

 なるほどぉ、と言ったフェイは服のなかから顔だけだす。おっぱいに乗ってるから、ぷるんぷるんに揺れた。ここが気にいったみたい。やれやれ……。

 わたしは、ふう、と目を細めた。

 肩にかけていたポーチから財布を取り出す。父から預かっていた金貨を握りしめ、いざ、受付へといく。受付嬢に金貨を渡して言った。

「ロック・コンステラに賭けます」
「いくらにしますか?」
「全額!」

 受付嬢から引換券をもらうと、わたしは歩きだした。太陽が照らす、闘技場の真ん中がよく見える場所を探す。

 楕円を形作った闘技場。ローマのコロッセオのようだ。わたしは北の席に腰を下ろし、拳闘の試合を観戦する。何組か試合が終わると、目当ての彼が現れた。
 
 ロックだ。
 
 もちろん彼は半裸。鍛えられた肉体を誇示し、これでもかと言わんばかりの勇ましい顔を見せていた。
 
 その横にはシエルがついている。
 
 シエルは栗色の髪がだいぶ長くなっていて、観客席から見えるシエルはふつうに女の子だった。瞳もくりくり。背も低くて可愛いから、筋肉むきむきのロックとそろって歩いている光景は、カップルにしか見えない。わたしは思わず笑ってしまった。二人は付き合えばいいのになあ、男同士だけど。うふふ。
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