上 下
63 / 84
第一部 春

61 悪役令嬢なのにいじられる

しおりを挟む
「いい度胸してるじゃねぇか、んん? マリのことをやらしい目で見るなんてなあ、おい!」

 ロックは身がすくむような地鳴り声で、モブ男子を脅していた。
 
「うわぁぁぁ」

 面白いように悲鳴をあげたモブ男子は、ガクブルにおびえている。よっわ……さすがモブちゅうのモブの男子ね。
 
 わたしは、スッと立ちあがると、ロックと対峙した。悪役令嬢っぽく、ガチで。あと、もうちょっとで身体が触れ合うギリギリのところで肉薄。目線を合わせ、火花を散らす。バチバチ。
 
「なによ? ロック。わたしの選んだパートナーが気に入らないの?」
「ああ、気に入らないね」
「なぜ? あなたはメリッサとでしょ?」
「それはそれだ。っていうか、なんでスカート短くした? マリ」
「別に……ロックに関係ないでしょ」
「関係ある」
「はあ? ないわよ」

 嫌なんだよ……とつぶやきながらロックは拳を作った。腕の血管がグッと盛り上がり、筋肉がむきむき。わお、かっこいい……。
 彼は次の言葉に重みを持たせるため口をつぐんでから、一気に解放した。
 
「マリが他の男からやらしい目で見られるのが嫌なんだよ!」

 キュンとした。
 
 胸が張り裂けそうって言うのはこのことね。いやん、わたしを独占しようとする気まんまんじゃない、ロック。女はそういう身勝手な溺愛に弱い。

 思わず顔が赤くなるわたしは、言葉を失った。そのとき、胸ポケットのなかが振動して我に返った。

 妖精フェイの羽がバタついている。

 はっ! いけない! わたしは悪役令嬢になるんだ。しっかりしなさい、マリ。

「わ、わ、わたしは! 男子からやらしい目で見られたって平気よ。さあ、どんどん見ていいわよっ!」

 わたしはそう宣言すると、右足を椅子に乗せて腰に手を当てた。ほら、これがわたしの思いつく限りのセクシーポーズよ。見るがいい!
 
 そのとたん、男子たち、特にすぐ近くにいるモブ男子の視線が、わたしの身体に集中した。うわあ、生足をガン見されるとドキドキするわね。

 見られるのって……ちょっと快感。
 
「ぐわぁぁ、見るな! おまえらぁぁぁ」

 雄叫びを上げたロックは、慌ててわたしのまえに立つと両手を広げた。わたしを隠しているつもりだろう。そこまで嫌なの? ロックは一途なのね。と思った。そのとき!
 
 キンコンカン、と授業の終わりを告げる鐘が鳴る。

 わたしは足を元に戻すと、サラッと黒髪をかきあげた。「ゴングに助けられたわね、ロック」 

 苦笑いを浮かべたロックは言った。

「でも、似合ってるぜ。ミニスカート」
「バカ……」

 わたしは、プイッと横を向いた。
 すると、ニコル先生が手を叩いて告げた。
 
「はいはい! それでは、今日のパートナーを覚えておいてね。しばらくこれでいくから」

 は~い、なんて返事をする生徒たちはハモった。ニコル先生は話しをつづけた。
 
「それと、ロックくん、マリエンヌさんが他の男に取られてしまうんじゃないかという嫉妬心。すごくよかったわよ。そういうのを先生は見たかったの」

 はあ、どうも、なんて言ってロックは後頭部をかいた。
 
「それでは、解散」

 ニコル先生はそう言って、トントンと教壇の上にあったテキストや書類をまとめると、そそくさと廊下に出ていった。女教師がいなくなった瞬間、ひゃっほう! って感じで生徒たちは歓喜にわいた。
 
 ふいにわたしは、主人公たち、つまりソレイユとルナの二人がどうしているか気になった。じっと観察してみると。

 おやおや? 

 なんかいい感じに笑い合っていた。
 
「やだ、ソレイユって面白いね」
「え? そうかな。私は叱られたことがないから、逆に叱ってくれる人がタイプなんだ」
「やばぁぁい……変態じゃん」

 照れ臭そうに自分のことをソレイユは語っていた。すると、おもむろに机の抽斗から袋を取りだした。例の文房具が入った袋だった。

「ルナ、私は考えたんだが」
「なに? 文房具ならいらないよ」
「いや、あげるのではなくて、貸すという発想はどうだろうか?」
「うーん、借りるか……それならいいわよ」
「やった。じゃあ、これどうぞ」

 ルナは袋を受け取ると、紐を解いて開けた。

 なかには、えんぴつ一本と消しゴムが一個入っていた。ルナはそれらを取りだすと両手で包みこんだ。感謝の証として目を閉じて、
 
「ありがとう」

 とつぶやく。心をこめて。
 
 わたしは思った。
 シナリオにない展開だけど、それなりに上手く回ってるわね、と。
 
 一方、ベニーは授業が終わったときに、眼鏡くんからまた握手を求められていた。にっこり笑ったベニーは握手をしてから、手を振って別れた。そのあと、すぐにわたしのところに来ると言った。
 
「マリリン、ハンカチかして~手がベタベタ~」
「はあ? なんで? ベタベタなの」
「知らないぞ、眼鏡くんの汗じゃないか?」
「ちょっ、無理! っていうかそれ、ホントに汗? なんか白くない?」
「きゃはは、ハンカチかしてくれ~」
「やだぁぁぁ!」

 わたしは全力で逃げた。教室じゅうを駆け回る。

 そんなベニーとわたしの鬼ごっこを、ソレイユ、ロック、ルナ、メリッサ、モブABC、モブ男子などなど、クラスメイトたちみんなが笑って見ていた。そんななか、眼鏡くん……あなたまで笑ってるんじゃないわよ! あんたのキモい汗のせいなんだからねっ!
 
 んもう、見せ物じゃないんだけどなあ。
 
 はあ、ため息がでちゃう。わたし、ちゃんと悪役令嬢になれるのだろうか? 正直……不安。
 
「待て~マリリン」

 ゾンビのように腕を伸ばすベニーは、容赦なくわたしに襲いかかる。もちろん、気持ち悪い手は、得体の知れない液体でベタベタだ。おえぇ……なんでそんなに、とろ~ってしてるの?
 
「もう、やだぁぁぁ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない

七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい! かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。 『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが...... どうやら私は恋愛がド下手らしい。 *この作品は小説家になろう様にも掲載しています

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ
恋愛
正式名称「乙女ゲームの悪役令嬢(噛ませ犬系)に転生して、サド心満たしてエンジョイしていたら、ゲームのヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい」 乙女ゲームの世界に転生して、ヒロインへした虐めがそのまま攻略キャラのイベントフラグになる噛ませ犬系悪役令嬢に転生いたしました。 ヒロインに乙女ゲームライフをエンジョイさせてあげる為(タテマエ)、自身のドエス願望を満たすため(本音)、悪役令嬢キャラを全うしていたら、実はヒロインが身代わりでやってきた、本当のヒロインの双子の弟だったと判明しました。 申し訳ありません、フラグを折る協力を…え、フラグを立てて逆ハーエンド成立させろ?女の振りをして攻略キャラ誑かして、最終的に契約魔法で下僕化して国を乗っ取る? …サディストになりたいとか調子に乗ったことはとても反省しているので、誰か私をこの悪魔から解放してください ※小説家になろうより、改稿して転載してます

悪役令嬢らしく嫌がらせをしているのですが、王太子殿下にリカバリーされてる件

さーちゃん
恋愛
5歳の誕生日を迎えたある日。 私、ユフィリア・ラピス・ハルディオンは気付いた。 この世界が前世ではまっていた乙女ゲーム『スピリチュアル・シンフォニー~宝珠の神子は真実の愛を知る~』に酷似した世界であることに。 え?まさかこれって、ゲームとかでもテンプレな異世界転生とかいうやつですか?しかも婚約者に執着した挙げ句、ヒロインに犯罪紛いなアレコレや、殺害未遂までやらかして攻略者達に断罪される悪役令嬢への転生ですか? ……………………………よし、ならその運命に殉じようじゃないか。 前世では親からの虐待、学校でのイジメの果てに交通事故で死んだ私。 いつもひとりぼっちだった私はゲームだけが唯一の心の支えだった。 この乙女ゲームは特にお気に入りで、繰り返しプレイしては、魅力溢れる攻略者達に癒されたものだ。 今生でも、親に録な扱いをされていないし(前世だけでなく今世でも虐待ありきな生活だしなぁ)。人前にはほぼ出なかったために、病弱で儚げなイメージが社交界でついてるし。しかも実の両親(生みの母はもういないけど)は公爵家という身分をかさに着て悪事に手を染めまくってる犯罪者だし、失うものなど何もないはず! 我が癒しの攻略者達に是非ともヒロインとのハッピーエンドを迎えて欲しい。 そう思って数々の嫌がらせを計画し、実行しているというのに、なぜだか攻略対象の一人でユフィリアの婚約者でもある王太子殿下を筆頭に攻略対象達によって破滅フラグを悉く折られまくっているような……? というか、ゲームのシナリオと違う展開がちらほらある……………どういうこと!? これは前世から家族の愛情に恵まれなかった少女が、王太子殿下をはじめとする攻略対象達に愛されるお話です。 素人作品なので、文章に拙い部分、進行状況などにご意見があるかと思いますが、温かい目で読んで頂けると有り難いです。 ※近況ボードにも載せましたが、一部改稿しました。読んだことのある小話なども部分的に改稿したあと、新しく載せています。 ※7月30日をもって完結しました。 今作品についてお知らせがありますので、近況ボードをご覧ください。 近況ボード、更新しました。(3/20付) ※文庫化決定のお知らせ。詳しくは近況ボードをご覧ください。(5/6付) ※話の所々に、エロいというか、それっぽい表現が入ります。苦手な方はご注意ください。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます

水無瀬流那
恋愛
 転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。  このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?  使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います! ※小説家になろうでも掲載しています

完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います

藍原美音
恋愛
 ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。 「まあ、そんなことはどうでもいいわ」  しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。 「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」  そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。  それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。 「待って、ここまでは望んでない!!」

処理中です...