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第一部 春
27 メルキュール・ビスコットのお花摘み
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あ、これは困りましたね。
寝るまえにおしっこに行っておくべきでした。失態です。
暗闇ってなぜこんなに怖いのですか?
誰か教えてください。
月の明かりが射しこむ部屋は、かろうじて見えていますけど、まっくらな廊下まで足を踏み出す勇気が、いまの私にはありません。暗闇に潜む、得体の知れないなにかが、私を待っているような。そんな疑心暗鬼が頭のなかをよぎります。
あら、幽霊さん、そこにいたの? こんばんは。
私の名前はメルキュール・ビスコットです。
みんなは私のことをメルとかメルちゃんって呼んでくれます。非常にありがたいことです。私は生まれつき右足が悪くて、走ったりできないんです。ベニー先輩みたいに踊ることなんてもってのほか。だから憧れているのかもしれませんね。クスクス。
それでも、私生活にはまったく問題はありません。走れないだけで、ちゃんと歩けます。心配は無用ですが、暗闇のなかを歩くのだけは、話が別です。こ、こわい……。
幽霊とか信じますか?
ベニー先輩に訊くと、
「なにそれ美味しいのか?」
という回答を頂き、時間を無駄にしました。
マリ先輩に尋ねると、
「幽霊とは人間の知能が高いがゆえに起こる幻覚でしかない。もっとも幽霊を私の目のまえに連れてきたら認めるけど、どうも文献などの事例はどれも信ぴょう性にかける。よって、幽霊を信じることは、私にはできないわ」
という回答を頂きました。私は自分より頭脳明晰なマリ先輩をお慕いしてます。運動はベニー先輩に憧れていますが、知能の高さが群を抜くマリ先輩は、私にとって憧れ以上の存在です。つまり、げきスコです。
マリ先輩は花が大好きで、植物学者のような人物。いつも科学的かつ論理的な物言いです。しかも、スタイル抜群でボンキュボン、黒髪ビューティーなマリ先輩のことを、みんな高嶺の花だと裏で呼んでいます。でも。マリ先輩はこのことを知りません。恋に関してはポンコツなんです。ここだけの話ですよ。マリ先輩はいつも冷酷なくせに、笑うとかわいいところもあって良きなんです。クスクス。
それだけに毎日が楽しいです。
笑ってしまうことが日常であふれてます、クスクス。
男子たちが、マリ先輩に喋りかけたいけどできなくてもじもじしている姿など、見ているこっちが恥ずかしい気持ちになり、男子の生態系が観察できて非常に面白いです。
先日など、花壇のまえで、マリ先輩の水やりシーンを見たくて出待ちしている男子たちが居ましたけど、マリ先輩ったら誤ってホースを持たずに蛇口を全開にしてしまうものだから、ホースが暴れて水が勢いよく噴きだしちゃったんです。近くにいた男子たちはもうびしょ濡れ。ドジったマリ先輩は、小さく舌ベラをだしました。か、か、かわいいんですけどぉぉぉぉ……マジで、げきスコです。
それでも、びしょ濡れになった男子たちは平気な顔をしていました。マリ先輩がぺこりと頭を下げて謝罪したからです。それだけで、彼らは嬉しいみたいですね。男子って非常に単純な生き物です。ちょっとバカかも。
そのなかでも、マリ先輩のことを特に御執心なのはパルテール学園の3P。
キラキラ王子こと、ソレイユ・フルール。
俺様騎士こと、ロック・コンステラ。
かわいい弟系男子こと、シエル・デトワール。
この3Pはもう中等部のころから話題の人物たちで、マリ先輩とは幼なじみなのだとか。まあ、そりゃあ、マリ先輩みたいな綺麗な美少女が幼なじみなんて、気が狂います。
マリ先輩を見ていると女の私でも頭がおかしくなるのですから、男子の心境なんて嬉しみがヤバイでしょう。はい、幼なじみ、羨ましいです。メルは全面的に認めます。最高かよぉぉぉ!
女子生徒たちのあいだでは、彼らのことを3Pと呼んでます。ちょっとイケナイ言葉のような含みがありますが、パルテール学園の頭文字、パのPらしいです。バカっぽいですよね。クスクス。
女子生徒たちは彼らがあつまっていると、3Pだ3Pだ、と言って顔を赤くしてニヤニヤと笑っています。そんな彼女たちは、脳汁分泌させてイカれちゃってると、言わざるを得ません。
そうそう、今日は私も久しぶりに3Pを見ることができました。彼らは中庭にある王族しか入れないカフェテリアで午後のお茶会を開いていました。シエルくんの歓迎会でもしていたっぽいです。
女子生徒たちの噂によると、シエルくんは宗教学校に行くのではないかと予想されていましたが、なぜかパルテール学園に入学してきました。きっとフーマ教皇に叱られるでしょうね。シエルくんがロープで縛られている光景が目に浮かびます。クスクス。
それにしても、私から見ますと、今日のマリ先輩は少しおかしいです。
3Pがまたそろったからでしょうか?
ベッドに入ったあと、ずっとペンライトを灯しています。何か執筆しているようですね。恒例の日記だとは思いますが、いつもよりも長いです。なにかあったのでしょうか? 気になります。
そうだ、素晴らしいことを思いつきました。
マリ先輩をお花摘みに誘ってみましょう。
私はゆっくりと起き上がってベッドから出ます。上のベッドではベニー先輩が、「むにゃ、むにゃ、リオンしゃんの料理うまぁぁぁもう入んない、だぞぉ」なんて寝言を漏らしてます。シュークリームでも口に詰めてあげたいですね。クスクス。
向かいの二段ベットの上では、ルナ先輩が静かに寝ているようです。今日は転校初日だったこともあり、気が張っていたのですね、すぐに寝てしまいました。ルナ先輩、今日はありがとうございました。私がまだシュークリームを食べていないことをみんなに知らせてくれたのです。本当なら自分で言うべきですよね。でも、私はどうも人前だとあがってしまって思うように発言ができません。
情けない限りです。
得に男子とはまったく喋れません。リオンさんなんて大人の男性なんかもっての他です。びびってしまって、もう私はシュークリームをあきらめてました。
しかーし! 救世主があらわれたのです。
そう、ルナ先輩です。洞察力が鋭くて感服しました。
さて、そろそろおしっこが漏れそうです。
私は内股でもじもじ移動して、マリ先輩のベットフレームをコンコンと叩きます。すると、カーテンが少しだけ開くと、
「どうしたの? メルちゃん?」
と、ささやくような言葉とともにマリ先輩の顔が見えました。月明かりに照らされて、き、きれい……。
「あ、あの……マリせんぱぁい、お花摘みにいきませんか?」
「ん? いいわよ」
マリ先輩は二段ベットの下から抜けでると、むくっと立ち上がりました。
うわぁ、おっきい。
私の背の高さは一五〇センチしかないから、マリ先輩と並ぶと二〇センチくらい差がある。ああ、マリ先輩が恋人だったらいいのになあ。そんな願望を抱きながら私はマリ先輩の手を繋ぎます。
ナイショですよ。
夜トイレに行くときはみんなが見ていないから、こんなことしちゃいます。マリ先輩、秘密にしましょうね。
マリ先輩は暗闇を歩くことがまったく怖くないようです。す、すごい……。真っ直ぐトイレまで向かうと、個室までついて来てくれました。女子寮の建物はまだ電気設備が整ってなくて、照明がないのです。マリ先輩は持っていたペンライトで私のことをずっと照らしてくれていました。とても神秘的な夜のお花摘みとなりました。ありがとうございます、マリ先輩。
トイレから帰るとき、私は疑問に思っていたことを投げかけました。
「マリ先輩、今夜の日記は長いですね、何か良いことでもあったのですか?」
「ええ、あったわ」
「素敵ですね。私もシュークリーム食べれて最高でした」
「ルナに感謝することね。あの転校生、只者じゃないわ」
「たしか学園長の紹介だと、彼女はヴォワの村の出身だと言っていましたね」
「ええ、そうね……メルちゃん、ヴォワについて知ってることがあるの?」
私はこくりとうなずいた。
脳裏に浮かぶのは王立図書館で過去の文献を読み漁る私の姿。私は運動ができないので、文章力で将来の生計を立てようと思っています。そのためには、人類の叡智を思いださなければなりません。人間は生まれた瞬間に智慧を忘れたという発想です。
思いだすためには、本を読み、それらを人に伝える。それをひたすら繰り返す。その一環として、近隣の国の情勢を把握しておくことも大事なことです。私は過去のデータを記憶から引っ張りだしてマリ先輩に伝えます。
「ヴォワの村は現在は独立した村ですが、かつてはプルタニア王国の支配下に統治されてました。しかし、十七年まえに勃発したクーデターにより封建制度は崩壊したと文献では載っていましたが……ヴォワの村にあんな美少女がいたなんて奇跡ですね」
すると、マリ先輩は急に足を止めました。
窓の外に浮かぶ月夜を眺めながら、つぶやきます。
「メルちゃん、この話はナイショね」
「え?」
マリ先輩は腕をのばすと、指先を私の唇にあてました。きゃ、なに? 身体が震えてきます。マリ先輩……なんてことするのですか? 秘密なことはわかりますが、イタズラしないでください。身体がどうしたって反応しちゃいますから、ああん、ダメです。
月の光りに照らされたマリ先輩の横顔が流れていきます。また歩きだして、部屋に戻るようです。
「さあ、もう寝ましょう」
「はい」
明日から新学期。
私は二年生、マリ先輩は三年生。つまり、マリ先輩は冬には卒業します。私たちが仲良く一緒に過ごせるのは、泣いても笑っても、あと一年もない。
出会いは別れの始まりです。
マリ先輩、ベニー先輩、そしてルナ先輩、私はかけがえのない友達ができました。ありがとうございます。部屋に戻った私は、みんなの寝ているベッドに向かって感謝の意を述べます。そして……。
おやすみなさい、先輩たち。
寝るまえにおしっこに行っておくべきでした。失態です。
暗闇ってなぜこんなに怖いのですか?
誰か教えてください。
月の明かりが射しこむ部屋は、かろうじて見えていますけど、まっくらな廊下まで足を踏み出す勇気が、いまの私にはありません。暗闇に潜む、得体の知れないなにかが、私を待っているような。そんな疑心暗鬼が頭のなかをよぎります。
あら、幽霊さん、そこにいたの? こんばんは。
私の名前はメルキュール・ビスコットです。
みんなは私のことをメルとかメルちゃんって呼んでくれます。非常にありがたいことです。私は生まれつき右足が悪くて、走ったりできないんです。ベニー先輩みたいに踊ることなんてもってのほか。だから憧れているのかもしれませんね。クスクス。
それでも、私生活にはまったく問題はありません。走れないだけで、ちゃんと歩けます。心配は無用ですが、暗闇のなかを歩くのだけは、話が別です。こ、こわい……。
幽霊とか信じますか?
ベニー先輩に訊くと、
「なにそれ美味しいのか?」
という回答を頂き、時間を無駄にしました。
マリ先輩に尋ねると、
「幽霊とは人間の知能が高いがゆえに起こる幻覚でしかない。もっとも幽霊を私の目のまえに連れてきたら認めるけど、どうも文献などの事例はどれも信ぴょう性にかける。よって、幽霊を信じることは、私にはできないわ」
という回答を頂きました。私は自分より頭脳明晰なマリ先輩をお慕いしてます。運動はベニー先輩に憧れていますが、知能の高さが群を抜くマリ先輩は、私にとって憧れ以上の存在です。つまり、げきスコです。
マリ先輩は花が大好きで、植物学者のような人物。いつも科学的かつ論理的な物言いです。しかも、スタイル抜群でボンキュボン、黒髪ビューティーなマリ先輩のことを、みんな高嶺の花だと裏で呼んでいます。でも。マリ先輩はこのことを知りません。恋に関してはポンコツなんです。ここだけの話ですよ。マリ先輩はいつも冷酷なくせに、笑うとかわいいところもあって良きなんです。クスクス。
それだけに毎日が楽しいです。
笑ってしまうことが日常であふれてます、クスクス。
男子たちが、マリ先輩に喋りかけたいけどできなくてもじもじしている姿など、見ているこっちが恥ずかしい気持ちになり、男子の生態系が観察できて非常に面白いです。
先日など、花壇のまえで、マリ先輩の水やりシーンを見たくて出待ちしている男子たちが居ましたけど、マリ先輩ったら誤ってホースを持たずに蛇口を全開にしてしまうものだから、ホースが暴れて水が勢いよく噴きだしちゃったんです。近くにいた男子たちはもうびしょ濡れ。ドジったマリ先輩は、小さく舌ベラをだしました。か、か、かわいいんですけどぉぉぉぉ……マジで、げきスコです。
それでも、びしょ濡れになった男子たちは平気な顔をしていました。マリ先輩がぺこりと頭を下げて謝罪したからです。それだけで、彼らは嬉しいみたいですね。男子って非常に単純な生き物です。ちょっとバカかも。
そのなかでも、マリ先輩のことを特に御執心なのはパルテール学園の3P。
キラキラ王子こと、ソレイユ・フルール。
俺様騎士こと、ロック・コンステラ。
かわいい弟系男子こと、シエル・デトワール。
この3Pはもう中等部のころから話題の人物たちで、マリ先輩とは幼なじみなのだとか。まあ、そりゃあ、マリ先輩みたいな綺麗な美少女が幼なじみなんて、気が狂います。
マリ先輩を見ていると女の私でも頭がおかしくなるのですから、男子の心境なんて嬉しみがヤバイでしょう。はい、幼なじみ、羨ましいです。メルは全面的に認めます。最高かよぉぉぉ!
女子生徒たちのあいだでは、彼らのことを3Pと呼んでます。ちょっとイケナイ言葉のような含みがありますが、パルテール学園の頭文字、パのPらしいです。バカっぽいですよね。クスクス。
女子生徒たちは彼らがあつまっていると、3Pだ3Pだ、と言って顔を赤くしてニヤニヤと笑っています。そんな彼女たちは、脳汁分泌させてイカれちゃってると、言わざるを得ません。
そうそう、今日は私も久しぶりに3Pを見ることができました。彼らは中庭にある王族しか入れないカフェテリアで午後のお茶会を開いていました。シエルくんの歓迎会でもしていたっぽいです。
女子生徒たちの噂によると、シエルくんは宗教学校に行くのではないかと予想されていましたが、なぜかパルテール学園に入学してきました。きっとフーマ教皇に叱られるでしょうね。シエルくんがロープで縛られている光景が目に浮かびます。クスクス。
それにしても、私から見ますと、今日のマリ先輩は少しおかしいです。
3Pがまたそろったからでしょうか?
ベッドに入ったあと、ずっとペンライトを灯しています。何か執筆しているようですね。恒例の日記だとは思いますが、いつもよりも長いです。なにかあったのでしょうか? 気になります。
そうだ、素晴らしいことを思いつきました。
マリ先輩をお花摘みに誘ってみましょう。
私はゆっくりと起き上がってベッドから出ます。上のベッドではベニー先輩が、「むにゃ、むにゃ、リオンしゃんの料理うまぁぁぁもう入んない、だぞぉ」なんて寝言を漏らしてます。シュークリームでも口に詰めてあげたいですね。クスクス。
向かいの二段ベットの上では、ルナ先輩が静かに寝ているようです。今日は転校初日だったこともあり、気が張っていたのですね、すぐに寝てしまいました。ルナ先輩、今日はありがとうございました。私がまだシュークリームを食べていないことをみんなに知らせてくれたのです。本当なら自分で言うべきですよね。でも、私はどうも人前だとあがってしまって思うように発言ができません。
情けない限りです。
得に男子とはまったく喋れません。リオンさんなんて大人の男性なんかもっての他です。びびってしまって、もう私はシュークリームをあきらめてました。
しかーし! 救世主があらわれたのです。
そう、ルナ先輩です。洞察力が鋭くて感服しました。
さて、そろそろおしっこが漏れそうです。
私は内股でもじもじ移動して、マリ先輩のベットフレームをコンコンと叩きます。すると、カーテンが少しだけ開くと、
「どうしたの? メルちゃん?」
と、ささやくような言葉とともにマリ先輩の顔が見えました。月明かりに照らされて、き、きれい……。
「あ、あの……マリせんぱぁい、お花摘みにいきませんか?」
「ん? いいわよ」
マリ先輩は二段ベットの下から抜けでると、むくっと立ち上がりました。
うわぁ、おっきい。
私の背の高さは一五〇センチしかないから、マリ先輩と並ぶと二〇センチくらい差がある。ああ、マリ先輩が恋人だったらいいのになあ。そんな願望を抱きながら私はマリ先輩の手を繋ぎます。
ナイショですよ。
夜トイレに行くときはみんなが見ていないから、こんなことしちゃいます。マリ先輩、秘密にしましょうね。
マリ先輩は暗闇を歩くことがまったく怖くないようです。す、すごい……。真っ直ぐトイレまで向かうと、個室までついて来てくれました。女子寮の建物はまだ電気設備が整ってなくて、照明がないのです。マリ先輩は持っていたペンライトで私のことをずっと照らしてくれていました。とても神秘的な夜のお花摘みとなりました。ありがとうございます、マリ先輩。
トイレから帰るとき、私は疑問に思っていたことを投げかけました。
「マリ先輩、今夜の日記は長いですね、何か良いことでもあったのですか?」
「ええ、あったわ」
「素敵ですね。私もシュークリーム食べれて最高でした」
「ルナに感謝することね。あの転校生、只者じゃないわ」
「たしか学園長の紹介だと、彼女はヴォワの村の出身だと言っていましたね」
「ええ、そうね……メルちゃん、ヴォワについて知ってることがあるの?」
私はこくりとうなずいた。
脳裏に浮かぶのは王立図書館で過去の文献を読み漁る私の姿。私は運動ができないので、文章力で将来の生計を立てようと思っています。そのためには、人類の叡智を思いださなければなりません。人間は生まれた瞬間に智慧を忘れたという発想です。
思いだすためには、本を読み、それらを人に伝える。それをひたすら繰り返す。その一環として、近隣の国の情勢を把握しておくことも大事なことです。私は過去のデータを記憶から引っ張りだしてマリ先輩に伝えます。
「ヴォワの村は現在は独立した村ですが、かつてはプルタニア王国の支配下に統治されてました。しかし、十七年まえに勃発したクーデターにより封建制度は崩壊したと文献では載っていましたが……ヴォワの村にあんな美少女がいたなんて奇跡ですね」
すると、マリ先輩は急に足を止めました。
窓の外に浮かぶ月夜を眺めながら、つぶやきます。
「メルちゃん、この話はナイショね」
「え?」
マリ先輩は腕をのばすと、指先を私の唇にあてました。きゃ、なに? 身体が震えてきます。マリ先輩……なんてことするのですか? 秘密なことはわかりますが、イタズラしないでください。身体がどうしたって反応しちゃいますから、ああん、ダメです。
月の光りに照らされたマリ先輩の横顔が流れていきます。また歩きだして、部屋に戻るようです。
「さあ、もう寝ましょう」
「はい」
明日から新学期。
私は二年生、マリ先輩は三年生。つまり、マリ先輩は冬には卒業します。私たちが仲良く一緒に過ごせるのは、泣いても笑っても、あと一年もない。
出会いは別れの始まりです。
マリ先輩、ベニー先輩、そしてルナ先輩、私はかけがえのない友達ができました。ありがとうございます。部屋に戻った私は、みんなの寝ているベッドに向かって感謝の意を述べます。そして……。
おやすみなさい、先輩たち。
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