15 / 84
第一部 春
13 現実主義のシエルに甘えられて
しおりを挟む
あれは遠い夏の日。
わたしは水色のワンピースを着てアイスを食べていた。
公園のベンチに座ってシエルと談笑している。
初等部の六年生になったわたしは、四年生であるシエルのことを弟みたいに思っていた。まあ、いまでも弟としか見てないけど。そんな、シエルはとりすました顔で、わたしに質問を投げかけた。
「ねえ、マリ姉、神様ってホントはいないって知ってる?」
わたしはペロリとアイスを舐めていた。
当時のわたしは高嶺真理絵の記憶を取り戻していなかったから、シエルの言っている意味がまるでわからなかった。だから、適当に答えていた。
「おお、神よってみんな言ってるけど、ホントはいないってこと?」
「うん、いないけど、いるってことにしてるみたい」
「なんでそんなことするのよ?」
「たぶんそのほうが大人たちが都合が良いんだと思う」
「ふーん、わたしはいると思う」
「え? マリ姉、神様を見たことあるの?」
「人間には見えていないだけで、実はいるかもしれないわよ」
「まさか、僕は見えるものしか信じないっ」
わたしは腕をのばすと指さして叫んだ。
「あ! あああああ!」
「ど、どしたのマリ姉!」
「シエルの後ろに神様がいるっ!」
「え! マジ?」
「ウソだよぉ~」
「ちょっとマリ姉ぇぇ!」
「きゃはは」
わたしは快活に笑い飛ばしていたような気がする。
理想的な答えではなかったようで、シエルはむすっとしていた。わたしはかまわずアイスを食べ終えて、なんの役にも立ちそうにない棒切れを一瞥すると、シエルにわたした。
「これ、片付けといて」
「え~! マリ姉ちゃんが自分でやってよ」
「いいじゃん、公園も教会もシエルの家みたいなものでしょ?」
「そうだけど……」
「だったらいいでしょ、じゃあね、バイバーイ」
「あっ! マリ姉っ、んもう」
駆け出すわたしのことを、シエルはいつまでも見つめていた。あれから、わたしたちは成長してみんな大人になったけど、友達だという絆だけはずっと変わらない。シエル、あなたはパルテール学園に入学したのね。どうせ、お父さんに叱られたから、すねて草むしりして八つ当たりしているのでしょうけど。まったく、身体は大きくなったのに、心はいつまでも子どもなんだから。
思い出にふけっていたわたしは、ルナスタシアの声で我に返った。シエルに話しかけているようだ。物語は確実に動きだしている。
「君、何をやっているの?」
「む……草むしり」
「へー、あたしも手伝ってあげる」
心の優しいルナはスカートを手で折り曲げると腰を落とした。黙々と草むしりする二人。
「ねえ、なんで草むしりしてるの?」
「……邪魔だから」
「草が?」
「うん、綺麗じゃないから邪魔なんだ」
「ふーん、でもホントは何か探してるんでしょ?」
「え?」
猫のような瞳を大きく開いたシエルの手が止まった。
ルナは草をむしると、その草を太陽の光りにあてるように観察した。
ルナは天然キャラだけど、けしてバカではない。彼女は観察眼と洞察力に優れていて、セリフの選択も的確に正解を選んでいた。文句なしのヒロインだった。いまのところ、特にわたしがサポートすることは何もない。
暇なので、シエル・デトワールを観察してみよう。
彼は亜麻色のゆるいくせ毛と大きな瞳がかわいい弟系男子。
性格は猫みたいにクールでツンデレ。
なので、なかなか心を開いてくれない。
攻略対象者のなかで一番難攻するキャラなのよね。
でも、ホントは甘えん坊さんなの。
好感度がマックスになると、ものすごくすり寄ってくる。
ショタ好きのお姉さんたちにはたまらない存在みたい。
高嶺真理絵のときのわたしにも、かわいい弟がいた。
だから、お姉さんの気持ち、わからなくもない。
まあ、現実に甘えてきたら引いちゃうかも。
だけど、ここは乙女ゲーの世界。
弟から甘えられる擬似体験を味わっても、いいかもしれないわね。うふふ。
わたしは水色のワンピースを着てアイスを食べていた。
公園のベンチに座ってシエルと談笑している。
初等部の六年生になったわたしは、四年生であるシエルのことを弟みたいに思っていた。まあ、いまでも弟としか見てないけど。そんな、シエルはとりすました顔で、わたしに質問を投げかけた。
「ねえ、マリ姉、神様ってホントはいないって知ってる?」
わたしはペロリとアイスを舐めていた。
当時のわたしは高嶺真理絵の記憶を取り戻していなかったから、シエルの言っている意味がまるでわからなかった。だから、適当に答えていた。
「おお、神よってみんな言ってるけど、ホントはいないってこと?」
「うん、いないけど、いるってことにしてるみたい」
「なんでそんなことするのよ?」
「たぶんそのほうが大人たちが都合が良いんだと思う」
「ふーん、わたしはいると思う」
「え? マリ姉、神様を見たことあるの?」
「人間には見えていないだけで、実はいるかもしれないわよ」
「まさか、僕は見えるものしか信じないっ」
わたしは腕をのばすと指さして叫んだ。
「あ! あああああ!」
「ど、どしたのマリ姉!」
「シエルの後ろに神様がいるっ!」
「え! マジ?」
「ウソだよぉ~」
「ちょっとマリ姉ぇぇ!」
「きゃはは」
わたしは快活に笑い飛ばしていたような気がする。
理想的な答えではなかったようで、シエルはむすっとしていた。わたしはかまわずアイスを食べ終えて、なんの役にも立ちそうにない棒切れを一瞥すると、シエルにわたした。
「これ、片付けといて」
「え~! マリ姉ちゃんが自分でやってよ」
「いいじゃん、公園も教会もシエルの家みたいなものでしょ?」
「そうだけど……」
「だったらいいでしょ、じゃあね、バイバーイ」
「あっ! マリ姉っ、んもう」
駆け出すわたしのことを、シエルはいつまでも見つめていた。あれから、わたしたちは成長してみんな大人になったけど、友達だという絆だけはずっと変わらない。シエル、あなたはパルテール学園に入学したのね。どうせ、お父さんに叱られたから、すねて草むしりして八つ当たりしているのでしょうけど。まったく、身体は大きくなったのに、心はいつまでも子どもなんだから。
思い出にふけっていたわたしは、ルナスタシアの声で我に返った。シエルに話しかけているようだ。物語は確実に動きだしている。
「君、何をやっているの?」
「む……草むしり」
「へー、あたしも手伝ってあげる」
心の優しいルナはスカートを手で折り曲げると腰を落とした。黙々と草むしりする二人。
「ねえ、なんで草むしりしてるの?」
「……邪魔だから」
「草が?」
「うん、綺麗じゃないから邪魔なんだ」
「ふーん、でもホントは何か探してるんでしょ?」
「え?」
猫のような瞳を大きく開いたシエルの手が止まった。
ルナは草をむしると、その草を太陽の光りにあてるように観察した。
ルナは天然キャラだけど、けしてバカではない。彼女は観察眼と洞察力に優れていて、セリフの選択も的確に正解を選んでいた。文句なしのヒロインだった。いまのところ、特にわたしがサポートすることは何もない。
暇なので、シエル・デトワールを観察してみよう。
彼は亜麻色のゆるいくせ毛と大きな瞳がかわいい弟系男子。
性格は猫みたいにクールでツンデレ。
なので、なかなか心を開いてくれない。
攻略対象者のなかで一番難攻するキャラなのよね。
でも、ホントは甘えん坊さんなの。
好感度がマックスになると、ものすごくすり寄ってくる。
ショタ好きのお姉さんたちにはたまらない存在みたい。
高嶺真理絵のときのわたしにも、かわいい弟がいた。
だから、お姉さんの気持ち、わからなくもない。
まあ、現実に甘えてきたら引いちゃうかも。
だけど、ここは乙女ゲーの世界。
弟から甘えられる擬似体験を味わっても、いいかもしれないわね。うふふ。
0
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
ひねくれ師匠と偽りの恋人
紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ
恋愛
「お前、これから異性の体液を摂取し続けなければ死ぬぞ」
異世界に落とされた少女ニチカは『魔女』と名乗る男の言葉に絶望する。
体液。つまり涙、唾液、血液、もしくは――いや、キスでお願いします。
そんなこんなで元の世界に戻るため、彼と契約を結び手がかりを求め旅に出ることにする。だが、この師匠と言うのが俺様というか傲慢というかドSと言うか…今日も振り回されっぱなしです。
ツッコミ系女子高生と、ひねくれ師匠のじれじれラブファンタジー
基本ラブコメですが背後に注意だったりシリアスだったりします。ご注意ください
イラスト:八色いんこ様
この話は小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿しています。
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
【完結】悪役令嬢に転生したけど『相手の悪意が分かる』から死亡エンドは迎えない
七星点灯
恋愛
絶対にハッピーエンドを迎えたい!
かつて心理学者だった私は、気がついたら悪役令嬢に転生していた。
『相手の嘘』に気付けるという前世の記憶を駆使して、張り巡らされる死亡フラグをくぐり抜けるが......
どうやら私は恋愛がド下手らしい。
*この作品は小説家になろう様にも掲載しています
乙女ゲームのヒロインに転生したらしいんですが、興味ないのでお断りです。
水無瀬流那
恋愛
大好きな乙女ゲーム「Love&magic」のヒロイン、ミカエル・フィレネーゼ。
彼女はご令嬢の婚約者を奪い、挙句の果てには手に入れた男の元々の婚約者であるご令嬢に自分が嫌がらせされたと言って悪役令嬢に仕立て上げ追放したり処刑したりしてしまう、ある意味悪役令嬢なヒロインなのです。そして私はそのミカエルに転生してしまったようなのです。
こんな悪役令嬢まがいのヒロインにはなりたくない! そして作中のモブである推しと共に平穏に生きたいのです。攻略対象の婚約者なんぞに興味はないので、とりあえず攻略対象を避けてシナリオの運命から逃げようかと思います!
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
死にかけて全部思い出しました!!
家具付
恋愛
本編完結しました。時折気が向いたら外伝が現れます。
森の中で怪物に襲われたその時、あたし……バーティミウスは思い出した。自分の前世を。そして気づいた。この世界が、前世で最後にプレイした乙女ゲームの世界だという事に。
自分はどうやらその乙女ゲームの中で一番嫌われ役の、主人公の双子の妹だ。それも王道ルートをたどっている現在、自分がこのまま怪物に殺されてしまうのだ。そんなのは絶対に嫌だ、まだ生きていたい。敵わない怪物に啖呵を切ったその時、救いの手は差し伸べられた。でも彼は、髭のおっさん、イケメンな乙女ゲームの攻略対象じゃなかった……。
王道ルート……つまりトゥルーエンドを捻じ曲げてしまった、死ぬはずだった少女の奮闘記、幕開け! ……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる