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第一部 春
11 結局女の子ってそんなもん
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花壇を背景に見つめ合う、ルナとロック。
背の高いロックをうわ目使いで見つめるルナの瞳は、きらめく太陽に反射して、美しいヴァイオレットの輝きを宿している。やるじゃない、ルナ。これで落ちない男子はいないだろう。そのとたん、ロックの心臓は、ドキッと跳ねていた。あらあら、やっと気づいたようね、ロック・コンステラ。
「あれ? 君って転校生だよな?」
「はい。ルナスタシア・リュミエールです」
「やったぜ! 俺ってラッキー!」
「え? ラッキー?」
「ああ、かわいい転校生と知り合えるなんて俺は幸せ者だ」
「えええ? かわいい……なんて、そんな……」
ルナは恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
頬は桜の花びらのようにピンクに染まっている。
チャラい。
ロック・コンステラの良さは強くてかっこいいところなのに、チャラいところだけがマイナス要素。でもそれは、わたしの個人的な意見なだけで、ロックの良さは友達から言わせると、
「ロックはチャラそうに見えて実は誠実な男なんだってば! っていうか筋肉がやっべぇぇからよき!」
なんて熱く語っていた友達のことを思い出す。元気かな、あの腐女子。
マジで……結局女の子ってそんなもんなのよねえ。
めっちゃかわいい女の子が簡単にチャラい先輩と付き合って、もう色々なことされちゃってて、きゃああ、なんて噂している女子高生たちの会話を思い出す。陽キャたちの話に耳を傾けている前世のわたしがいる。省みると、高嶺真理絵のときのわたしって、なんて陰キャだったんだ……とほほ。
でもいまは乙女ゲーの世界に入っているから、わたしにも陽キャになれるワンチャンはあるわよね? よし、ここはしっかりヒロインのルナを陰ながらサポートしてあげよう! わたしはロックの制服のジャケットを引っ張って、「ねぇ」とささやいた。
「ロック、自分の名前をちゃんと言いなさいよ」
「おお、そうだな、サンキュー」
ロックはルナに向かってウィンクすると、右手で拳を作って掲げた。
「俺はロック・コンステラ、高等部の三年だ。将来は聖騎士になる男だから困ったことがあったらなんでも相談にのるぜ!」
「へー、ロックって頼もしいんだね」
「おうよ、いじめられそうになったらすぐ言えよ。俺が守ってやるから安心しろ」
「うーん、別にいいかな……自分のことは自分でなんとかするよ、いつもそうしてきたから」
「そうか……」
「うん、気持ちだけ受け取っておくね」
頬が引きつるルナの表情は、少しだけロックの力強さにびびっているように見えた。そして、セリフの選択もバッチリだった。ロックはすぐに尻尾を振る女子が苦手なのよね。いつも君のことを見守ってるぜ。これがロックのキャッチフレーズ。
ルナはロックのことを軽くあしらった。今まで感じたことのない男性からの包容力に当惑しているのだろう。わかるわよその気持ち、男子からぐいぐい来られると、ちょっと引いちゃうからね。でも、ここは乙女ゲームの世界。モテモテを堪能してもいいかもしれないわよ、ルナ・リュミエール。
ロックは快活に笑うとルナと握手を交わし、ぶんぶん腕を振る。
「あわわわわわわ」
ルナの目はぐるぐると回っていた。
やっとルナから手を離したロックは、不適な笑みを浮かべていた。
ルナはふらふらで転びそうになっている。
すると、ロックはわたしのほうに身体を向けた。
鋼鉄のような筋肉美がずんずん近づいてくる。
うわぁ、すごい迫力。
ああああ、ドキドキする。
こんな男の人に押し倒されたら、なんの抵抗もできずに……きゃああ、想像しただけで頭がぽわわんとしてくる。や、やばい。
「なあ、マリ。今週の日曜日に拳闘の大会があるから観にこいよ」
「はいっ?」
観にこいよって、まさかの命令形?
マジで、ロックという男は俺様キャラだ。でもこれってイケメンだから許される言動。もしブサメンがこんなセリフを吐いたら悲鳴を上げて逃げている。
でも……。
逆に言えば、自分がイケメンだってことを完全に自覚しているのだろう。ロックは自信満々に片方の口角だけを上げて、わたしの身体を見つめている。え? ちょっとどこ見てるの? でもね、ロック、申し訳ないけど、わたしはモブである花屋の娘、マリ・フローレンス。わたしを誘っちゃダメ。
「遠慮しておくわ。日曜は花屋の仕事があるから」
「おいおい! 子どものころはよく応援に来てくれたじゃないか~」
「もう大人だから……わたしたち」
「チェッ……つまんねぇの……」
ロックは悲しそうに肩をすぼめた。
っていうか、ロックの頭もおかしい。
さっきまでメインヒロインのルナに首ったけだったのに、どういうつもりでわたしを誘うのだろうか? 乙女ゲームが正しく作動しているならば、わたしよりもルナスタシアを誘うプログラムが組まれているはず。よって、ロックの行動は論理的ではない。まったく、開発者の意図が読めない。いったい何を考えているのか? モブのほうがモテるなんて、わけがわからない。
ロックはどうしてもわたしに観に来て欲しいのか、未だに立ち尽くしたまま、伝説の花壇を離れようとしない。このまま物語のページがめくられてもいいのかな? ああん、わかんない。もう何が起きても知らないわよ。
背の高いロックをうわ目使いで見つめるルナの瞳は、きらめく太陽に反射して、美しいヴァイオレットの輝きを宿している。やるじゃない、ルナ。これで落ちない男子はいないだろう。そのとたん、ロックの心臓は、ドキッと跳ねていた。あらあら、やっと気づいたようね、ロック・コンステラ。
「あれ? 君って転校生だよな?」
「はい。ルナスタシア・リュミエールです」
「やったぜ! 俺ってラッキー!」
「え? ラッキー?」
「ああ、かわいい転校生と知り合えるなんて俺は幸せ者だ」
「えええ? かわいい……なんて、そんな……」
ルナは恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
頬は桜の花びらのようにピンクに染まっている。
チャラい。
ロック・コンステラの良さは強くてかっこいいところなのに、チャラいところだけがマイナス要素。でもそれは、わたしの個人的な意見なだけで、ロックの良さは友達から言わせると、
「ロックはチャラそうに見えて実は誠実な男なんだってば! っていうか筋肉がやっべぇぇからよき!」
なんて熱く語っていた友達のことを思い出す。元気かな、あの腐女子。
マジで……結局女の子ってそんなもんなのよねえ。
めっちゃかわいい女の子が簡単にチャラい先輩と付き合って、もう色々なことされちゃってて、きゃああ、なんて噂している女子高生たちの会話を思い出す。陽キャたちの話に耳を傾けている前世のわたしがいる。省みると、高嶺真理絵のときのわたしって、なんて陰キャだったんだ……とほほ。
でもいまは乙女ゲーの世界に入っているから、わたしにも陽キャになれるワンチャンはあるわよね? よし、ここはしっかりヒロインのルナを陰ながらサポートしてあげよう! わたしはロックの制服のジャケットを引っ張って、「ねぇ」とささやいた。
「ロック、自分の名前をちゃんと言いなさいよ」
「おお、そうだな、サンキュー」
ロックはルナに向かってウィンクすると、右手で拳を作って掲げた。
「俺はロック・コンステラ、高等部の三年だ。将来は聖騎士になる男だから困ったことがあったらなんでも相談にのるぜ!」
「へー、ロックって頼もしいんだね」
「おうよ、いじめられそうになったらすぐ言えよ。俺が守ってやるから安心しろ」
「うーん、別にいいかな……自分のことは自分でなんとかするよ、いつもそうしてきたから」
「そうか……」
「うん、気持ちだけ受け取っておくね」
頬が引きつるルナの表情は、少しだけロックの力強さにびびっているように見えた。そして、セリフの選択もバッチリだった。ロックはすぐに尻尾を振る女子が苦手なのよね。いつも君のことを見守ってるぜ。これがロックのキャッチフレーズ。
ルナはロックのことを軽くあしらった。今まで感じたことのない男性からの包容力に当惑しているのだろう。わかるわよその気持ち、男子からぐいぐい来られると、ちょっと引いちゃうからね。でも、ここは乙女ゲームの世界。モテモテを堪能してもいいかもしれないわよ、ルナ・リュミエール。
ロックは快活に笑うとルナと握手を交わし、ぶんぶん腕を振る。
「あわわわわわわ」
ルナの目はぐるぐると回っていた。
やっとルナから手を離したロックは、不適な笑みを浮かべていた。
ルナはふらふらで転びそうになっている。
すると、ロックはわたしのほうに身体を向けた。
鋼鉄のような筋肉美がずんずん近づいてくる。
うわぁ、すごい迫力。
ああああ、ドキドキする。
こんな男の人に押し倒されたら、なんの抵抗もできずに……きゃああ、想像しただけで頭がぽわわんとしてくる。や、やばい。
「なあ、マリ。今週の日曜日に拳闘の大会があるから観にこいよ」
「はいっ?」
観にこいよって、まさかの命令形?
マジで、ロックという男は俺様キャラだ。でもこれってイケメンだから許される言動。もしブサメンがこんなセリフを吐いたら悲鳴を上げて逃げている。
でも……。
逆に言えば、自分がイケメンだってことを完全に自覚しているのだろう。ロックは自信満々に片方の口角だけを上げて、わたしの身体を見つめている。え? ちょっとどこ見てるの? でもね、ロック、申し訳ないけど、わたしはモブである花屋の娘、マリ・フローレンス。わたしを誘っちゃダメ。
「遠慮しておくわ。日曜は花屋の仕事があるから」
「おいおい! 子どものころはよく応援に来てくれたじゃないか~」
「もう大人だから……わたしたち」
「チェッ……つまんねぇの……」
ロックは悲しそうに肩をすぼめた。
っていうか、ロックの頭もおかしい。
さっきまでメインヒロインのルナに首ったけだったのに、どういうつもりでわたしを誘うのだろうか? 乙女ゲームが正しく作動しているならば、わたしよりもルナスタシアを誘うプログラムが組まれているはず。よって、ロックの行動は論理的ではない。まったく、開発者の意図が読めない。いったい何を考えているのか? モブのほうがモテるなんて、わけがわからない。
ロックはどうしてもわたしに観に来て欲しいのか、未だに立ち尽くしたまま、伝説の花壇を離れようとしない。このまま物語のページがめくられてもいいのかな? ああん、わかんない。もう何が起きても知らないわよ。
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