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第一部 春

4 ソレイユの笑顔

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 ソレイユはしばらく呆然と立ち尽くしていた。

 女性から無関心にされる。

 そんな経験は生まれて初めてなのだろう。
 ソレイユの人生は名前のとおり太陽そのもの。
 すべて自分中心に物事が進み、嫌な目にあったことがない。

 おまけに頭脳明晰、運動神経抜群、よって、難しいことでも、なんでもできちゃうチートっぷり。これでモテないわけがない。女子たちからいつもチヤホヤされて育ってきた。
 
 でも、それなのに。
 
 ルナスタシア・リュミエールには通用しないみたい。
 やがて、ソレイユの顔はいつもにも増して笑顔になるのだった。
 どうやら、ルナスタシアへの好感度がアップしたようだ。
 ああん、ソレイユのあのまぶしい笑顔、すてき。
 まるで太陽のようなスマイルにみんな魅了されてしまう。
 爽やかイケメンの笑顔ってホントに……もう、最高かよぉぉ!
 
 二人は校庭を歩いていると、校門にさしかかった。
 そこには、でーん! と建造された白亜の石像がある。
 国王の等身大が遠くの青空を指差していた。まるで少年よ大志を抱け、と言わんばかりの力強い双眸をしている。うーん、なんとも荘厳な石像なので圧がすごい。
 
 国王の名前はシャリオ・フルール。
 
 つまり、ソレイユの父親だ。
 このような、のんびりとした学園に国家最高権力者のレプリカを鎮座させるなんて、支配欲の塊のような男だ。こんなイカツイ顔からどうやってソレイユのような爽やかイケメンが生まれたのか不思議だ。母親のほうに似たのだろう、おそらく。
 
「これが父です」

 そう紹介するソレイユの心境は、何を思っているのだろう。
 公式ファンブックによると、大切に育ててくれる国王に感謝しているとスピーチで言っていることとは裏腹に、レールに敷かれた人生なんて退屈だ、と腹の底に抱えているようなので、あのように国王の石像を見て笑っているけど、内心は穏やかではないはずだ。すると、ルナスタシアはこんな質問を投げかけた。
 
「ソレイユってもしかして王様の子どもなの?」

 ソレイユは目を丸くして驚愕した。

「はい、私はフルール国王の長男です。知らなかったのですか?」
「うん」

 彼の唇はかすかな笑みを作り、双眸は楽しそうにきらめいている。まるで新種の生き物を発見した生物学者みたいに。
 
「私を王子として見ないのは君がはじめてだ。ルナスタシア・リュミエール」

 そのお返しにルナは満面の笑みで、こう答える。
 
「ルナでいいよ。あたしもソレイユって呼ぶから」

 セリフの選択は大正解。
 笑い合う二人の頭から、ハートマークが舞っている。
 ソレイユの好感度がぐんぐんとあがってエフェクト満開。
 ちゃんと合理的な選択できているみたい、やるじゃない、ルナスタシア。見ているこっちが胸キュンしちゃう。羨ましいな、楽しそうだな。わたしも彼氏ほしい……うふふ。
 
 すると、いろいろな問題があふれだす。
 あたりをうろつくモブの女子生徒たちからは、

「きゃ、ソレイユ様」
「今日も見れてラッキー」
「でも、となりの女だれ?」
「ああ、田舎者の転校生ね」
「キラキラ王子にタメ口とか調子にのってない?」
「それな~」

 と聞こえてくる。
 まあ、お決まりの女子生徒たちからの嫉妬が芽生えて、いじめフラグが立っている。でも、安心して、ルナスタシア。わたしたちが守ってあげるから大丈夫。このあとすぐ、ルナスタシアには心強い友達ができる。その代表格がわたし、マリエンヌ・フローレンスであり、あとで登場するパルテール学園の女子寮生たちがいる。でも、いまは面倒なので紹介はのちほど……。

 そう、いまはこっちに歩いて来て、二人とも。
 あなたたちがこの物語の主人公であって、わたしはモブの花屋の娘マリエンヌ・フローレンスにすぎない。さあ、遠慮はいらない。伝説の花壇に来て、ルナ。わたしはあいかわらず水まきをしている。花壇を管理することが、わたしのプログラムなのだから。
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