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プロローグ

1 この世界は乙女ゲームかもしれない

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 たかねのはな【高嶺の花】
 遠くから見えるだけで、手に入れることのできないもの。
 あこがれるだけで、自分にはほど遠いもののたとえ。
                      『goo辞書』






 わたしの名前はマリエンヌ・フローレンス。
 フルール王国都内にあるパルテール学園の高等部三年生で、愛称はマリだった。

 これからお話するのは、わたしたちパルテール学園の物語。
 でも、物語の主人公はわたしではない。こちらの二人だ。

 豪華絢爛な壇上に立つ彼の名前はソレイユ・フルール。年齢は十七歳。彼はいま始業式の挨拶をしている。人の頂点に立つ王様が尊ばれた時代。ソレイユはまさに王様だった。そして、生徒のみんなからは、キラキラ王子とも呼ばれていた。

 席に戻っていく彼の姿は颯爽としてかっこいい。頬を赤く染めてうっとりする女子生徒たちの頭から、ぽわわんと春の花が咲き乱れている。ソレイユはみんなの視線に気づくと、にっこり笑ってから席に座った。
 
 彼はみんなに平等で優しい。いつも笑顔でニコニコしている。ソレイユという名前のとおり、まるで太陽のような存在。みんなの模範生であり、生徒会長であり、次期国王であり、大切なことなのでもう一度言うと……。
 
 キラキラ王子だった。

 つづいて学園長のスピーチになるところで、転校生の紹介になった。ステージの袖幕から現れた少女はルナスタシア・リュミエールという名前で、ヴォワという田舎の村から来たらしい。年齢は十七歳。高等部三年生に転入するみたい。わたしと同じクラスだ。彼女の容姿は金髪にヴァイオレットの瞳を輝かせている。顔もスタイルも普通にかわいい。
 
 少女ルナスタシアは、学園長からそう紹介されると深く頭を下げた。美しい金髪が垂れたあと、ゆっくりと顔を上げる……その瞬間だった。わたしは衝撃的なことに気づいた。あれ? これってもしかして!
 
「この世界は乙女ゲームかもしれない……」

 そんな言葉がわたしの口から漏れた。
 そのとたん、切り捨てられていた記憶が頭のなかをめぐる。
 女の子の部屋。
 机に置かれた乙女ゲームのソフト。
 公式ファンブック。
 日本の女子高生。
 校庭のグラウンド。
 サッカーをしている男子たち。
 学校の校舎、花壇に水まきしている、わたし。
 強い風に吹かれた制服のスカートがひるがえる。

 心臓が早鐘を打ち、ドクンドクンと身体のなかで響く。

 え! なにこれ?

 ちょっと待って、意識が飛んじゃうぅ……。
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