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エピローグ 〜 手紙 〜
親愛なるリクシスさんへ
しおりを挟むご無沙汰しております。ラクトです。
月日が流れるのは早いですね。季節は移り変わり、すっかり涼しくなってきました。省みれば、リクシスさんと冒険をしてから、もう一ヶ月が過ぎようとしているのですね。僕は誕生日を迎え、一七歳になりましたよ、リクシスさん。
元気ですか? どこで、なにをしているのですか?
リクシスさんのことですから、おそらく呑気にやっているとは思いますが……。
さて、僕は現在、火の神殿にてこの手紙を書いています。ごめんなさい。リクシスさんの部屋にかってに入りました。ちょっと疲れたので、ベッドで横になろうと思ったからです。
そこでふと、天井を見て気づいたのですが、穴は修理されていましたよ。ベッドの布団もふかふかだし、神殿はきちんと巫女や神官たちによって管理されているようですね。リクシスさんが帰って来たら、ぐっすりと寝られるように。
でも、心なしか、祭壇に祀られた火のクリスタルも、本殿のなかで踊るクリちゃんも、最近、元気がないような気がします。みんなリクシスさんのことを心配してるみたいです。そう言う、僕だって……。
リクシスさんに会いたいです。
修理された天井の穴を見ていると、どうしてもリクシスさんのことを考えてしまいます。あなたの美しい顔、可愛らしい笑い声、ときおり見せる強い眼差し……。
ああ、もしもこの穴が空かずに手紙が落ちてこなかったら、僕たちは愛し合って、恋人同士になれたのかな、って……。ごめんなさい。なにを今更って感じですよね。
なので、僕はすぐに立ちあがり、椅子に座りました。
で、机の抽斗を開けると紙と筆があったので、がらにもなくリクシスさんに手紙を書こうかな、と思ったわけです。というのも、近状の報告と相談したいことがあるんです。実は……。
僕はこのたび、婚約を申し込まれました。
相手の婚約者は、皇女のセイレーンという女性です。
皇帝の唯一無二の子孫であり、絶世の美女。僕にはもったいない彼女なんですが、リクシスさんのおかげですよ。次期魔王の誓約書。あれを皇帝に見せたとたん大喜びで、賢者ラクト様、ぜひ我が娘セイレーンの婿になってフバイ帝国を統治してくれ、なんて言われてしまいました。
どうしましょう? この婚約……。
ちなみに、西の砦奪還で貰ったクエストの報奨金十億は、すべてフルール王国に寄付しました。僕は母と話し合って、こんな大金うちには必要ない、西の砦復興の役に立ててもらったほうがいいだろう、と決めたのです。うちの母は頑固なところがあるでしょ? お金がないほうが、良い絵が描ける、と豪語しています。
本当ですかね?
あと、リクシスさん。友達が欲しいという僕の願いは、結局、叶っていないような気がします。と言うのも、現在、みんなそれぞれ別の場所に暮らしているのです。
まったく、みんな自由なんだから……。
アーニャさんは、もっと強いイケメンに会いに行く、と言って放浪の旅に出ました。ミルクちゃんは、とりあえず猫耳族の村に帰る、と言って深い森のなかに入って行きました。
そしてノエルさんは、現在、フルール王国にいます。
どうやら、魔法学園の講師として教鞭をとっているそうです。子どもたちと戯れ、魔法を教えているノエルさんを想像すると、微笑ましいものがあります。
あ、そうそう、リクシスさんってアフロを懲らしめましたよね。何をしたんですか?
風の噂によると、エルドラド王国にて楽しそうな店を経営しているそうですよ。なんとも可愛いらしい看板娘もいるそうで、一度、行ってみたいと思ってはいますが、うーん、結婚したらまず行けそうにない店です……っていうか、その結婚についてリクシスさんに報告があります。
単刀直入に申します。
僕はリクシスさんと結婚したいです。
突然、手紙でプロポーズなんて、自分でもバカだと思いますが、素直な気持ちに嘘はつきたくないんです。まあ、それでも結婚のことはいったん置いてもらってかまいません。心の準備もありますし、そもそも、僕とリクシスさんは付き合ってもいませんからね。なんとも、心に草が生えます。笑ってください。
それと、こっちは相談なんですが……。
僕の父親を探すクエストを手伝ってくれませんか?
母の証言によると父は、“ 戦争に行ったきり帰ってこない ”ことになっています。僕は裏を取るため、帝都にある騎士館にて調査をしました。
結果、父が失踪した当時、僕が二歳のときなんですが、フバイはフルールと戦争をした経緯があり。おそらく、その戦争において父は命を落としたか、あるいは何か事情があり、どこかで生き延びている可能性も捨てきれません。そこで、僕はギルド館に行って、受付嬢のエウカさんに尋ねてみました。
父親を探すクエストを発注したいのですが、と。
するとエウカさんは、快く受注してくれました。報奨金は一億と奮発しました。この金額なら目立つので、有力な情報提供者が見つかると思ったからです。それに、もう僕はお金には困っていません。賢者となった僕にとっては、ダンジョンをちょっと冒険して宝石などを発掘すれば、一億など、すぐに稼ぐことができる金額です。
そうそう、近々エウカさんにお願いした、そのクエストの名前が発表されます。題して、
『 行方不明の賢者の父親を探しています 』です。
どうですか? 調査したくなりませんか?
リクシスさんの好きなミステリークエストですよ。だから……。
もし、この机の上の手紙を読んだら、僕のもとに尋ねてくれませんか?
また、一緒に旅をしましょう。女神パーティの復活です!
でも、その前に、皇女セイレーンとの婚約をなんとかしないといけません。
ぶっちゃけ、今から火の神殿にて、僕と彼女の結婚の儀が行われようとしているんですが、まいったな……。もう、ここはいっそ……。
“ 皇女セイレーン、君との婚約を破棄する ”
なんてお決まりのセリフを言って、婚約破棄しようかなと思います。
おそらく、皇帝から怒られるとは思いますが、おあいにくさま、僕は賢者です。やろうと思えばフバイ帝国など、一瞬で転覆できる魔力を持っていますから、まあ、なんの問題もないでしょう。唯一、心配なのは魔力の枯渇ですが、昨夜は何もしないで、そのまま寝ましたから、魔力はたっぷり溜まってます。あふれそうなくらいです。
だからリクシスさん、手紙を読んだら会いに来てください。
もしも会いに来てくれない場合は、僕にだって考えがあります。
水の女神様に、この話をもっていくつもりです。
たしか、名前はクレーネちゃん。彼女は、フバイの帝都に流れる川の源流にある “水の神殿” に住んでいますよね?
少し、強引かもしれませんが、ごめんなさい。
それくらい、僕はリクシスさんのことが好きなんです。
僕だってもう大人ですから、自分のことは自分で決めます。
結婚する相手だってそうです。
リクシスさん、僕はあなたのことを諦めません。
愛しています。
ラクト
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