いつか賢者になる僕は、追放された勇者パーティから溺愛をうけていた!?〜ごめん、女神様とパーティーを組んでるから戻れません〜

花野りら

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   第三章  勇者パーティの没落

 27  懲らしめる

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 コツコツ、と革靴の踵を鳴らして歩くリクシス。
 彼女は長いまつ毛をしばたかせると、サーラを見つめた。赤銅色の瞳に宿る光りが、高い知性を感じさせる。
 
「まだいたのですか? 魔族の王子……なんなら、次元魔法で魔界に飛ばしてあげましょうか?」

 え? と顔をあげるサーラは、ビクッと震えた。
 リクシスは右手を掲げ、指を弾く仕草をする。
 
「待ってくれ、魔界は広い……いったいどこに?」
 
 と、サーラは慌てふためく。
 不敵な笑みを浮かべるリクシスは、
 
「さあ、どこでしょう?」

 と言って首を傾げた。
 
「なあ、頼む! 魔王城の謁見の間だけはやめてくれ。女神の次元魔法なんかで突然現れたら、親父に悪いことをしたってバレてしまう」
「そんなこと知りません。とにかく目障りなんで転移します」
「ちょ、待てっ」
「うるさいですね……なんなら、 “転生” させてもいいのですよ? どこかの異世界にでも……」
「うわぁ、やめてくれぇぇ! 女神様ぁぁぁ!」
 
 うるさい、と吐き捨てたリクシスは、パチンと指を弾いた。
 その瞬間、サーラは異次元に吸いこまれて、消えていく。
 
「悪いことをする魔族は大ッ嫌いですっ!」
 
 次に、リクシスは目を細め、鎖に緊縛された男を見つめている。
 勇者アフロ様。
 
( いや、もう “様” をつける必要もないか…… )

 コツコツ、とリクシスは革靴を鳴らして歩き、アフロに近づいて見下ろす。
 
「勇者アフロよ、聞こえますか?」
「……」
「おい、起きろ……」

 と言ってリクシスは、横たわるアフロを爪先で突く。
 彼は、震えるまぶたを、ゆっくりと開け、

「うぅ……火の女神か……ということは、ラクトも?」
「はい、います。現在、外にいる黒竜を焼き払っているところです」
「よかった。これでフルールは助かった」
「……」

 安堵したアフロは、自分が緊縛されていることを思い出し、嫌悪感を抱いた。

「すまん、女神よ。この鎖を解いてくれないか?」
「……」

 沈黙するリクシスは、ブンッと竜槍を振ってアフロに突きつける。
 震える竜槍の切っ先が、今にもアフロの首を跳ね飛ばすかのごとく肉薄している。
 
「……ひっ」

 と、小さく悲鳴をあげたアフロの額から、スーッと汗が滴り落ちる。
 彼の心境は、わたしには理解不能だが、おそらく死を意識しているだろう。
 すると、隣にいたアーニャさんが声をあげる。
 
「リクシス様。アフロは最低だけど、根は悪いやつではないんだ。許してやってくれないか?」
「……」

 沈黙するリクシス。
 
「ミルクからもお願いします。アフロ様を殺さないでください。調子にのってしまっただけなのです。そこまで悪気はない……はず……あれ?」

 首を傾けるミルクちゃんは、にっひひと笑って誤魔化す。
 なお、沈黙のリクシス。 
 
「……」
「女神のお姉さん。お願い、なのです……」
 
 ミルクちゃんは、その潤んだレッドアイで渾身の上目使い。
 リクシスは、ふぅ、とため息をつくと、竜槍の石突きを、ティンと音を立てて落とした。しばらく、黙考したのち、遠くを見つめていた視線をわたしに移し、
 
「ノエルさん。あなたはどう思いますか? この男は死んで償うべきでしょうか?」

 と、訊いた。
 相変わらず、ガクブルに震えているアフロの哀れな姿は、初めて見るものだった。したがって……。
 
( 死ぬほどではないのでは? )
 
 わたしはリクシスさんを見つめながら、首を横に振る。
 
「いえ、殺さないでください。一応、わたしの勇者様 “だった” 方なので……」
「だった?」
「はい、わたしはパーティを抜けます」

 ……!?
 
 みんながびっくり仰天して、わたしを見つめた。
 真剣な眼差しでアフロを見据えたわたしは、深々と頭をさげた。
 
「……お世話になりました」
「おい、ちょっと待てよ。ノエル」

 と、懇願する元勇者様。その表情は焦りに満ちている。

「さようなら……」

 わたしは下を向いたまま別れの言葉を告げた。
 横から、ミルクちゃんとアーニャさんの声もあがる。
 
「あ、ミルクも抜けます」
「すまん、アフロ。私は強い男が好きなんだ……じゃあな」

 おまえら、おいっ! と叫ぶ哀れな男の声が、崩壊した砦のなかに響く。
 すると、リクシスは指を、パチンと鳴らした。
 空間が歪み、黒い魔法陣が浮かぶ。すると……。
 
「……やっと解放されたぁぁぁ!」

 うーん、と伸びをする女性が現れた。
 黒いレースを身につけた下着姿のお姉さん? 
 いや、魔族の女?
 頭にはドリルのような角、背中には黒い翼、お尻に生えた尻尾が、くるくると踊っている。
 
「お久ぶりです。サキュバスさん」

 と、リクシスが声をかけると、彼女は髪をかきあげて微笑んだ。
 
「あら、火の女神様」
「どうでしたか? 神官たちの攻めは?」
「ごめん……よかったわぁ。予想以上に、うふふ」
「それは、よき」
「で、あたしを呼びだして何か用事?」

 はい、とうなずいたリクシスは、鎖に巻かれた男を顎で示した。
 
「この男を懲らしめてほしいのです」

 ほう、とつぶやくサキュバスのお姉さん。
 アフロ様は……。
 
( いや、もう様はいらない )

 アフロは首を振って、

「やめろっ」

 と叫ぶ。
 
「おお! 久しぶりに攻める側にまわれるわぁ、感謝する女神様」
「いえいえ、この男は人間の女をまるで自分の道具のように扱い、弄び、挙げ句の果てには自分のエゴの所為で女たちを危険にさらした。とても悪い男です」
「……サイテーね」
「はい。なので、サキュバスさん。これ以上、悲しむ女が増えないように、懲らしめてください」
「じゃあ、しぼりとっていいわねぇ」
「はい。いっぱい抜いてください」

 ぺろり、と爬虫類のような長い舌で唇を舐めるサキュバスは、

「うふふ~♡」

 と言ってアフロへと肉薄している。
 
( これから、何が始まるというのだろうか? )

 わたしは恐ろしくなり、踵を返して駆けだしていく。
 背後から、アーニャさんが、
 
「見なくていいのか? ノエル」

 と尋ねてくるが、興味もないし未練もないので、
 
「はい、さようなら」

 という言葉だけ残して後を去った。
 すると、ミルクちゃんもわたしのほうに、タッタッタと走ってくる。
 
「ミルクも行きまーす」
「うーん、サキュバスの攻撃を見たい気持ちもあるけど……まいっか、じゃあな、アフロ、元気でやれよ」

 そう、アーニャさんが快活に言った瞬間、アフロは、

「おいっ!」

 と、声を荒げると、さらにつづけた。
 
「おまえらっ! ボスの俺に断りもなくパーティを抜けられると思うなよっ! それに、もう二度と快楽を与えてやらないからなっ! 覚悟しろっ!」

 ……!?
 
 わたしは耳を疑った。
 
( いらない、そんなのいらない )

 あいつの許可も快楽も、そんなものはいらない。
 わたしたちは振り向きもせず、走り去っていく。
 背後からかすかに聞こえるリクシスの声だけが、耳に残っていた。
 
「皮肉なことに、あなたはもう女に快楽を与えたくても、その機能を失います。なぜなら、あなたは去勢されるのですから……」
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