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第三章 勇者パーティの没落
22 サーラ vs 勇者パーティ
しおりを挟む赤胄の竜騎士サーラとマティウス。
彼らは魔王軍のなかで、どれほどの地位にいるのだろうか?
西の砦を制圧するほどの魔力。それに、サーラ様と呼ばれていることから、おそらく高貴な身分なのだろう。彼らは、身体にまとわりつく暗黒のオーラを、
「はあっ!」
と気合をいれて解放した。
その瞬間、四方八方に禍々しい魔の波動が放たれ、砦、全体が揺れ、まるで巨大地震かのような衝撃が、グゴゴゴゴ、と世界をひっくり返す。
「きゃあぁぁあぁぁ!」
と、わたしたち女子は抱き合って叫んだ。
かたや、アフロ様とガイル様は背中を合わせている。
「ぐっ……アフロ、ここはいったん逃げないか?」
「冗談を言うな……ガイル」
二人は眉間にしわをよせ、魔族たちをにらんでいた。
魔王軍竜騎士、サーラとマティウス。
彼らが放つ魔導のオーラが、いったん静かになっていく。
だが、未だに……。
グラグラと揺れる砦。天井から瓦礫の塊が、ゴツゴツと雨のように落ちてくる。
みんな、とても立っていられない。やむえず、片膝をついてしまう。
それを見ていた竜騎士たちは、ハハハと邪悪に嗤っていた。
二人は仲がいいのだろう。何やら楽しそうに話をしている。とても、戦術的な作戦会議とは思えない。まるで、友達同士で遊ぶ計画を立てている少年のような、そんな錯覚があった。
「じゃあ、サーラ様は巨乳の二人な」
「ああ、マティには銀髪の娘と黒髪の猫耳少女を与えよう」
「ありがとうございます」
「でも、後から交代だからな、絶対に殺すなよ。傷つけるのもなし」
「いやいや、逆にサーラ様に忠告しておくぜ」
「あはは、じゃあお互いに殺さないように気をつけよう」
「だな、あはは」
二人は、どっちがどの女を犯すか決めているのだが、こっちとしてはたまったものじゃない。特にガイル様の正体は男だ。バレたらどうなるのだろうか。
考えただけで、恐ろしい。
わたしだって、むざむざと魔族に犯されたくはない。
「じゃあ、さっそく男は殺してしまおう」
そうクールに言い放ったサーラは、姿勢を低くくし、グンッと駆けだしていく。その速さは音速の領域で、シュンッと空気を切り裂く。あっというまにアフロ様へ肉薄すると、その瞬間。
「ぐっぁぁッ!」
アフロ様は膝から崩れ落ちた。
カランと握っていた剣が乾いた音を立てて落ちた。サーラの右拳が、アフロ様の鎧を砕き貫通し、お腹にめりこんでいる。
「アフロぉぉ!」
隣にいるガイル様が叫んだ。
と同時に、握られた漆黒のダガーでサーラを斬りつける。だが、鎌を振られ、キンッと防御された。不敵な笑みを浮かべるサーラは、アステールの古代言語で詠唱を始めた。褐色の魔法陣が瞬時に現れ、そこから黒い鎖が飛びあがる。
「わぁぁ!」
ガイル様は襲いかかる鎖に、ぐるぐると巻かれた。
「うぅ……なんだこの鎖は!?」
あっけなく、緊縛され力なく横たわる。
にやり、と笑うサーラは、「おーい」と叫んで、
「マティウス! 銀髪の娘を縛ったから好きにしていいぞぉ」
と、言った。
マティウスは、ドスドスと巨体を揺らしながら、横たわるガイル様に近づく。
「ありがとうございます。サーラ様、ではお先にいただきます」
むんずとマティウスにお姫様抱っこされたガイル様。
「やめろぉぉ!」
必死で身をよじって抵抗する。
だが、鎖の魔力は強くて抜けだせない。
安っぽい笑みを浮かべるマティウスは、瓦礫の残骸が少ない場所を見つけると、そこにガイル様を降ろした。
「ぐへへ、痛いのはやだろ? いまトロトロにしてやるからなぁ」
腕を伸ばすマティウスの指先が、ガイル様の首筋、胸、髪、そして唇へと触れられていく。これは紛れもなく、男が女にするアプローチ、所謂、前戯に他ならない。
「っあん、ダメっ!」
「おお、もっと抵抗してもいいぞッ!」
さらに、ガイル様はマティウスに前戯されつつも、やだやだと言って抵抗し、その身をよじらせる。
「あがいても無駄だ。サーラ様の土魔法で創造された鎖は誰にも破れない」
「くそぉぉぉ! なんだこれぇぇぇ」
「ぐへへ、もっと抵抗しろぉ、燃えるぜぇ」
マティウスは、にたーと笑うと、ガイル様にねっちこい前戯を繰り返している。
執拗にも、念入りに、あふれだす快感の呼び水となるように……。
それを見ていたサーラは、あははと笑いながら踵をあげ、横たわるアフロ様のお腹に振り落とした。
「ぐあっ!」
アフロ様は悲鳴をあげる。
ミルクちゃんはすぐに詠唱を始めた。
横にいるアーニャさんは剣を正眼に構え、
「ノエル、回復をお願いっ」
と告げる。
( アフロ様を助けなきゃ! )
わたしは腕を伸ばして詠唱を始めた。
「ヒール……えっ! きゃあぁあぁぁ」
回復魔法が途切れた。
突然、虚空から現れた暗黒の鎖が、ぐるぐるとわたしの上半身を縛りあげる。
「きゃぁっ! なにこれっ!? 腕が動かない……ああっ」
鎖はよく見ると光り輝き、魔法で創造されていた。
アーニャさんが鎖を持って破こうとするが、うまくいかない。
「なんだこれ? 土魔法か!? うぉっ、かたい……」
アーニャさんは、「ぐぬぬぬ」と渾身の力で鎖を千切ろうとしてもダメだった。
わたしは手が使えないので、これじゃあ回復魔法をアフロ様に狙ってだせない。
もっとも、賢者様レベルの魔術なら、目視だけで魔法を飛ばすこともできるが……。
「巨乳僧侶ちゃんは、ちょっと黙っててね~」
サーラはそう言いながらアフロ様を、ドガッドガッと踵で踏みつづける。
「ぐあぁあぁぁ!」
「……汚え」
「ぎゃぁぁあぁ!」
「男の悲鳴は汚いな……とどめだ」
鎌を振りあげたサーラ。口の端から鋭い牙がこぼている。
そのとき!
「エクスプロージョン!」
と、詠唱したミルクちゃんの手から、一筋のキラキラと輝く螺旋がサーラの身体にまとわりついた。
ん? と唸ったサーラだったが、次の瞬間、ドォン!
爆発に巻きこまれた。
もくもくと、ドス黒い墨のような煙幕が立ちこめ、サーラは見えなくなった。だが……。
「くっくっく……」
という冷酷な笑い声が響く。
バッと煙が霧散すると、白い肌をしたサーラが現れた。
まったくのノーダメージだった。
サーラは褐色の魔法バリアに守られている。まずこれをなんとかしないと、攻撃魔法は効かないのだろう。となると、残るはアーニャさんの剣撃だけが頼りだ。
するとそのとき!
アフロ様は、サッと手を伸ばすとサーラの足を掴み、そのままひねった。
「おっとと……」
そう漏らしたサーラは横倒しに転び、持っていた鎌が鈍い金属音とともに落ちた。すると、すぐに立ちあがったアフロ様は、ガッと鎌を蹴って壁際に滑らせた。次に、剣を握って薙ぎ払おうと霞に構えたが、サーラの姿はもう消えていた。
「アフロ、上だっ!」
アーニャさんの大きい声がそう告げた。
見上げるアフロ様は瞳を開いて驚愕しつつ、剣を頭上に掲げて防御する。虚空では、サーラが褐色の魔法陣を展開していた。すると、みるみるうちに瓦礫が吸い寄せられ、黒い鎖が完成した。
「やっぱり縛って殺るか……」
サーラはささやくように言うと、腕を降りさげた。
「うわぁぁぁっ!」
悲鳴をあげるアフロ様。
鎖にぐるぐる巻きに緊縛されてしまう。
( これほどまで戦闘力に差が? )
やはり、悪い予感は的中した。
逃げるべきだったんだ。わたしたちは……。
「アフロ様ぁ!」
ミルクちゃんが叫んだ。
「よくも、アフロをっ!」
ギリッとサーラをにらみつけたアーニャさんは、剣を地に構えると駆けだす。
一瞬でサーラに対峙すると、剣を乱れ打ち。
カンカンカン、と高い音をあげて、大きな鎌を装備するサーラは、アーニャさんの斬撃を防御していた。その表情は楽しそうで、場違いなほど浮かれているように見えた。
「フハハハ、元気のいい人間の女たちだ……」
「うるさいっ! 死ねっ、悪魔っ!」
アーニャさんがそう言い放つと、正眼の構えから剣を大きく降った。
斬撃はちょうど鎌の刃を通り抜けてサーラの腕をかすめる。すると、タラーと赤い血が流れ、サーラは不敵に笑ったが、すぐに「ヒール」を詠唱すると、傷を癒した。
「イケナイ猫ちゃんだ。我の身体に傷をつけるとは……これはお仕置きだな」
ゆっくり歩いてくるサーラの背後から、禍々しい青と黒のオーラがあふれた。
アーニャさんは、思わず、後退りした。すると……。
「くらえっ! インフェルノぉぉぉ!」
ミルクちゃんの詠唱とともに、巨大な火球がサーラに撃ちこまれた。
ん? と目を剥いたサーラ。
火球に飲みこまれ、その姿が火炎に包まれた。
「やった!」
アーニャさんが歓喜の声をあがる。
しかし、ミルクちゃんの唇は震え、
「いいえ……」
と漏らしつつ、ガグガグと揺れる膝から崩れ落ちた。
グゴゴゴ、と燃えがる赤と黒の煙幕から、ゆっくりと歩くサーラの姿が現れた。相変わらず、不適な笑みを浮かべて、
「犯しがいのある女たちだ……」
とささやくサーラは、すっと腕を伸ばした。
褐色の魔法陣から、例の鎖が飛びあがる。
「きゃあっ」
「ぁあっ」
二人は、わたしのように鎖で、ぐるぐると巻かれ、緊縛されてしまった。
サーラは、「あはは」と笑いながら歩き、
「元気のいい人間の女は大好きだ」
と、ささやくサーラの口の端からは、ギラリと鋭い牙が露見していた。
( ラクトくん、助けて…… )
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